映画『セブン』を初めて見たのが渋谷だったか、有楽町だったか、正直覚えていない。友人から、とにかく予備知識を持たずに見に行けと言われ、上映タイミングのいい劇場を選んだはずだ。鑑賞後は(当然ながら)とんでもない衝撃を受けてしまい、仕事も手につかなかったことは覚えている。
『セブン <4KULTRA HD&ブルーレイセット> (2枚組)』¥7,480(税込)

●本編約127分(映像特典約112分)●1995年・カラー●2枚組●片面3層●シネマスコープサイズ/16×9LB●映像圧縮方式:HEVC●音声:DTS-HD MA5.1ch(英語)、ドルビーデジタル2.0ch(日本語)、ドルビーデジタル1.0ch(日本語、3バージョン)、ドルビーデジタル1.0ch(英語、4バージョン)
※DISC1映像特典:音声解説(1.監督&キャストによる音声解説、2.ストーリーについて、3.映像について、4.音について)、未公開映像集、未公開映像集音声解説付、もうひとつのエンディング、プロダクション・デザイン、スチール・コレクション、プロモーション用映像、ホームシアター向けマスター制作作業、マルチアングルでみるオープニングタイトル、他
https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=2990
その後本作は、LD、DVD、ブルーレイといった家庭用パッケージでもリリースされ、特に海外盤LDはその高画質・高音質が注目を集めたこともあり、取材のリファレンスとしてヘビーローテーションすることになった。特にフィルム撮影の技法のひとつである「銀残し」を使った “深みのある黒” がどのようにブラウン管テレビや3管式プロジェクター(当時はこれらがホームシアターの主役だったし)で再現されるか、かな〜りこだわったわけです。
そんな衝撃作が、遂にUHDブルーレイで登場した。しかも堀切日出晴さんの記事によると、スーパー35オリジナルネガを8Kでスキャン、1年という時間をかけてレストア作業を行ったという。そこではデヴィッド・フィンチャー監督自身の指示により、ノイズや画角だけでなく、フォーカス感の調整まで行われたというから、まさに今回のUHDブルーレイこそ監督の意図した “最終形態” と呼んでいいのだろう。
※堀切さんによる、とにかく深い考察記事はこちら。ぜひ熟読ください!
その映像をわが家のプロジェクター、ビクター「DLA-V900R」で再生してみると、これは確かに別物だ! フィルムっぽさはあるけれど、グレインは控えめで、画面全体の抜けがいい。もともと暗いシーンが多い作品なのだけど、HDRの使い方がすばらしいこともあり、警察署の室内などコントラスト再現がとにかく凄い。フィンチャー監督が狙っていた “銀残しの黒” というものを、劇場公開30年目にして初めて体験できた気がする。
LD時代によくチェックしていたチャプター22、ミルズ(ブラッド・ピット)とサマセット(モーガン・フリーマン)がジョン・ドウ(ケヴィン・スペイシー)のアパートを訪れるシーンから、続く銃撃、屋外への逃亡という一連のシークエンスは、色調を抑えたカットが続くが、そこでの黒の美しさ、雨に濡れた衣装や車の光沢の再現など初めて目にする感覚になる。あの逆光の中にこれだけの情報があったとは!
ちなみにプロジェクターは画質モード「Frame Adapt HDR」で、LDパワーは「37」まで落としている。他にも微調整してそれなりの画質に追い込んでいるつもりなんだけど、ビクターの担当者からは “壁の反射対策を徹底すればもっとコントラスト再現がよくなりますよ” と言われている。そうなったらこのシーンはどんな映像になるんだろう?

ブルーレイ(左)とUHDブルーレイ(右)の2枚組。ブルーレイは2010年発売時と同じ仕様だ
一方のサラウンドは、DTS-HDマスターオーディオ5.1ch収録。最近のハリウッド作品のような派手さはないが、実体感がありつつ、同時に細かい音もひとつひとつていねいに描き出している。本作の演出で欠かせない降りしきる雨の音も、違和感なく見る人を包みこんでくれる。DTS-HDマスターオーディオらしい濃密さも感じ取ることができた。
チャプター22では、廊下の先に現れたジョン・ドウを見つけたサマセットが「ミルズ」と呼びかけるが、その声に込められた緊迫感、続く銃声、ガラスの割れる音、警報などがいずれもリアルに響いてくる。先述したコントラストに優れた映像と相まって、よく覚えているシーンにも関わらず改めてスクリーンに見惚れてしまった。
ちなみに2010年に発売された本作のブルーレイは、映像圧縮はVC-1で、音声はDTS-HDマスターオーディオ7.1chという仕様だった(今回のUHDブルーレイに同梱されているものも同じ)。つまりUHDブルーレイでは、音声もミックスし直されていることになる。

UHDブルーレイには、過去のDVDやブルーレイ同様に豊富な特典映像が収録されている。中でも「ホームシアター向けマスター制作作業」は、オーディオデザイナーやカラリストが実際の作業の内容について解説してくれているので、オーディオビジュアルファンは必見です
今回同梱ブルーレイのチャプター22を同じ環境で確認した。映像では解像感はそれなりながら、黒が沈みがちで暗部情報の判別は厳しい(SDRだから当然だけど)。サウンド面では、銃声やセリフがUHDブルーレイよりやや派手な演出になっているようにも感じた。
堀切さんの記事によると、劇場公開時にもサウンドデザインを担当したレン・クライスが今回の5.1chリミックスも行っているそうで、まさに家庭劇場にぴったりなサウンドに仕上がっていると思う。
『セブン』は、一度見たら忘れられない、映画史に残る名作といって間違いない。ヘビーローテーションをするのは正直しんどいが、その映像美と闇の深さから時折ディスクをトレイに乗せたくなる、そんな魅力を持っている。しかもこれだけのクォリティを備えた一枚となると、少し気が早いけど、今年一番のUHDブルーレイと出会ってしまったのかもしれない。(泉 哲也)
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