NHKは本日5月26日(月)より、渋谷のNHK放送センター 正面玄関ロビー(西口)にて、毎年恒例の技術展示会「NHK TECH EXPO 2025」を開催中だ(~5月28日「木」)。これは、NHKの各現場で考案されたアイデアを形にしたもので、今年は3つのゾーンに20の展示が展開されている。ここでは、記者が気になったもの、NHKおススメのものをメインに紹介したい。

●01 「電子メモツール」
 タイトルからは、社内テキスト共有システムのような印象も受けるが、簡単に言ってしまうと「デジタルカンペ」というもの。放送の制作現場では、番組スタッフから出演者への指示、情報共有の目的で手書きの大判メモ=カンペをこれまで使ってきたが、迅速な情報共有、時間短縮、コスト削減などの観点からこれをデジタル化したのが、この電子メモツールとなる。メイン端末(パソコン)で必要なメモ(カンペ)を作成(入力)し、それを出演者へ画像(手前に置いてあるタブレット端末へ表示する)で送付するというもの。ネットワークを通じて送信できるのが特徴で、これまでは1対1、あるいはその場でしか指示が出せなかったが、このツールを使うと遠隔地への伝達も可能になる。たとえばスポーツ中継などでは、試合会場のスタッフに、放送ルームのスタッフからの指示が送れる、という具合だ。指示内容の修正、保存、順番の入れ替えなども簡単に行なえる。

画像1: 番組制作の現場から生まれた便利アイテム・アイデアを形にした「NHK TECH EXPO 2025」、5月28日まで開催中
画像: 電子メモ(カンペ)の作成画面

電子メモ(カンペ)の作成画面

06 「ネットワークカメラ映像伝送BOX」
 これは、事件・事故・災害など、現地からの素早い映像の伝送を可能にするシステム。キャリーケースの中に、映像伝送に必要な機材が詰め込まれており(写真はLTEを使用するタイプ)、カメラを組み合わせれば即、現場の映像が伝送できるようになる。一応、電源の取れない場所用に専用のバッテリーケースも用意されている光回線も使えるそう。ニュース用というよりも、定点映像という使い方のようだ。組み合わせるカメラには、PTZカメラ(遠隔操作できるカメラ)、ロボットカメラ、IPカメラなどが選べる。

画像2: 番組制作の現場から生まれた便利アイテム・アイデアを形にした「NHK TECH EXPO 2025」、5月28日まで開催中
画像: キャリーケースの中身

キャリーケースの中身

画像: 本システムのプロトタイプとして「与那国空港」に設置されているシステム。タイムラグは3秒ほどあるが、カメラ操作も可能

本システムのプロトタイプとして「与那国空港」に設置されているシステム。タイムラグは3秒ほどあるが、カメラ操作も可能

画像: バッテリー

バッテリー

09 「テレビ開票速報 自動読み上げシステム」
 これはタイトルの通り、選挙の開票結果を伝えるニュースにおいて、当落の結果を自動的に読み上げてくれるもの。テレビ用の結果表示画面(選挙ディスプレイ作画装置)と、ラジオ用の得票数自動読み上げ装置を連携させたテレビ用のシステムとなるが、単純に組み合わせるだけではうまくいかなかったそうで、本システム用の最適化が行なわれているという。従来、開票結果の読み上げは、深夜帯のニュースであっても、アナウンサーがリアルタイムで何度も読み上げていたそうで、そうした作業を軽減(労働時間の短縮という要素も)するために考案された、ということだ。

 しかし、その裏側ではかなりの労力がかかっており、特に人名の読み方は難しくて自動化できないことから、事前にすべての候補者の読み上げを(所属政党や現役・新人などの付帯情報についても同様)、一人のアナウンサーが行ない、それを録音しておいて、ニュースで流すそう。得票数については、●万、●千、●百、といった位ごとに1~9までの数字の読み上げを録音しておいて、数字(得票数)に合わせてあたかもリアルタイムで読み上げているように組み合わせているのだとか。特に深夜帯ニュースでの活用が進んでいるという。昨年の衆議院選挙に続いて本年も夏の参議院選挙で運用予定という。

画像3: 番組制作の現場から生まれた便利アイテム・アイデアを形にした「NHK TECH EXPO 2025」、5月28日まで開催中

12 「定点カメラ・地表探査ローバーで西ノ島の謎に迫る」
 去る2013年に噴火が始まり、それがいまだに続く西ノ島を観測するためのシステム。噴火によって島の生態系が死滅したことを受け、「今後、どのように生態系が生まれるのか?」を探査することが目的となる。島は今なお立ち入りが禁止されているので、定点観察用のカメラ(三脚仕様)はドローンで島に設置されるという。ドローンの積載能力に合わせてシステムは5kg以内に抑えられている。

画像: ドローンとカメラ(+三脚)。島には立ち入りができないため、ドローンを使って定点カメラを設置する。通常のカメラや360度カメラなどがある。頻繁に回収できない(10日ほど設置しっぱなしになる)ので、撮影インターバルは比較的長め。噴火しても鳥は逃げない(音に驚かないのか?)、渡り鳥に運ばれてきたシラミバエが繁殖している、などが分かった

ドローンとカメラ(+三脚)。島には立ち入りができないため、ドローンを使って定点カメラを設置する。通常のカメラや360度カメラなどがある。頻繁に回収できない(10日ほど設置しっぱなしになる)ので、撮影インターバルは比較的長め。噴火しても鳥は逃げない(音に驚かないのか?)、渡り鳥に運ばれてきたシラミバエが繁殖している、などが分かった

画像: 地表探査用のローバー(車両)。軽くするためにタイヤは発泡スチロール(すぐに交換できる)

地表探査用のローバー(車両)。軽くするためにタイヤは発泡スチロール(すぐに交換できる)

13 「ちるるアニメーター!」
 これは、NHK総合で毎週土曜朝に放送している「週刊情報チャージ!チルシル」のマスコットキャラクター「ちるる」を動かすためのシステム。一見、バーバママに見えなくもないが(笑)、まあそれはさておき、実はこのキャラクター3人でリアルタイムに操演しているという。一人はキャラクターを動かす人、一人は声の担当(みちょぱ/リップシンクはオート)、一人は表情を操作する人とか。動かす人は写真のようにwebカメラの前に立って、必要な動作をリアルタイムに行なっている。声は要はアテレコ。表情は写真のボタンを押すとリアルタイムに反映される。ソフトなどはほぼ内製といい、必要なデバイスを揃えて完成したという。

画像: 現場では写真のように着ぐるみ操演の人(プロ)がちるるを動かしている

現場では写真のように着ぐるみ操演の人(プロ)がちるるを動かしている

画像: 表情は写真のコントローラー(9種類の表情がプリセット)を使ってリアルタイムに操演している

表情は写真のコントローラー(9種類の表情がプリセット)を使ってリアルタイムに操演している

14 「AI自動スイッチングシステム『SWARTA』」
 生放送のトーク番組などを対象に、スイッチング(画面の切り替え)を自動的に行なってくれるシステム。主に長時間におよぶ番組を想定しているそうで、紅白の裏トーク番組など、3、4時間続くような場合、スイッチャーの手間を軽減するものとなる。NHKでは本日のニュースリリースで、放送局データを用いた大規模言語モデル=LLMを開発について発表しているが、本システムではこれを使い、出演者の会話をリアルタイムで文字起こし、映像をAIで解析してトーク内容とのリンクを判定、この二つを組み合わせて、トークの内容に即した映像(人物・物)に画面を切り替えて(スイッチング)くれるものとなる。

画像4: 番組制作の現場から生まれた便利アイテム・アイデアを形にした「NHK TECH EXPO 2025」、5月28日まで開催中

17 「MRcast」
 MRデバイス(ヘッドマウントディスプレイ)を装着して、空中に出現するMR映像を装着者が手で自由に動かして、周囲の人はその様子をモニター越しに見られる(体感できる)というもの。MRデバイスを装着していなくても、MR映像が見られるのが特徴で、スタジオに持ってくるものが難しい美術品(別途、3Dモデリングが必要になるが)などを扱えるようになる。

画像: MR映像には埴輪が表示されていて、MRグラス装着車はそれを手で自由に動かしていて、周囲の人はそれをモニター越しに確認できる、というもの

MR映像には埴輪が表示されていて、MRグラス装着車はそれを手で自由に動かしていて、周囲の人はそれをモニター越しに確認できる、というもの

18 「VR球体型ディスプレー」
 読んで字のごとくの内容(笑)。球体の照明器具(?)の一部分を切り取り、内面に魚眼レンズを装着したプロジェクターで360度映像を投写する、というシステム。たとえれば、プラネタリウムを外側から見ているようなもの。360度映像を立体的に見られるようになる。開発は盛岡局で、実際に企画展などで実演したそう。

画像5: 番組制作の現場から生まれた便利アイテム・アイデアを形にした「NHK TECH EXPO 2025」、5月28日まで開催中
画像: 球体の裏側? 球体の一部分が切り取られている

球体の裏側? 球体の一部分が切り取られている

画像: 使用しているプロジェクターはレンズ交換不可なので、専用の治具を作り、レンズ前面に魚眼レンズを接写している

使用しているプロジェクターはレンズ交換不可なので、専用の治具を作り、レンズ前面に魚眼レンズを接写している

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