4K UHD BLU-RAY REVIEW:PANIC ROOM
タイトル | パニック・ルーム |
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年 | 2002 |
監督 | デヴィッド・フィンチャー |
製作 | セアン・チャフィン ジュディ・ホフランド デヴィッド・コープ ギャヴィン・ポローン |
脚本 | デヴィッド・コープ |
撮影 | コンラッド・W・ホール ダリウス・コンジ |
音楽 | ハワード・ショア |
出演 | ジョディ・フォスター フォレスト・ウィテカー ジャレッド・レトー クリステン・スチュワート ドワイト・ヨーカム パトリック・ボーショー イアン・ブキャナン アン・マグナソン アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー ポール・シュルツ |
声の出演 | ニコール・キッドマン |

4K SCREEN CAPTURE
Title | PANIC ROOM |
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Released | Aug 27, 2024 (from Arrow Video) |
Run Time | 1:51:57.710 |
Packaging | SteelBook, Inner print |
Codec | HEVC / H.265 (Resolution: Native 4K / DOLBY VISION / HDR10 compatible) |
Aspect Ratio | 2.39:1 |
Audio Formats | English Dolby Atmos (48kHz / 24bit / Dolby TrueHD 7.1 compatible), English DTS-HD Master Audio 5.1 (48kHz / 16bit), French DTS-HD Master Audio 5.1, German DTS-HD Master Audio 5.1, Italian DTS-HD Master Audio 5.1, Spanish: DTS-HD Master Audio 5.1, Spanish Dolby Digital 5.1, Thai Dolby Digital 5.1 |
Subtitles | English SDH, French, German, Italian, Portuguese, Spanish, Arabic, Danish, Dutch, Finnish, Korean, Mandarin (Simplified), Norwegian, Swedish, Thai, Turkish |
Video Average Rate | 73763 kbps (HDR10) / 2106 kbps (DOLBY VISION 28.6%) |
Audio Average Rate | 3743 kbps (Dolby Atmos / 48kHz / 24bit / English), 2191 kbps (DTS-HD Master Audio 5.1 / 48kHz / 16bit / English) |
作られた目的はただひとつ。決して誰も侵入させないこと ー。
メグ・アルトマン(ジョディ・フォスター)は自分と娘サラ(クリステン・スチュワート)のために、マンハッタンでもっとも高価な4階建てのブラウンストーンを購入する。メグは離婚したばかり。浮気した元夫の財布に打撃を与えるのも目的のひとつだ。この広く、豪華な邸内には奇妙な設備があった。セーフ・ルーム、別名パニック・ルームである。前の住人であった富豪が設けたこの部屋は、事実上侵入不可能な防犯用のシェルターであった。メグとサラが越してきた夜、3人組の族(フォレスト・ウィテカー、ジャレッド・レトー、ドワイト・ヨーカム)が邸内に押し入ってきた。彼らの目的は富豪の隠し財産。追い詰められたメグとサラは、間一髪、パニック・ルームに逃げ込むが・・・。

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1995年に救いようのない終末論感覚のスリラー『セブン』を放って以来、監督デヴィッド・フィンチャーは緻密なディテイル、重苦しいムード、ときに虚無主義的な作風で多くの映画ファンを魅了してきた。そしてプロジェクトの度に、プリプロダクションから撮影、ポストプロダクション、劇場公開、そして最終的には観客が自分の映画をどう受け入れるか、あるいは受け入れるべきかという考察に至るまで、常に最大限のコントロールを求めて続けている。本作品ではクランクインまもなく、メグを演じていたニコール・キッドマンや撮影監督ダリウス・コンジ(『セブン』)の途中降板などのトラブルに見舞われたものの(舞台裏のドラマはさておき)自らの作家主義にすべてを従わせることができる監督であることを証明してみせた。そうした意味でもフィンチャー・フィルモグラフィの中で重要な作品であり、いまだに高い評価を受けていることにも頷けよう。パニック・ルームには、監視カメラ、放送システム、個別の電話回線といったセキュリティ・システムが備わっており、そのため本作品をボードゲームやビデオゲームのように展開させている点も興味深い。観客は、母娘と3人組、その両方の側から対戦する相手の動きを見ることができる仕組みだ。両者の対立が激化するにつれ、母娘の絆が強くなる一方で、3人組の絆は弱まっていく。フィンチャーは「シンプルなポップコーン映画」と語っているが、全編を貫く緊張感の純度は極めて高い。

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ダリウス・コンジからバトンを受けた撮影監督は、名撮影監督コンラッド・L・ホールの息子コンラッド・W・ホール。ARRIアリフレックス35-Ⅲ、パナビジョン・パナフレックス・ミレニアムほか、3パーフォレーションのスーパー35方式/球面PRIMO光学シリーズのプライム・レンズ撮影/1.37:1収録/2.39:1フレーミング作品(PRIMOプライムはT1.8~T1.9の均一な明るさを備えた高コントラスト・高解像度な単焦点レンズ)。撮影監督ロジャー・ディーキンスが『オー、ブラザー!』で長編映画史上初のデジタルインターミディエイト(DI)に着手したのが2000年となるが、フィンチャーもデジタル領域で視覚効果などの処理を行うため、DIテクノロジーを取り入れて2K DIマスター(8ビット処理)を生成している。だがご存じのように黎明期の2K DI/8ビット・マスターはアーティファクトなどの諸問題を抱えており、本作品の2K DIマスターも例外ではなかった。さらに複雑な光学処理プロセスに伴う、世代間の解像度ロスという問題も抱えている。そこでソニー・ピクチャーズ(SPE)は35mmオリジナルネガに立ち戻って4Kスキャンを実施。可能な限り4KスキャンDPXファイルを採用し、オープニングタイトルや視覚効果ショットを2K DIからアップスケールしている。だが当時ポスプロで、フィンチャーが行った視覚効果は大小合わせて無数に存在しており、ブラウンストーン内のローライトレベル下では解像感劣化が目立ち難くなるものの、4K UHD BLU-RAY化では新たな4Kスキャン画像との整合性を取るために苦慮したと思われ、その痕跡も数多く存在する。

HD STREAM

4K UHD BLU-RAY
本作品の4K UHD BLU-RAY化がアナウンスされたのは2018年。フィンチャー全面監修のもと2022年に作業が始まり、およそ2年の歳月をかけて完成の運びとなったが、これはフィンチャーの完全主義によるものだ(フィンチャーが最終承認)。ネイティヴ4Kとアップスケール4K画像の画調統一。4K UHD『セブン』同様のリフレーミング、背景テクスチャや被写体ディテイルの変更(一例:写真上の缶の向き)さらには球面レンズ撮影作品ながらアナモフィックレンズ特有のフレアの再現など、多岐にわたるデジタル処理を視認できるはずだ。本作はBLU-RAYリリースされていないため、HD配信画像との比較しかできないが、明らかにディテイルが際立っている。一方で、ノイズ除去、エッジ強調、平滑化を目的としたフィルタリングの弊害も散見。視覚的な障害になるほどの大袈裟なものではないが、重箱の隅をつつくように鑑賞される向きには厄介な問題となろう。

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フィンチャーは登場人物たちを引っ越し用の荷造り箱の重ねられた殺風景な室内という、重苦しく湿った暗闇の中に閉じ込めている。そのブラウンストーンのセットはLAローリー・スタジオ敷地内のサウンドステージ上に建てられ、およそ7億円の予算を投じた極めて精密な建造物であった。もうひとりの主人公パニックルームは、6フィート(1.8メートル)✕14フィート(4.3メートル)のサイズで、さまざまな角度から撮影可能なのように3つのバージョンの部屋が作られている。この美術セットでフィンチャーは「恐怖感を高める暗闇」を生成するため、可能な限り照明を控える指示を与えている(当初映画の前半をほぼ完全な暗闇で撮影する予定だった)。そのため本作品はノーライトルックと呼ばれるシネマティックスタイルで知られており、フィンチャーやホールが求めた暗鬱で湿性な暗いトーンが際立っている。これはフリッカーレスバラストを搭載したキノフロ社バランス蛍光灯を用い、柔らかく薄暗いローライトレベルのライティングによって生成されたものだ。カポックでバウンスさせた光のようでもあり、ソフトボックスでディフューズしたタングステンライトのような光彩も表現する。この調光操演を再現するにあたり、HDR(HDR10/ドルビービジョンHDR)の恩恵は絶大だ。SDRの配信映像では到達し得ない明暗の再現力が、ここにある。

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賛否が分かれそうな映像に対して、サウンドは文句ナシの一級品。オリジナルDTS-HDマスターオーディオ5.1(16ビット/初のロスレス化)と最新リミックス・ドルビーアトモス・サウンドトラック(24ビット)を収録。ここでは本作品の音響エンジニアである、『セブン』などフィンチャー作品でお馴染みのレン・クライスが最終承認した後者を特薦としたい。クライスは、スカイウォーカーサウンドやミット・アウト・サウンド、著名な映画賞受賞監督との仕事で知られる音響エンジニア(サウンドデザイナー)だが、ことにフィンチャーの御用達であり彼の映画にとって欠かせない存在である。フィンチャーの完璧主義に匹敵するサウンドデザインは、映像と同期して補完するだけでなく、ドラマの起伏に対する緻密な音づくりによって1音1音を紡ぎ上げている。舞台設定がブラウンストーンに限られる本作品で、クライスはフォーリーワークのほとんどをセット内で録音。その目的はまず、ブラウンストーンの音響特性を捉えて視覚的外観と正確にリンクさせること。そしてより複雑で階層化されたサウンドを生成しながら、パニック、孤独、そしてストレートな恐怖という心理状態を表現するためである。

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週末ごとに(クライスは)実際に撮影していたセットで、あらゆる効果音やハードエフェクトをすべて録音していた。彼はひとりで窓を開けたり閉めたり、ガラスを揺らしたりしていた。彼は録音に熱中していたが、試聴するとフェイクのものよりはるかに良い音がする。とにかく、大変な作業だった。デヴィッド・フィンチャー

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本作品の脚本は不条理な犯罪ユーモアにあふれ、ポップカルチャーの引用も満載、休みなく流れるような独特のリズム感がある。申し上げるまでもなくキャスト陣は素晴らしい才能に溢れており、その台詞回しは明晰で、存在感があり、独特の音楽性を持つ。だが決して心地よく聴こえないのは、パニック・ルーム内はもちろんのこと、ブラウンストーン内の発声には微少ながら耳障りな残響(フラッターエコー)が付加されているからだ。この残響もクライスがセット内で録音した自らの発声に残されていたもので、パニック・ルームやブラウンストーンの空間再現のために応用されている。シーンごとに残響周波数や分量を調整された発声は、パニック・ルーム内では意図的に拡張され、ルーム外の空間では空っぽのブラウンストーン全体に響き渡り、画面上のサウンドステージだけでなく廊下や各階にも響き入っていく。こうしたノイズ操演は多くの場合、視覚的外観や登場人物の心理とリンクしており、不穏なムードや神経症的な緊張感を増幅してみせるのだ。

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前述したドルビーアトモス・サウンドトラックは、予想をはるかに上回る出来栄えだ。比較するロスレストラックがないため、SUPERBIT DVDを引っ張り出してDTS 5.1トラックと比較してみたが(当然ながら)明快かつ大幅なアップグレードを聴取できた。ベッドレイヤーの分解能、明瞭度、ダイナミックレンジは驚くべきものがあり、LFEも強化されている。フロントステージのバランスや定位も申し分なく、サラウンドチャンネルとの親和性も極めて高い。ブラウンストーンにはミニマルで絶え間ない環境音やノイズがあり、低音域では電気音の流れが常に存在しており、こうした効果音がサウンドステージ全体を満たす音響空間は究極的に心地いい。さらにオブジェクトの使用は全編に渡。3階建てのブラウンストーンの階上音(足音やトイレの流水など)、窓を叩く雨音や風音、屋外の雨音や交通騒音など、多層的に構築されたサウンドトラックによる没入度は極めて高い。プロパンボンベの爆発場面は間違いなくハイライトのひとつとなるが、実は静寂を伴ったシークエンスにアトモス・トラックの真骨頂があり、フィンチャーの狙い通りのサスペンス演出に浸ることができよう。

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ドルビーアトモスによる思わぬ収穫はハワード・ショアのスコアだ。すでにフィンチャー監督作『セブン』と『ゲーム』でスコアを提供しているショアだが、オーケストラを鈍器のように使い、音楽というよりはノイズのように低音域を加えて、観客の根源的な感情を引き出してきた。とりわけ『セブン』で観客が受けた心理的トラウマは際立っていた。本作品では凝った演出や映像にざらざらした緊張感のあるオーケストラスコアで応え、マンハッタンのライフスタイルに存在すると思われる「快適さ」を打ち砕いてみせている。ノイズジェネレータとして使ったかのようなアンサンブルも興味深く、明快なモチーフに解き放つことはなく、低音域でのアンサンブルは緊迫感や恐怖を増幅する。バーナード・ハーマンを思わせる弦楽器のつま弾きと切り刻みのアイデアも披露されており、なかでも切り刻むバイオリンのモチーフのムードは、刺々しい不安感の前兆であり、母娘に危険が迫れば迫るほど弦楽器の単音の響きが顕著になる。こうした楽想の妙味旨味が、フロント、リア、トップスピーカーを通じて放たれ、観客は完璧なハーフドーム型の音彩によって浸食されていく。このアトモス体験が素晴らしく、本作品を鑑賞するすべての人にとって忘れ難いものとなるだろう。
UHD PICTURE - 4/5 SOUND - 5/5

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本版は4K UHD BLU-RAY(本編/特典未収録)BLU-RAY(アトモス未収録の本編/特典)BLU-RAY(特典)の3ディスクで構成されるが、 3つの異なるオーディオ コメンタリー・トラックを除いた特典映像は378 分に及び、さまざまな角度から本作の魅力を伝えている(オーディオ コメンタリーがUHD BLU-RAYに未収録なのは残念)。

4K SCREEN CAPTURE
SPECIAL FEATURES
BLU-RAY:DISC-2
- Audio Commentary featuring cast members Jodie Foster, Forest Whitaker and Dwight Yoakam
- Audio Commentary featuring director David Fincher
- Audio Commentary featuring screenwriter David Koepp
- Shooting Panic Room (1080i / 60, 53 min)
- Multi-Angle Featurette (1080i / 60, 39 min)
- The Testing Phase (1080i / 60, 17 min)
- Safe Cracking School (1080i / 60, 13 min)
- Creating the Previs (1080i / 60, 10 min)
- Make Up Effects (1080i / 60, 9 min)
- Easter Eggs (1080i / 60, 8 min)
- Real Safe Rooms
- Breaking the Mirror
- Previs Demo (1080i / 60, 4 min) with optional commentary
- Habitrail Film (1080i / 60, 1 min)
BLU-RAY:DISC-3
- Visual Effects (1080i / 60, 82 min)
- Introductions
- Main Titles
- Through Bedroom Door
- The Skylight
- The Big Shot
- Through the Railing
- Giant Dust
- Through Wall and Floor
- The Hose
- Propane Gas
- The Explosion
- The Flashlight
- Slow Motion
- X-Ray Floor
- Safe Shavings/Digital Squibs
- CGI Gun and Cell Phone
- Arm on Fire
- CGI Propane Tank
- Headwounds
- Fluttering Bonds and CGI Leaves
- CGI Fire
- Sequence Breakdown (1080i / 60, 75 min)
- The Phone Jack
- End of Junior
- Hammer Time
- Burnham Surrounded
- Sound Design (1080i / 60, 15 min)
- Scoring (1080i / 60, 13 min)
- Main Titles
- Sealing the House
- The Phone Call
- Altman
- Digital Intermediate (1080i / 60, 11 min)
- Super-35 Technical Explanation (1080i / 60)
- Trailers (HD, 1080i / 60)
When viewing this trailer, please set resolution to 1080p/HD
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