劇団を主宰する有田あんが、脚本・監督・プロデュース、そして主演を務めた『渇愛の果て、』が、5月18日より新宿K’s Cinema ほかにて公開される。氏が得意とする家族をテーマにした作品で、妊娠・出産にまつわる現状と、多様性を提示するメッセージ色の強い物語となっている。ここでは、主人公 眞希(有田あん)の親友として、親友グループ内に巻き起こる出産にまつわる葛藤を静かに見つめる里美を演じた小原徳子にインタビューした。
――よろしくお願いします。いよいよ公開が迫ってきました。
ありがとうございます。撮影はコロナ禍の真っ只中だったので、あれから3年、ようやく公開を迎えることができて嬉しいです。
――小原さんは、本作の生い立ちに大きく関係しているそうですが、その経緯を教えてください。
最初は、舞台作としての上演を予定していたのですが、コロナ流行の影響を受けて、それができなくなってしまったんです。それでどうしようかと悩んでいた時に、有田(あん)さんと話をして、長編映画にしたらどうだろう、そして有田さんが(長編作品の)監督に挑戦してみたらどうだろうという流れになって、結果、映画になりました。ということもあって、本作の始まりは小原さん(私)と言っても過言ではないと思います(笑)。
――当時は、文化庁の支援もあって、映画製作への流れが盛んで、役者が監督に挑戦することも多くありました。
そういう背景もあって、有田さんとしても、決断しやすかったのではないかと思います。
――当時有田さんは、すでに短編の監督は経験していました。
実は私のプロデュースした短編映画をお願いしたものなんです。
――あっ、そういう流れだったのですね! では、その感触がよかったので本作に繋がったと。
はい。
――そもそも、その短編をオファーしたのは?
当時、私個人が行なうイベントで、自分がプロデュースした短編を3本創って、上映会をしたいという企画を立てたんです。その監督の一人として、私と同い年で、女性で、(短編)初監督となる有田さんにお願いをしました。3人の監督にお願いすれば、三者三様の作品ができるかなと思ったからです。
有田さんとの出会いは、彼女が主宰で、脚本・演出・出演をしている舞台を見に行ったことでした。その時の作品もまた家族をテーマにしたもので、それがすごくよかったんです。そこで、有田さんは家族ものを描くのは得意なのかなというイメージが出来上がりました。その後、舞台での共演を経て、さきほどの短編をオファーすることになり、さらに、家族をテーマにした舞台への出演が決まっていましたけど、できなくなったので、映画にしましょうとなりました。
――当初の有田さんの反応は?
徳ちゃん(小原)がそう言ってくれるなら、という反応でしたけど、まあ、私がオファーしなくても(監督を)やっていたんじゃないかと思います。そう感じるぐらい、すごくバイタリティーがあるし、常にいろいろなことに挑戦し続ける人ですから、今回はたまたま私がきっかけになったのかもしれませんけど、そうでなくても、同じ結果になっていたと思います。
――有田さんが監督で、映画を創ろうと決まってからは?
とにかく有田さんのやりたいこと、伝えたいこと、こういう映画を創りたいっていうものが、ものすごくしっかりあったので、じゃあそれを周りでどうやって手助けしていけるかを、みんなで話し合いながら作っていきました。もともと有田さん自身のすごく強い想いがあったので、そこはブレなく進んでいきました。資金については、クラウドファンディングで集めようとなりました。
――キャストはどのようにして決めた(集めた)のでしょう?
それもやはり、有田さんがメインとなって、過去に共演してまた一緒に仕事したいと思ったキャストを集めてみたり、あとは、実際に舞台をやる前にワークショップオーディションをしていたので、その時に見て良かった人を有田さんがキャスティングしたっていう感じでした。だから、私にとっては初めましての方が多かったです。
――小原さんが里美役になったのは?
それは、リアルの関係性を活かすキャスティング演出というのが根底にあって、全体を見て、こういう関係性(キャラ)の人はここに充てようという感じで決まりました。結果、(それぞれのキャスティングは)すごくうまくはまっているんじゃないかなと思いますし、リアルに演じられているなって感じました。
――メイン4人組の中ではかなり地味な性格ですよね。
そうですね。ただ、里美はグループの中では唯一、出産を経験している。しかし、だからと言って、意見したり、まとめようとはしない。みんながやりたいようにすればいいよって委ねながら傍にいる。それは、大事にしようと思いました。
――主題はかなり重たいものですが、脚本が出来上がった時の印象は?
脚本の前の段階から有田さんは、テーマ(言葉)が重たいからこそ、重たい映画にはしたくないと言っていて、シーンシーンで雰囲気を変えたり、軽妙な感じを取り入れたりと、与える色(印象)を変化させていたので、そういう意味では、全体のトーンがズーンって重たくなっているというより、ポップな作品になっていると、脚本の段階で感じました。
――そう聞くと、確かにポップなシーンもありました。
有田さんの趣味というか、遊び心が入っているのだろうし、舞台をやってきたからこその演出にもなっていると思います。
――冒頭のポップさから、後半には激烈なものが来るのだろうという予測をしていました。
そういう捉え方もあるんですね。私は、完成したものを観て、性別や年齢によって、捉え方や感じる重さが、すごく変わる映画なんだなって思いました。なので、身構え方もまた変わるんじゃないかと思っていて、おそらく、女性の方がライトに受け止められる映画なんじゃないかと感じています。逆に男性は、彼女がこれを言ってきたらどうしよう、奥さんから相談されたらどうしようって、結構悩むんじゃないでしょうか。
でも、産まない選択をするのが悪ではなく、それも一つの考え方だし、一方で世間体を気にするのは悪だっていうのも違うし、それは家族で考えなくてはいけないことだから、この映画が、それぞれの意見を肯定できるものになっていたらいいなって思います。
――みんなで考えましょうということですね。
そうですね。最近は、まさに多様化の時代になったと私自身もすごく感じるんです。なので、実際に妊娠・出産を迎える時に、検査を受ける・受けない、産む・産まないを、普通に選択できるようになるといいなと思います。
私もこのテーマと向き合った時に、最初は検査を受けたいと思いましたけど、話し合いをして、撮影していくうちに、どんな子でも産みたいという気持ちが強くなって、(検査を)受けたくないっていう考え方に変わっていきました。
――ちなみに、里美の夫(博)は、結構な人でしたね(笑)。
そうですね。もともと博役の大山(大)さんが作ってきた役よりも、もっと戸惑ってほしいという演出が有田さんから入ったので、そう見えたのだと思います。実際、そういう雰囲気で大山さんが横にいてくれたおかげで、私(里美)がもっとしっかりしなくちゃダメだ! っていう気持ちになれました。
――終盤のパーティーシーンは、それぞれの役のエゴが強く出ていて、かなりシビアでした。
あそこは、撮影も辛かったですね。あの気まずい空気は本当に生まれていたので、すごくピリッとした雰囲気の中での撮影になりました。
――そうえいえば、キャラクターは当て書きに近いのですね。
はい、撮影前にエチュードをして、それぞれの役者を見ながら脚本を作っていくという作り方だったので、結構、役者本人に近いキャラクターになっていると思いました。中でも、美紀役の小林(春世)さんは、あのままでしたね(笑)。うわぁーっていう感じで、ずっと明るかったです。
――このタイトル(渇愛の果て、)はどう感じましたか?
仮タイトルはまた別のものだったのですが、結構、早い時期に『渇愛の果て、』に決まっていました。ひとつ超えた先という印象を受けていて、自分の中で想像していた幸せとか、想像していた大人、想像していた妊娠っていうものを、ひとつ超えたその果て、その先に行ったら、さあどうなるのか? まさにそういうお話なので、名は体を表していると思います。
――小原さんは、ご自身で脚本を執筆されていて、昨年には脚本作が劇場で公開されました。今回、有田さんの姿を間近で見て、なにか影響は受けましたか?
はい、本作も含めて、出演作は全て私の創作意欲の原点になっています。今回はキャストがすごく多かったこともあり、いろいろな人の話を聞けたし、ものづくり(映画製作)に関わることで、全部が(自分の)力になっていると感じます。この春には、映画美学校も無事に卒業できたので、これからもいろいろなものを創っていきたいです。
映画『渇愛の果て、』
5月18日(土)~5月24日(金)まで 新宿K’s cinemaにて公開
6月1日(土)~6月7日(金)まで大阪・シアターセブンにて公開
ほか 全国順次公開
<キャスト>
有田あん 山岡竜弘 輝有子 小原徳子 瑞生桜子 小林春世 大山大 伊藤亜美瑠 二條正士 辻凪子 烏森まど 廣川千紘 伊島青 内田健介 藤原咲恵 大木亜希子 松本亮 関幸治 みょんふぁ オクイシュージ
<スタッフ>
監督・脚本・プロデュース:有田あん 監修医:洞下由記 取材協力:高杉絵理(助産師サロン) 撮影:鈴木雅也 谷口和寛 岡達也 編集:日暮謙 録音:小川直也 喜友名且志 西山秀明 照明:大﨑和 大塚勇人 音楽:多田羅幸宏(ブリキオーケストラ) 歌唱協力:奈緒美フランセス(野生児童) 振付:浅野康之(TOYMEN) ヘアメイク:佐々木弥生 衣装監修:後原利基 助監督:藤原咲恵 深瀬みき 工藤渉 制作:廣川千紘 鈴木こころ 小田長君枝 字幕翻訳:田村麻衣子 配給協力:神原健太朗 宣伝美術・WEB:金子裕美 宣伝ヘアメイク:椙山さと美 スチール:松尾祥磨 配給:野生児童
2023/日本/97分/カラー/アメリカン・ビスタ/ステレオ
(C)野生児童
<イントロダクション>
知ることは優しさへの第一歩
映画『渇愛の果て、』は、「家族・人間愛」をテーマにし、あて書きベースの脚本で舞台の公演を行なってきた「野生児童」主宰の有田あんが、友人の出生前診断の経験をきっかけに、助産師、産婦人科医、出生前診断を受けた方・受けなかった方、障がい児を持つ家族に取材をし、実話を基に制作した、群像劇。シリアスな内容ながら、大阪出身の有田特有の軽快な会話劇を活かした作品で、有田が監督・脚本・主演を務め、長編映画監督デビュー作となった。
助産師・看護師・障がい児の母との出会い、家族・友人の支えにより、山元家が少しずつ我が子と向き合う様子を繊細に描きつつ、子供に対する様々な立場の人の考えを描く。
20人~30人に1人が何らかの先天異常を持って生まれる現代。答えは一つではなく、本作は、眞希と親友との友情や病院スタッフ側の心情などを通して、出生前診断・妊娠・出産・障がいに対する様々な考えや選択肢を提示する。
<あらすじ>
山元眞希(有田あん)は、里美・桜・美紀の4人から成る高校以来の親友グループに、「将来は絶対に子供が欲しい!」と言い続け、“普通の幸せ”を夢見ていた。妊娠が発覚し、夫・良樹と共に順風満帆な妊婦生活を過ごしていた眞希だが、出産予定日が近づいていたある日、体調不良によって緊急入院をする。子供の安否を確認するために出生前診断を受けるが、結果は陰性。胸をなでおろした眞希であったが、いざ出産を迎えると、赤ちゃんは難病を患っていた。
我が子を受け入れる間もなく、次々へと医師から選択を求められ、疲弊していく眞希。唯一、妹の渚にだけ本音を語っていたが、親友には打ち明けられず、良樹と子供のことで悩む日々。
そんな中、親友たちは眞希の出産パーティーを計画するが、それぞれの子供や出産に対する考えがぶつかり……。
里美役:小原徳子(Noriko Kohara)
1988年3月22日生まれ。長野県出身。
2003年にグラビアアイドル・木嶋のりことして活動開始。2014年の主演作『ちょっとかわいいアイアンメイデン』で話題を集める。俳優として映画・舞台を中心に多方面で活躍する他、近年は脚本家としても活動しており、2023年には初脚本作『いずれあなたが知る話』が公開された。
小原徳子SNS(X)
https://twitter.com/norikokohara