世界有数の電子部品メーカー・ロームから、オーディオ品質に特化した32bit DAC IC「BD34302EKV」が発表された。あわせて、組み込みメーカー用の音質評価ボード「BD34302EKV-EKV-001」もラインナップされており、ともに11月より量産(販売)が開始される。

画像1: ローム、音質にこだわったDACチップの第二世代モデル「BD34302EKV」を発表。新機能で滑らかなサウンドを実現し“質感”を大幅アップ

 今回発表のDACチップ・BD34302EKVは、音楽コンテンツをより高音質に再現することを目的に創造された、オーディオ品質に特化した「MUS-IC」シリーズのフラッグシップとなるDAC製品。

 MUS-ICシリーズとは、「品質第一」「音楽文化への貢献」「高音質設計技術」「垂直統合型生産」の4つの項目を高次元で統合し、開発責任者=音質責任者が自信をもって送り出す最高峰のオーディオICにのみ付与されるブランドになるそうだ。

画像: 音質評価用ボード。BD34302EKVが1チップ搭載されている

音質評価用ボード。BD34302EKVが1チップ搭載されている

 今回発表のBD34302EKVは、2021年に発売された第一世代「BD34301EKV」で得た知見やメーカーからのフィードバックなどを元に、さらに音質にこだわって開発された第二世代モデルとなる。ちなみにその301については、iBasso AudioのDAP(DX320)に採用されたことでも話題を集めていたので、その型番に見覚えのある読者も多いことだろう。

 新製品のBD34302EKVについては、メーカーサイトに紹介動画もアップされているので、それを見るのが一番手っ取り早いと思うが、簡潔に特徴を紹介していきたい。

画像: - YouTube www.youtube.com

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 さて、MUS-ICシリーズでは、電気的なスペックよりも、音楽性の再現を主眼にしており、その項目として「空間の響き」「スケール感」「静寂性」の3点を重視しているそうだが、301開発以後のフィードバックを受け、第二世代の開発ではさらに「質感」に着目。楽器の音色の生々しさや、ボーカルのニュアンスの向上を目指して開発が進められたという。

 その結果、変更・進化のポイントは多岐にわたり、図で示したブロック図で言えば、6点で大きな改良・進化を果たしている。電気的なスペックで言えば、THD+N特性は、前モデル-115dBから-117dBへとアップ。THD(全高調波歪み率)だけ見ると-127dBを実現している。また、対応サンプリング周波数についても768kHzから1,536kHzへとアップしている(こちらは、データ伝送の配線を増やすことで対応する)。ロームの作った音質チャートによれば、透明感・臨場感など8つの音質評価の項目すべてで第一世代を上回る結果を得ているそうだ。

画像: NEWとついているのが、今回の進化点

NEWとついているのが、今回の進化点

 次に、どのような改良が行なわれたのかを簡潔に紹介したい。まずは、そこに注目するのか! と、聞いているこちらも感嘆するボンディング部分の材質の変更。ボンディングとは接着という意味で、DACチップとリードフレームを接続するワイヤーを指し、これまでは64ピンすべを同じ素材で接続していたそうだが、新製品ではそこに流れる信号に合わせて、Au(金)とCu(銅)を使い分けるようにした。これについては、音質担当者が試聴を繰り返し、楽器本来の質感をリアルに表現できる素材をピンごとに探り、最適素材を割り当てているとのことだ。

画像2: ローム、音質にこだわったDACチップの第二世代モデル「BD34302EKV」を発表。新機能で滑らかなサウンドを実現し“質感”を大幅アップ

 実際にAuだけ、Cuだけ、Au+Cuハイブリッド(今回の新製品)という3つを聴き比べてみると、その違いは一目(耳)瞭然。Auでは高域の再現性は向上するものの、どこか軽い音調に。Cuのみでは音に厚みや音場感は良好だが、Auで感じた高域の特性には劣る印象。そして新製品のハイブリッドモデルを使うと、両者のいいとこ取りをした音調となり、煌めき感のある高域再現、広い音場感、量感のある低音、ボーカルのニュアンスのアップ(よりリアルに感じられる)と、狙い通りの“質感”がアップしたサウンドが楽しめた。

画像: 中央のICが今回の新製品BD34302EKV。ボンディングワイヤーの素材を変えたサンプルを作り、専用の試聴室で開発担当者が聴き比べして、素材配置(組み合わせ)を最適化していったそう

中央のICが今回の新製品BD34302EKV。ボンディングワイヤーの素材を変えたサンプルを作り、専用の試聴室で開発担当者が聴き比べして、素材配置(組み合わせ)を最適化していったそう

 次は新機能「HDモノラルモード」。要は、通常は左右チャンネルでそれぞれ行なっているD/A変換(処理)を、左右チャンネルで同じ信号を処理(取り扱う)して合算することで、分解能力を倍にする(向上させる)、というもの。実際にHDモノラルモードを聴いてみると、その効果も歴然。試聴では、DACチップを2つ載せた評価ボードを使い、HDモノラルモードによるステレオ音源を聴いているが、音が緻密になり(密度感がアップ)、音の厚みやクリアネスが格段に上がっているのが感じ取れた。

画像: BD34302EKVチップを二つ搭載した音質評価用ボード(非売品)。HDモノラルモード/DWAの切り替えが素早く行なえ、それぞれのオン・オフ(4通りの組み合わせ)の試聴が簡単にできる

BD34302EKVチップを二つ搭載した音質評価用ボード(非売品)。HDモノラルモード/DWAの切り替えが素早く行なえ、それぞれのオン・オフ(4通りの組み合わせ)の試聴が簡単にできる

 そしてもう一つ注目なのが、THD(全高調波歪み率)を向上させるDWAの新アルゴリズムの搭載がある。DWAは、Data Weighted Averagingの頭文字を取ったもので、意味としてはロームの文言をそのまま使うと、「複数のスイッチ素子を動作させてアナログ変換を行う際、素子のミスマッチを平準化することでオーディオ特性を向上させる技術」となる。要は、(高調波の)ノイズや歪みを抑制するもの、と言えるだろうか。これはオン・オフが可能で、上述のHDモノラルモードとの組み合わせで試聴したところ、少し音の勢いは弱まる印象もあるが、すっきり、しっとりとした音調となり、空間感のクリアさの向上や、ボーカルの艶やかさといった部分でその効果を感じられた。

 その他、使い勝手を向上させるものとしては、DSDコンテンツを変換することなくダイレクトにボリューム調整可能となる点(0dB/+6dB設定 0~-39.6dBまで調整可能という)、PCMとDSDコンテンツが混在する場合、入力された信号を検知し、変換モードを自動的に切り替えてくれるようになった。これにより、ソフトウェアの設計の工数が削減できるそうで、セットメーカーのコストダウンに繋がるものと思われる。

 ロームでは、今回のBD34302EKVの開発・発売とあわせ、より小型の製品の搭載できるよう、チップサイズを小型化したパッケージも開発中という。上述のiBasso Audioに加え、DAP、スマホ、タブレットなど、ロームのMUS-ICチップを搭載した製品の登場に今後、期待したい。

画像: ロームの試聴室。スピーカーはTAD、プリ・パワーアンプはアキュフェーズ

ロームの試聴室。スピーカーはTAD、プリ・パワーアンプはアキュフェーズ

https://micro.rohm.com/jp/mus-ic/

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