オルトフォンから、昨年30年ぶりに復活したMCカートリッジ「SPU GTシリーズ」の新製品が早くも登場。「SPU GTX」として、丸針仕様の「SPU GTX S」と、楕円針仕様の「SPU GTX E」の2モデルがラインナップされる。価格は下記の通り。

「SPU GTX S」 ¥198,000(税込)
「SPU GTX E」 ¥220,000(税込)

 今回発表の製品は、これまでのGTシリーズの総決算として、オルトフォンとスウェーデンLundahl社の手で共同開発された内蔵MC昇圧トランスを肝とするSPU GT特有のパワフルな音色はそのままとしつつ、現代のレコード再生用カートリッジとして見ても申し分のない性能を発揮することが可能となった、と謳う。

 本シリーズの開発において、重点的に手が加えられたのはGタイプのヘッドシェル。旧GTシリーズの構造を徹底的に見直して開発されたGTE105のヘッドシェルをさらに改良。使用素材をABS樹脂から特殊ファイバーを配合した樹脂に変更している。この素材の使用についてはGTE105の開発時点ですでに構想としてあったものの、生産技術の成熟を待つ必要があったため、使用を見送っていたのだという。そして、樹脂素材の配合方法を見直すなどしてより理想的なGT用シェルの生産が可能となったことを受けて、新たにGTXとして装いを一新。加えて、SPUシリーズの伝統に則り、「SPU GTX S」(丸針/Spherical)と「SPU GTX E」(楕円針/Elliptical)の2機種をラインナップしている。

SPU GTXの主な仕様
出力電圧(1kHz,5cm/sec.):4mV
チャンネルバランス(1kHz):1.5dB
チャンネルセパレーション(1kHz):20dB
チャンネルセパレーション(15kHz):10dB
周波数特性(20Hz-25kHz):±3dB
トラッキングアビリティー(315Hz、適正針圧下):60μm
水平コンプライアンス:10μm/mN
スタイラスタイプ:Spherical(GTX S)、Elliptical(GTX E)
スタイラスチップ半径:R18μm(GTX S)、r/R 8/18μm(GTX E)
カンチレバー素材:アルミニウム
適正針圧:4.0g
針圧範囲:3.0-5.0g
トラッキング角度:20°
内部インピーダンス:610Ω
推奨負荷インピーダンス:47kΩ
コイル線材:OFC
カートリッジシェル素材:特殊ファイバー配合の樹脂素材
自重:37g

※SPU GTXシリーズのボトムカバー取付ネジは、製品の仕様を鑑みて締付時にトルクの管理を行なっています。ネジ締付時にカートリッジ本体側のネジ取付部分に強い力を加えるとこれを破損させる恐れがありますので、本シリーズのボトムカバーおよびその取付ネジは開封しないでください。なお、開封によって破損を生じさせた場合は、製品保証の対象外となります。

「SPU」史上初、シェル本体とボトムカバーを完全同一素材化
 SPU GTX S/Eは、MC型カートリッジとしては随一の歴史を誇るSPUシリーズの中で史上初めて、Gタイプのヘッドシェル本体とそのボトムカバーを完全に同一の素材としている。これまでのGシェル用ボトムカバーはヘッドシェルと異なる素材を用いており、またその多くが単一素材の樹脂を成型したもので、年代ごとの微細な形状変化を除くと、その相違点はカバー色のみとなっていた。長年の慣習でもあるこのボトムカバーは、GシェルとともにSPUを構成するシンボルとして今なお多くのモデルに採用されている。

 その唯一の例外は、2018年にオルトフォン創立100周年記念モデルとして限定生産された「The SPU Century」のボトムカバー。CenturyではSL M(Sel ective Laser Melting)によるアルミ粉末のレーザー溶融で成形されたGシェル本体と、無垢木材を切削加工したボトムカバーを合わせることで、素材それぞれが持つ共振を互いに活かし、その上で理想的な音色となるよう絶妙にコントロールされているのが注目点となる。

 しかしその一方で、ヘッドシェル本体とボトムカバーを完全に同一素材で構成することも、ひとつの理想的な方法といえるそうだ。実際にこれと類似した方法を採用しているのが「Concorde」シリーズであり、単一素材で構成されたハウジングは癖のない「accuracy(正確)」なサウンドの要となっている。GTXシリーズの元となったSPU GTE105では、この構成方法を意識した新世代のGT用ヘッドシェルとすべく、ベース部分とヘッドシェル本体を一体化。旧来の金属製ベースや固定ネジなどのパーツを排除し、ヘッドシェル本体側の素材を均質化している。

 これに続く本シリーズでは、さらなる改良が施され、ヘッドシェル本体のみならずボトムカバー部分にまで特殊ファイバーを配合した樹脂素材を採用することで、SPU史上初のシェル・カバー素材の均質化を実現した。それと同時にシェルやカバーのさらなる高剛性化もあわせて達成しており、「新生」GTに相応しいGシェルがここに具現化されたと謳っている。

 また本シリーズには、アニバーサリーモデルとして開発されたThe SPU Centuryなどとは異なり、業務用機器を祖とするサウンドポリシーを持つため、ヘッドシェルに起因する音色の色づけは極力排し、サウンドの「正確さ」を重視。GTXのサウンドの要は、愛聴盤そのものと、内蔵昇圧トランス。新規開発されたGシェルとボトムカバーは、本シリーズのサウンドを構成する背骨として極めて重要な役割を担いつつ、(音の)「正確さ」を支えるための黒子に徹している。

SPUの伝統、丸針と楕円針の2モデルをラインナップ
 レコード会社や放送局などのプレイバック・スタンダードとして開発されたSPUは、シリーズ誕生後の早いうちから丸針(Spherical)と楕円針(Elliptical)仕様の2機種で構成され続けており、いわゆる「オールド・SPU」と称されるSPU G/GEや、これの後継モデルであり現行製品へと連なるSPU Classic G/GEシリーズ、エントリーモデルのSPU #1S/Eなどがこれに該当。この流れを踏襲したSPU GTXシリーズもまた、これらのモデルから引き継がれた王道のアルミカンチレバーを備え、その先端には丸針か楕円針が取り付けられている。

SPU GTX S(丸針/ Spherical)
 丸針のSPUは、いわゆる「プロ用」のプレイバック・スタンダードとしての性格を最も強く残しており、まさに業務用機器そのものともいえる使い勝手の良さと安定感を誇る。そのため、多少ラフなセッティングでも確実なレコード再生を行なうことが可能であり、音楽を聴くことに専念できる針とも言える。また、丸針を使用した本機は音色の太さにも定評があり、いわゆるアナログレコードの醍醐味ともいえる音色を堪能できるようになっている。分厚くエネルギッシュなサウンドを望む場合は、このGTX Sが勧め。

SPU GTX E(楕円針/ Elliptical)
 本機はスタイラスチップを楕円針としたモデルで、丸針のGTX Sよりも再生時のレンジ感や特性に優れ、また微細な信号もピックアップすることが可能。そのため、レコードプレーヤーやトーンアームなどのセッティングを細かく行なうと、楕円針の特性をより良い状態で活かすことが可能となる。エネルギー感だけでなく、繊細さやレンジ感も欲しい場合には楕円針のGTX Eが好適という。

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