「不在者の生死が7年間不明な場合、失踪の宣告をすることができ、死亡保険金受取人は保険金を受け取ることができる」という法的事実を元に、小嶋貴之監督が、モラルぎりぎりのグレーゾーンで己の弱さの故に追い詰められていく男の姿を描くサスペンス映画『帰ってこなかった男』を制作。そのクオリティの高さに、3月28日より、セレクションに定評があるテアトル新宿、及びMOVIE ONやまがたで公開が始まった。
本作の初日舞台挨拶(3/28)に、不倫相手と共に妻の元夫の保険金を使うことを目論む夫・持田孝明役の卯ノ原圭吾、失踪から6年半経ち、保険金受け取りまで半年に迫ったタイミングで元夫に瓜二つの男に遭遇し、うろたえる妻・持田佳奈役の斎藤千晃、自分だけを愛して欲しいという一心で、孝明を振り回す岸本あゆみ役の実倉萌笑及び小嶋貴之監督が登壇した。
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ジーンシアターアンバサダーである、俳優・プロデューサーの下京が、本作がジーンシアターを運営しているジーンハートが初めて配給する映画という縁でMCを担当。
冒頭監督が、「私は失踪だとか、人が別れるだとか、人生の大きなイベントを題材にすることが多くて、失踪について面白いことはないか調べたら、“失踪宣言”という、『人が失踪して7年経つと、社会的に死亡扱いになって、かけられていた保険金がおりる』みたいな、モヤッとしたルールがあるというのが面白いと思いました」と本作の着想を説明。

不倫相手・あゆみと共に、妻・佳奈の元夫の保険金をベンチャー企業の資金として使うことを画策する夫・孝明を演じた卯ノ原が、「小嶋さんとは映画では4、5回やらせていただいているんですが、小嶋さんの作品だといつも僕の役はダメな奴なんですよ(笑)」と告白すると、監督は「そう見えるんですみません」と返し、会場は爆笑。卯ノ原は、「脚本のページをめくっていったら、3ページくらいですぐに、不倫してるんです(笑)」と、また笑いを誘った。卯ノ原は「普通に演じたらめちゃくちゃ嫌な奴になっちゃうと思ったんで、観客が感情移入できるよう、ちょっとアホっぽく演じました」と工夫について話した。
保険金受け取りまであと半年に迫ったタイミングで元夫に瓜二つの男と遭遇してしまう妻・佳奈を演じた斎藤について監督は、「斎藤さんは、少なくとも僕は嫌な感情を持ったことが一度もないくらい人が良い方なので、そういう人ほど、内面がわからないと面白いと思って、キャスティングしました」と説明。斎藤は、「ミステリアスな役は今までやったことがなかったので、嬉しいなっていうのが最初の感想でした。観客の皆さんに委ねるところが多々ある役だったので、私も卯ノ原さんと同じくフラットに演じました」と話した。
自分だけを愛して欲しいという一心で孝明を振り回すあゆみを演じた実倉について監督が、「僕も(あゆみのような)こんな人ではないなと思っていたので、『大丈夫かな、この役』と思っていました」と話すと、実倉は「真逆な役。自分とは360°違う」と言い、監督らが「戻っちゃった(笑)」と総ツッコミ! 実倉は言い直し、「180°違う印象だったので、あゆみと私を重ねるのに時間がかかったけれど、最終的に本物のあゆみ像を見つけられました。あゆみは強くて一直線で、素直じゃないんですけれど、素直でいようとするところが見どころ」と語った。また、「色んな女優さんの動画を見て“あざとい”を研究して、今回“あざとかわいい”学びました!」とアピールした。
最後に監督が、「47分という短い映画なんですけれど、いっぱい要素を入れています。例えば、ある人だけ鏡に映っていたりすることに意図があったりするので、そこから読み砕いていくと、真実に近づける映画になっています。1200円と安いので、また来てください」と観客にメッセージを送った。
映画『帰ってこなかった男』
テアトル新宿 ほかにて公開中 全国順次公開
【あらすじ】
元夫・由紀夫の失踪から6年半。保険金受け取りまで半年に迫った持田佳奈(斎藤千晃)と現在の夫・持田孝明(卯ノ原圭吾)は、保険金が入ることを疑わず、将来の計画を立てている。不倫をしている孝明は、会社を辞め、不倫相手・岸本あゆみ(実倉萌笑)らと設立するベンチャー企業に出資することにしていたが、ある日、佳奈がたまたま入った居酒屋で、由紀夫に瓜二つの男(宮本聖矢)に遭遇。
真っ青になる二人だが、追い討ちをかけるように、あゆみは、佳奈はそもそも本当に生命保険をかけているのかと孝明の気持ちを試す。さらに孝明は、怪しむ居酒屋の店長(米元信太郎)に、あゆみといるところを見られてしまい……。
果たして、「倉田」というネームプレートをつけた男は、由紀夫なのか? 二人は保険金を受け取れ、孝明は不倫がバレずに、保険金を出資に使えるのか?
<出演>
卯ノ原圭吾 斎藤千晃 実倉萌笑
小幡貴史 松本響 島林瑞樹 八木亜希紗 鐘ヶ江佳太 佐藤達也
宮本聖矢 米元信太郎
<スタッフ>
監督/脚本/編集/製作:小嶋貴之 撮影監督:Keisuke Mizushima 照明:Jun Hirota 録音:Jo Terauchi 美術:Hibiki Matsumoto メイク:大島美保 撮影助手:白井絢香 助監督:宇津野竜輔、革崎文 制作進行:大塚勝彦 制作助手:山口正弘 美術助手:宮本聖矢 整音:浦本和宏(コサエルクリエイティブ) 音楽:Shizuka Kanata 配給:ジーンハート
2024年/日本/カラー/シネマスコープ/ステレオ/47分