finalは、明日からステーションコンファレンス東京で開かれる「春のヘッドフォン祭 2025」で展示予定のDITAブランドの新製品についての事前説明会を開催した。
今回はDITAの開発・製造を手掛けているProject Perfection Pte.Ktd.のDanny Tan氏も来日しており、新たなフラッグシップモデルとして現在も鋭意開発中の「VENTURA」と、エントリーモデル「PRELUDE」の2モデルについて詳しい解説を聞くことができた。

Project Perfection Pte.Ktd.のDanny Tan氏
Danny氏によると、2020年前後のコロナ禍の時期に現行フラッグシップの「PRELUDE」を開発していた。その後コロナ禍も開けて多くの人が旅行や出張で出かけるようになった。そういった新しい体験とともに使ってもらえる製品として「VENTURA」を発想したという。
これまでのDITAフラッグシップは、初代モデルの「DREAM GEN.1」でチタンシェルの鋳造を採用し、深いベースの表現を実現。音響チャンバーのサイズと搭載された10mmドライバーユニットが特長だった。続く「DREAM XLS」ではデザインをクリーンナップし、シャープなフォルムとなった。より広いサウンドステージをコンセプトに、マルチレイヤーコンストラクションも採用されている。

「VENTURA」
2023年に登場した「PERPETURE」では、DREAM GEN.1のゆるやかな曲線とDERAM XLSの直線を組合せた有機的なデザインを採用。DREAM XLSと同様のマルチレイヤーコンストラクションを採用している。DITAではブランド誕生以来フラッグシップモデルはわずか3機種しか発売しておらず、Danny氏も、「フラッグシップモデルは開発に時間がかけられるので楽しいです。DITAの音が届けられるよう、ひとつひとつのモデルをていねいに作ってきました」と話していた。
その第四世代フラッグシップとなるVENTURAは、上記3モデルの特長を兼ね備えたという。本体はチタンを切削したパーツを使い、マルチレイヤーコンストラクションで組み上げられている。ドライバーにはこれまで同様にフルレンジのダイナミックドライバーを1基搭載。前モデルのPRETUREと同じく12mmサイズだが、VENTURA用に新たに開発したユニットだ。

「V4ドライバー」の構造
ちなみにDITAのイヤホンにはフルレンジドライバーが採用されているが、これは、ひとつのドライバーで全帯域を再生した方が位相の問題などが発生せず、自然な音を楽しめるからという考えからとのことだ。広帯域を再生するためには複数のドライバーを組み合せた方が技術的には作りやすいが、その場合は位相の調整やインピーダンスマッチングが必要になる。そういった点も選択理由のひとつになっているようだ。
VENTURA用に新開発されたのはV4ドライバーで、Danny氏によると、「かなり複雑な構造になりました」という。そのV4ドライバーは19個のピースで構成されている。まず振動板は。チタンとセラミックのコンポジット素材をベースに金蒸着を施した。金蒸着をしたことで、中域に温かみがでたという。この振動板をダブルマグネットによる強力な磁力で安定駆動している。
さらに、マグネット背面に4つのバッフルを設けているのが特長だ(V4という由来はここに由来する)。これまでのドライバーでは、ある帯域を調整したいと思ってエンクロージャー内の空間(容積)を調整すると、どうしても他の帯域に影響が出てしまったそうだ。

しかしV4ドライバーでは、4つのバッフルの開口部の大きさやそれぞれの空間の容積を変更できるので、狙った帯域の調整がしやすいそうだ。なお、バッフルが4つなのは試行錯誤の結果と、作りやすさを考えてのこと。最終的にこれらのパーツを真鍮のハウジングに収めているが、構造の複雑さもあってV4ドライバーは厚さが7mmになったという。
VENTURAは、このV4ドライバーを含めた8つのパーツを組合せたマルチレイヤーコンストラクションを採用しており、それらのパーツの素材にはチタンが採用されている。Danny氏は、「チタンは音の特性がいいし、金属アレルギーがない、軽いといった点から採用しています。硬いので切削はひじょうに難しいのですが、装着性も考えて選んでいます」と話していた。


「VENTURA」は8つのピースで構成されている
なおVENTURAは先に書いた通りまだ開発中で、今回展示されるのは8つの部品すべてにチタンを使っているが、このうちひとつを別の金属にすることも検討しているそうだ。また付属ケーブルの素材も未定という(展示モデルのコネクターは4.4mmバランスだった)。その点を含めて音作りを追い込んでおり、日本での発売は7月頃になるという。価格は4000〜5000米ドルの見込み。
VENTURAでは、DREAM GEN.1の精細さとDREAM XLSのサウンドステージ、PERPETUREの自然さを備えたものを目指しているそうで、「VENTURAはこれまでのフラッグシップの魅力をすべて盛り込んで、さらに上のクォリティを目指しました。ひとつのダイナミックドライバーでこれだけの再現ができたのは初めてです」とDanny氏も話していた。

「PRELUDE」と付属のUSB Type-Cアダプター
PRELUDEは、より手軽な価格で上位機種に迫るクォリティを実現したエントリーラインだ。DITAの音をもっと手軽に楽しみたいという海外からの要求を受けて開発に着手したという。新規開発された10mmのフルレンジダイナミックドライバーを搭載。振動板は中央部にPU(ポリウレタン)、エッジ部にPTを使った複合素材で、V4ドライバーの技術を継承し、ふたつのバッフルを備えている。
本体はアルミ素材を組合せたマルチレイヤーコンストラクションで、3つのピースで構成される。ケーブルのコネクターは3.5mmタイプだが、USB DACとアンプ機能を内蔵したUSB Type-Cアダプターも付属しているので、スマホやPCとつないで楽しむこともできる。

左が「PRELUDE」で右が「VENTURA」。本体の厚みなどはやや異なる
「金属の選択、コーティングなどにDITAの強みや技術を盛り込んだ製品です。でも価格は抑えています」(Danny氏)とのことで、価格は160〜170米ドルになるようだ。日本では6月頃の発売を予定している。
PRELUDEをMacbook Airにつないでハイレゾ音源を再生してみた。Macbook Airの3.5mmヘッドホン端子につなぐと、クリアーでくっきりしたサウンドが再生された。弦楽器の響きも豊かで空間も自然に広がる。USB Type-Cアダプター経由では、楽器のディテイルが浮き立ってきて、よりなめらかな印象で楽しめる。DITAらしさを持ちながら、同時にキレの良い表現も楽しめる身近なイヤホンとして、人気を集めるだろう。