クリント・イーストウッドの名前を初めて覚えたのは、映画雑誌の『ダーティハリー』の記事だったと思う。1970年代、我が故郷の鹿児島では中学生だけで自由に映画館に行くことができず、さらにお小遣いも限られていたため、どの作品を見に行くかを決めるのに雑誌の情報はきわめて重要だった。

 残念ながら、当時『ダーティハリー』を映画館で見ることは叶わず、後に日曜洋画劇場で初めて対面したんだけど(当然、声は山田康雄さん)、オープニングからブラウン管画面に釘付けになったのを覚えている。

 そこからイーストウッドの作品はほぼ見続けてきて、最近ではUHDブルーレイ&ブルーレイコレクションの中にも多くのタイトルが並んでいる。さらに彼の監督作も優れたものが多く、これも結構な数があるので、わが家のパッケージコレクションの中では一大勢力になっていたりする。

「アメリカン・スナイパー<4K ULTRA HD & ブルーレイセット>(2枚組)」 ¥7,480(税込)

画像1: 『アメリカン・スナイパー』UHDブルーレイは、見終わるまで身じろぎもできない凄みがある。イーストウッド監督の手腕を、ホームシアターで堪能して欲しい【フィジカル万歳23】

●2014年アメリカ作品●片面3層●本編約132分+映像特典 約160分
●映像特典内容:戦場からスクリーンへ:英雄と呼ばれた男の軌跡、クリス・カイル 伝説の狙撃手、シネマティック・レガシー The Heart of a Hero、米海軍特殊部隊 ネイビー・シールズ、戦争の代償、メイキング、特別映像 「ガーディアン」
●映像2160p Ultra High Definition●シネマスコープサイズ/16×9LB●音声:ドルビーアトモス(英語)、ドルビーデジタル 5.1ch(日本語)
●発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント●販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント

 そんなイーストウッド監督作品から、『アメリカン・スナイパー』のUHDブルーレイが登場した。イラク戦争を舞台に、アメリカの伝説のスナイパーと呼ばれたクリス・カイルの半生を描いた作品だ。愛する国と仲間を守りたいという思いから多くの敵兵(子供や女性も含まれる)を射殺してきたクリスが、戦争の狂気に取り込まれていく姿がていねいに描写されている。

 2014年の全米公開から10年目での初の4K化とのことで、パッケージとしての画質にも期待が高まる。ちなみに以前発売されたブルーレイにはドルビーアトモス音声が収録されており、今回のUHDブルーレイもそこは同じ(日本語吹き替えはドルビーデジタル5.1ch)。

 映像はHDR10収録ということで、プロジェクターのビクター「DLA-V90R」の「Frame Adapt HDR」モードで再生する。音はヤマハCX-A5200による7.1.4のドルビーアトモスで再生。

画像2: 『アメリカン・スナイパー』UHDブルーレイは、見終わるまで身じろぎもできない凄みがある。イーストウッド監督の手腕を、ホームシアターで堪能して欲しい【フィジカル万歳23】

 イーストウッド作品はどれも、抑えた演出とクリーンで抜けのいい映像という印象があるのだが、本作の4K映像でもそこは変わらない。ご存知の通り本作は多くのシーンがイラクの戦場で、砂埃が舞っている場所なのだが、それでも風景がどことなく清浄さを保っている。デジタル撮影なのでグレインはないのだが、フィルムっぽい質感に仕上げられているのも面白い。

 IMDb.comによると、本作の撮影はアリ Alexa XTで行われており、仕上げは2K解像度とのこと。なので、UHDブルーレイは2Kマスターからのアップコンと思われるが(米国のソフトレビューサイトにその旨の記述があるが、詳細は確認できなかった)、それにしてもクリス(ブラッドリー・クーパー)やタヤ(エシナ・ミラー)の肌の再現、銃器のメタル感、痛み具合などが生々しい。映像のビットレートは50〜60Mbps(映像圧縮方式はHEVC)をキープしているので、これも高品質の理由かもしれない。

 参考までに既発売のブルーレイをチェックすると、映像ビットレートは20〜30Mbpsで、圧縮方式はMPEG-4 AVC。こちらの映像も55インチ有機ELで見ている限り不満はない。ただし、UHDブルーレイと比べると画面全体のピントが少し甘い印象で、110インチ画面では偵察衛星から見下ろした戦場のビルなどがボケ気味になる。このあたりにUHDブルーレイとしての情報量の恩恵が確認できた。

画像3: 『アメリカン・スナイパー』UHDブルーレイは、見終わるまで身じろぎもできない凄みがある。イーストウッド監督の手腕を、ホームシアターで堪能して欲しい【フィジカル万歳23】

 サウンドは上記の通りドルビーアトモスで、ビットレートは2〜3Mbpsが割り当てられている。スナイパーを扱った作品ということで、狙撃シーンの音が鋭い。派手な音作りではないのだが、その瞬発力、切れのよさが耳の奥まで響いてくる。

 セリフもしっかりセンターに定位し、聞き取りやすい。特にクリスが対戦車砲を拾おうとする子供をスコープ越しに見ながら、「拾うんじゃない」「捨てろ くそガキ」と呟くシーンで声に込められた緊迫感、焦燥感は、見ている側も身動きできないほど。

 さらに後半でクリスとタナが電話で会話をするシーンでは、クリスが喋っているカットでは戦地の爆音が視聴者を包むように響き、アメリカに居るタナの街中の喧騒との対比が際立つ。同じ瞬間なのに、ふたりが居る環境はこんなに異なっているということを、音で見事に表現している。さらにラストの砂嵐のシーンは重低音が凄まじい。派手な音の演出をここまで取っていたんだ! と感じた。

 なお本作は全編を通して音楽も控えめで、抑えた演出が徹底されている。それが一番顕著なのがエンドクレジットで、なんと約5分間無音! 改めてイーストウッドの大胆な演出に感動した次第です。 (取材・文:泉 哲也)

(C) 2014 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films North America Inc.
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