4K UHD BLU-RAY REVIEW:SE7EN
タイトル | セブン |
---|---|
年 | 1995 |
監督 | デヴィッド・フィンチャー |
製作 | アーノルド・コペルソン フィリス・カーライル |
製作総指揮 | ジャンニ・ヌナリ ダン・コルスラッド アン・コペルソン |
脚本 | アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー |
撮影 | ダリウス・コンジ |
特殊メイク | ロブ・ボッティン |
タイトルデザイン | カイル・クーパー |
音楽 | ハワード・ショア |
出演 | ブラッド・ピット モーガン・フリーマン グウィネス・パルトロー ケヴィン・スペイシー ジョン・C・マッギンレー リチャード・ラウンドトゥリー R・リー・アーメイ マーク・ブーン・Jr ダニエル・ザカパ アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー ジョン・カッシーニ ボブ・マック ピーター・クロンビー レグ・E・キャシー ジョージ・クリスティ リチャード・ポートナウ ハイジ・シャンツ エミリー・ワグナー リーランド・オーサー リチャード・シフ |
Title | SE7EN |
---|---|
Released | Jan 07, 2025 (from Warner Bros.) |
Run Time | 127min |
Codec | HEVC / H.265 (Resolution: Native 4K / HDR10) |
Aspect Ratio | 2.39:1 |
Audio Formats | English DTS-HD Master Audio 5.1 (48kHz / 24bit), Spanish Dolby Digital 5.1, Spanish Dolby Digital 2.0, French Dolby Digital 5.1. French Dolby Digital 2.0, German Dolby Digital 5.1, Czech Dolby Digital 2.0, Japanese Dolby Digital 2.0 |
Subtitles | English SDH, French, German SDH, Japanese, Spanish, Czech, Danish, Finnish, Korean, Mandarin, Norwegian, Swedish |
Video Average Rate | 70354 kbps (HDR10) |
Audio Average Rate | 4073 kbps (DTS-HD Master Audio 5.1 / 48kHz / 24bit / English) |
七つの大罪は、七人の死で完成する
3年と少し前、初の長編映画『エイリアン3』の監督を終えて、すべてに幻滅し、すべてに苦々しい思いをしていたデヴィッド・フィンチャーのもとに、1冊の刑事ドラマの脚本が届いた。脚本家の名はアンドリュー・ケヴィン・ウォーカー。彼のキャリアの出発点となる脚本である。退職間近のベテラン刑事と、血気盛んな新人刑事の前で、キリスト教の七つの大罪を基にした連続殺人が発生する。怨恨や欲望とは縁のない、まるでゲーム感覚の犯行。犯人が構築した理論そのものが動機であり、その実現のために殺人が重ねられていくのである。
それはペンシルバニア州郊外からニューヨークに引っ越してからの数年間、多発する犯罪の恐怖、疎外感や孤独感に苛まれたウォーカーの、ニューヨークでの生活の経験に基づいて形成されていた。出来すぎと言ってもいいほど、とてもよく練られた脚本であったが、当時のスタジオ関係者の誰もが、暗くて荒涼としていて成功するとは考えていなかった。スタジオ幹部はよりオーソドックスで、より楽観的な結末を望んでおり、このままでは別の脚本家に交代させられるか、プロジェクト中止のリスクを負う。そこでウォーカーは、スタジオの要求を満たすために、13回も草稿を書き直した。だがフィンチャーのもとに送られてきたのは、誰もが眉をしかめたオリジナルの第1稿であった。この大いなる手違いがなければ、『セブン』が生み出されることはなかったであろう。偶然にも『セブン』の脚本は添い遂げる監督を見つけ、不滅の映画への最初の重要な一歩を踏み出したのである。
2016 年春に4K UHDフォーマットが導入されて以来、このネオノワール・ミステリは、UHD BLU-RAYタイトルのリクエスト数で常にトップに君臨してきた。近々ではエンターテインメント・ウィークリー誌が、歴代犯罪映画トップ40 の中で本作を第 7 位に選出。英エンパイア誌は、ベスト殺人ミステリ映画トップ20に選出している。またIMDb.comではトップ20にランクインし続けている。思い起こせば、監督フィンチャー監修による 35mm ローコントラスト・プリントから生成された、クライテリオン・コレクション/5枚組CAVレーザーディスク・ボックスセット(1996)はディスク史上に残る名盤であった。それ以来、幾度かパーッケージ化されてはいるが、2010年のBLU-RAYリリースを最後にマスター制作も行われていない(VC1圧縮/映像平均転送レート25.4Mbps)。
1年に及ぶ修復作業
1995年のオリジナルの意図とスタイルを維持することが作業の目的だった。だが高解像度では小さなエラーに気づいてしまうので、これらを修正する必要があった。フィルムには多くの欠陥があり、フィルムでは見えないものがたくさんある。フィルムの見た目が好まれる理由は、曖昧さ、不規則性、柔らかさに関してだ。同時に、私たちは HDR の世界に住んでいて、たとえば非常に深く、豊かで、ベルベットのような黒を容易に手に入れることができる。そのため何を直すか、直さないかの微妙な線引きをしなければならなかった。そこですべてを一致させるため、いくつかのものを塗り直し、いくつかのものを取り除いた。あらゆる調整は慎重に行われている。例えば、オフィスやアパートの窓に描かれた未完成のマットペインティングの街並みは、そのままでは維持できないため、街の一部を微妙だが、そこに詳細があるように補修した。モーガン・フリーマンとグウィネス・パルトローの食事の場面では、グウィネスの1本の跳ねた髪が彼女の目にかかっている。フィルムやブルーレイではあまり目立たないが、4Kでは目立って邪魔になるので削除した。デヴィッド・フィンチャー
ワーナーのMPI(モーション・ピクチャー・イメージング)がスーパー35オリジナルカメラネガを8K解像度でスキャニング。その後のデジタルレストア、カラーグレード、レタッチ等も8Kでレンダリングされている。映画プロデューサーであり、フィンチャーのポストプロダクション・チームの責任者であるピーター・マヴロマテスがマスタリングを総監修しているが、レストア作業に1年を費やした理由は、明らか8Kスキャンから作り直しているからだ。
オリジナルネガは少し老朽化していた。私たちはそれを蘇らせる必要があった。フィルムプリントでは見えないものが、4K HDR では見えてしまう。長年にわたって『セブン』の修復を何度も監修してきたが、これが最後だと決めていた。だからこそ、8Kスキャンにこだわった。スクリーンがさらに進化しても、上映方式が進化しても、同じことを繰り返さなくて済むようにしたかった。正直に言うと、もう二度とこんなことはしたくない。これで本質的には、これが新しいネガになるということだ。これが新しいアーカイブ保管要素になるだろう。デヴィッド・フィンチャー
8Kファイルの処理とメモ作成に少なくとも6か月(この作業を加えれば期間は1年半)。乳剤の破片やパーフォレーションの補修などのクリーニングに3か月。通常のデジタルレストア、カラーグレード加えて、多岐にわたるリフレーミングも行われている。ほんのわずかな変更箇所も入れれば、ほぼすべてのショットがリフレーミングされたと言っても間違いではないだろう。本作はスコープ作品であるがアナモフィックではなく、4パーフォのスーパー35方式で撮影されていたため(露光領域が24.89mm × 18.66mm/1.33:1/標準の 35mm形式よりも32%大きい画像領域)横・水平方向(左右)は幾分制限を受けるものの、縦・垂直方向(上下)には画像を再配置する余地が十分すぎるほどあり、膨大なショットのリフレーミングを可能にしたのである。
ピントが外れてアウト・フォーカスとなっていたショットはAI を使用してシャープネスを向上し、本来見えるべきフォーカス感を再構築している。アウト・フォーカスに関しては、多くのショットが開放F値(絞り開放)で撮影されたことによる弊害である。絞り開放ではローライトレベルでの撮影を可能とするが、被写界深度が浅くなるため厳正にフォーカスを合わせて撮影する必要がある(しかもその結果は現像後まで確認できない)。本作においても軽中度のアウト・フォーカス・ショットが存在していたため、これをAIを使用して修正したのである。AIに関してはフィルム・グレインに関しても同様である。粒子感は細粒微少で、フィンチャーによれば「修復中に一定程度のディープラーニング・アルゴリズムによる最適化を行った」とのこと。
前述したフィンチャーのコメント箇所(パルトロウの1本の毛髪)、ミルズ刑事の部屋のライト、ミルズの背後のドア、窓外のCGI景観など、追加修正されたCG/VFX処理も興味深い。バーのカウンター・シーンでは、不必要だと思われるカメラのわずかなパンニングも修正され、フィックス撮影と変わらない映像に変更されている。とりわけクライマックス・シーンの変更箇所は非常に多い。全シークエンスに渡って頭上の空には雲が描かれ、ひざまずくジョン・ドゥの顔は代役からケヴィン・スペイシーの顔に変更、ミルズのグロックからは硝煙とわずかなマズルフラッシュが描かれる。
私たちは多くの映画を参考にした。その中には、当時デヴィッドのお気に入りの映画のひとつだった『オール・ザット・ジャズ』や、 『セブン』の荒々しさを持つ『フレンチ・コネクション』などがあった。『羊たちの沈黙』もそうだ。あの映画には何かとてもリアルなものがあり、空はいつも曇っていて、室内はまるでニュースレポートのようにとてもシンプルで平凡に見える。そしてもうひとつの重要な映画、そして私のキャリアにとっても重要な映画であった『コールガール』だ。 『セブン』を撮影していた当時、ゴードン・ウィリスの『コールガール』での撮影には、トップライトの使用、広大な景色ではなく親密さを表現するワイドスクリーンの構図の使用、街の縦縞を水平モードで見せる方法、顔や体の断片の見せ方など、すべてが詰まっていて、私にとっては大きな発見だった。撮影監督ダリウス・コンジ。
また当時のファーストラン・プリントでは、フィンチャーが望んだコントラストと黒レベル、抑えた彩度を実現するために、デッラクス開発のCCEブリーチバイパスプロセス(残銀処理)が施されていた。これらはHDRによって理想的な画調に再現処理されている。 ちなみにCCEプロセスは、高価すぎると判断され、その後はCCEプロセスの効果に近いカラーコントラストエンハンスメント(デラックス)を使用してインターポジからプリントが作られている。 日本公開ではCCEプリントは上映されておらず、そうした意味でもUHD BLU-RAY鑑賞は貴重な体験となる。実のところ、上記の図表で示した通り、コントラスト、黒レベル、色彩に関しては、どれが正確かを議論する余地がない。なにしろ上映プリントだけでも大別して3パターンあるのだ。初公開から30年経って、初めてフィンチャーの意図した画調が実現した、と捉えるべきであろう。
コンジが採用した(当時まだ実験レベルだった)CCEプロセスは、フィルムに銀粒子を多く残留させることで、コントラストを人工的にコントロールする手法だ。これにより影は極度に真っ黒となり、ハイライトは眩しく輝き、色彩は灰味の強い彩度に抑えられる。いくつかのシーンでは、よりコントラストを下げ、より陰影ディテイルを引き出すために、パナフラッシャー(カラーフィルター)を使用してフラッシングも行っている。名撮影監督ヴィルモス・ジグモンドが『ギャンブラー』で実験的に用いたことで知られるフラッシングは、ネガフィルムに弱光を当て、コントラストを弱め、暗部のディテイルを出す手法だ。
BLU-RAYの映像レート25.4Mbpsに対し、本盤は70.4Mbps。映像情報量のアップグレードは歴然だ。視認性が向上し、細かいディテイルが霧散することもなく、30年の歳月を飛び越えた新作映画であるかのようだ。HDRのピーク輝度は549nitsを記録、平均 97nits。撮影監督のダリウス・コンジは、求めるコントラスト値を得るため、同じシーンのなかでフィルム(コダック)の種類やフィルターのタイプを変えていた。またゴードン・ウィリスの手法を応用し、ソフトな拡散光を出すタングステンライトを昼光用フィルムと組み合わせ、かつ特殊フィルターを使用して、夢魔的だがどこか気品のあるわずかな緑味を帯びた画調を作り上げたのである。だが不幸なことに、現像はLAとトロントのデラックスのラボを使い分けていたため、コントラストや明るさ、色調に一貫性が得られなかったという。本盤ではそうした問題も修正され、画調の一貫性が高まっている。そう、完璧だ!
リミックス5.1chサウンドトラック
本編のサウンドデザイン(兼音響効果編集)は、いまやアメリカ映画界を代表する音響エンジニアとなったレン・クライス。日系アメリカ人であるクライスには、正式に音響エンジニアの教育を受けた経験はない。ミュージック・ビデオのプログラマーを経て、本作で初めて長編映画のサウンドデザインを手掛けた。学生時代からの友人だったフィンチャーの、スタジオへの"推し"によって得た仕事である。本作がパッケージ化されると、6.1-ES(DVD)7.1ch(BLU-RAY)ミックスのサウンドトラック採用されたが、クライスによれば「これまでホームユースのミックスに携わったことがない。必要以上にチャンネル数を増やすことなど考えたこともない」という。そのクライスが、本盤のサウンド・リミックスを担当。オリジナルから大きく逸脱することなく、随所にアップグレードを施した新たな5.1chサウンドトラックを作成している。
閉所恐怖症のような雰囲気を意識した。いつも雨が降っていて、遠くで人びとが叫んでいる。フレームの向こうに音があるというのは、より心理的なことだ。音を露わにする必要はなく、どこかに潜んでいるという感覚を与えるだけでいい。多くの点で、それはより恐ろしいことだ。なぜなら、観客である私たちが、自分たちのいる場所や現実に恐怖を感じ始めるからだ。不安感を加えるだけでなく、影を埋め尽くす刺激的な雰囲気を作り出し、それぞれの場所に独特の質感と聴覚的な存在感を与えるようにした。『セブン』のサウンドは、映画の暗く照らされた荒廃した空間を、重層的な密度で圧縮し、濃密な負のエネルギーを観客に伝播する。その結果、息苦しさ、この暗い世界から逃れられないという揺るぎない感覚が生まれる。音響エンジニア レン・クライス
新たな5.1chサウンドトラックは、オリジナルの劇場ミックスをより正確に再現することを目的としたという。さらに前述のMPIによれば、クライスは劇場公開用とホームシアターユースのサウンドトラックを制作したようだ。クライスによる明確なコメントはないが、おそらく本盤では後者のサウンドトラックが採用されたはずで、『セブン』のサウンドトラックに一家言ある映画ファンなら、これまでのどのミックスよりもオーガニックでパンチの効いたシネソニックとなっていることに気づくであろう。その違いは開幕、ナイン・インチ・ネイルズの「クローサー」を聴くだけでも明快だ。総じてよりフロント重視のプレゼンテーションになり、サラウンド・チャンネルは幾分控えめに使用されている。とはいえイメージングが驚くほど広く、不穏なムードの街に活気と攻撃性をもたらす効果音が溢れ出る。降雨音、街の騒音、通りの交通音など、オフスクリーンのスポットエフェクトを含めて圧倒的なサウンドスケープが生成されている(アップミックス再生との相性も抜群)。
雷鳴のような深い低音から、的確で鋭い高音まで随所でアップグレードを聴取できるが、とりわけミッドレンジの改善が目覚ましく、優れた明瞭性と鮮明度が提示。最優先される発声は一貫して明快、アクションの混乱の中でも完璧にバランスが取れている。ハワード・ショアのスコアは聴きどころのひとつ。 100人ほどのミュージシャンからなるオーケストラによって演奏されたスコアは、金管楽器、打楽器、ピアノの要素を組み合わせたもので、明確な旋律の使用を避け、猟奇殺人事件の戦慄と焦燥が茫漠とした無調の響きに刻み込まれている。
UHD PICTURE - 5/5 SOUND - 5/5
バックナンバー:世界映画Hakken伝 from HiVi
バックナンバー:2025年4月のクライテリオン