NHKは、本日から29日までの3日間、東京・渋谷のNHK放送センターで「Tech EXPO 2024」を開催している。番組制作や緊急報道、電波確保など全国の放送現場ならではのノウハウやアイデアから生まれた新たなシステム、サービスなどを紹介する展示会だ。
その初日となる本日午前中にプレス向け説明会が開催された。StereoSoundONLINEも説明会に参加してきたので、以下で編集部が選んだ注目展示について紹介したい。
1.プロ野球テレビ観戦用音声ガイドアプリ
目の不自由な方にもテレビのスポーツ中継を楽しんでもらいたいという狙いから、NHK広島放送局とNHK技術研究所で開発を進めているアプリが紹介されていた。
テレビで放送しているプロ野球の試合に連動して、進行状況や選手の表情、ベンチの様子などの情報をインターネットで配信、上記の専用アプリを使ってスマホやタブレットで補間情報として楽しんでもらおうというものだ。上記の情報の他にもその日のメンバーや現在の得点などもいつでも音声で確認可能なので、気になったらすぐチェックできるのも便利だ。
配信用の情報は、放送局のスタッフが随時手作業で入力するのに加え、AIなどを使った自動入力を併用して遅延の少ない情報をアップしているそうだ。その情報が音声合成サーバーに送られ、アプリで再生できるようになるという仕組みだ。
アプリ画面では読み上げる声(男性か女性か)や発話スピード(4段階)、発話量(情報の細かさ)なども自由に選択可能なので、自分の使いやすい設定でスポーツを楽しむことができる。実際にNHKが昨年7月と9月に実施した試聴実験では、8割の方が試合を楽しめたと回答したそうだ。
4.拡張型8Kプレイヤー
イベント等で8Kコンテンツを再生したいというニーズに応えて、NHKテクノロジーズが開発したシステムも展示されていた。ウィンドウズPCで動くシステムで、商用利用が可能なオープンソースのプレーヤーアプリを使い、最大8K/60pが再生できるプレーヤーとして構築している。
再生コンテンツはクライント側から提供されるものを想定しており、それをHEVC/ビットレート200Mbpsで圧縮するそうだ。そのビットレートについてはこのプレーヤーアプリと直視型テレビ(65〜85インチなどを想定)での視聴で最適なバランスに調整しているとのことだ。
PCとテレビとの接続はHDMIケーブル(HDMI2.1)で行うので、ほぼすべての8Kテレビで視聴できるのも、イベント等でも使いやすいだろう。
6.クラウドを活用した次世代番組制作
クラウドサーバーに映像・音声データを送信し、そこでスイッチングやミキシングを可能にする次世代番組制作システムの展示も行われていた。こうすることで従来の番組制作で必要だった副調整室や中継車などの設備が不要となり、低コスト・省スペースな制作環境が実現できるという。
さらにどこからでも映像・音声データの伝送が可能で、サーバースペックも容易に変更できるので、データ入力数にも制限がないのもメリットという。
またこのシステムは専用アプリではなく、一般的なブラウザ上で動作するので、外出先から容易に折り返し映像やカメラのタリーを、しかも低遅延で確認できるという。従来この遅延がクラウドを使った制作システムのネックになっていたが、それが解決できている点も大きいそうだ。
既に本システムは4K放送にも対応済みとかで、紅白歌合戦やMLB中継などでも検証が行われているとのことだ。
8.地域局番組でもぴったり字幕
生放送番組でインサートされる字幕は、映像や音声より遅れて表示されることが多い。この提案は、そんな生放送での字幕の遅れを、NHKプラスで試聴する際にはアナウンサーの声に同期させて表示しようという機能となる。
そもそも生放送の字幕データはリアルタイムでスタッフが入力しており、どうしても表示までに時間がかかっていた。それをNHKプラスで配信するまでの遅延時間(30秒ほど)を利用して、字幕の遅れを解消しようという発想だ。
そこでは音声認識機能も活用し、アナウンサーの発声タイミングに併せて字幕を表示すると言った機能も盛り込んであるとかで、違和感のない視聴が可能になることだろう。
12.4カメ分の映像を低遅延同期伝送簡易中継システム「街かどカム」
ロケ先からの商品紹介やトークの放送で活躍するであろうシステムの展示も行われている。例えば道の駅で名産品について数名が語り合うといったシチュエーションでは、これまではカメラを含めてそれなりのスタッフが現地に出かける必要があった。
「街かどカム」では、最大4台のPTZ(パンチルトズーム)カメラを設置し、それをリモート制御することで低遅延での同期伝送が可能になる。設置時にカメラアングルを工夫することで複数人の撮影も可能とし、それをリモート経由でスイッチングすることで番組を構成できるという。低遅延のためには、4台のカメラの映像をひとつのストリームに集約し、それを放送局側で解凍して改めてスイッチングするという方式を採用している。
この方式は、地方局やCATV、地域振興などのコンテンツ制作としてのニーズが期待されるとNHKでは話していた。