恐怖は、ウイルスより早く感染する。
タイトル | コンテイジョン |
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年 | 2011 |
監督 | スティーヴン・ソダーバーグ |
製作 | マイケル・シャンバーグ ステイシー・シェア グレゴリー・ジェイコブズ |
製作総指揮 | ジェフ・スコール マイケル・ポレール ジョナサン・キング リッキー・ストラウス |
脚本 | スコット・Z・バーンズ |
撮影 | ピーター・アンドリュース |
音楽 | クリフ・マルティネス |
出演 | マリオン・コティヤール マット・デイモン ローレンス・フィッシュバーン ジュード・ロウ グウィネス・パルトロー イト・ウィンスレット ブライアン・クランストン ジェニファー・イーリー |
2020年1月30日、世界保健機関(WHO)によって新型コロナウイルス感染症COVID-19に対する公衆衛生上の緊急事態が宣言された。それからわずか数か月のうちにウイルスが世界中に拡散、世界は制御不能に陥ることになる。最初にワクチンが投与されたのは同年12月。だが感染の波は大津波のように何度も押し寄せ、現時点で(統計が取れた地域だけで)およそ700万人が亡くなっている。
緊急事態宣言から遡ること11年前、監督スティーヴン・ソダーバーグは、アカデミー賞(ドキュメンタリー長編賞)受賞の『不都合な真実』のプロデューサーであり、『ボーン・アルティメイタム』の脚本家でもあるスコット・Z・バーンズとともに感染症を題材にした医療スリラーの構想を練り始めた。彼らは感染症の識者や専門医、WHOのスタッフからの助言を得て脚本を完成させたのである。
映画は示唆に富み、多数のストーリーラインを持った多視点性のハイパーリンク・スタイルで描かれる。パニック映画のお約束でもあるオールスタアを配しながら、展開は息継ぎを許さず、その顔ぶれを楽しむ余裕がないほど緊張感を連続させたリアリスティック・スリラーの傑作である。
2002 年に始まったSARS の流行、2009 年のインフルエンザのパンデミックからもインスピレーションを得た。膨大な資料に基づいて製作した結果、もし今この映画をリメイクしてCOVID-19によるパンデミックを再現したとしても、わずかな専門用語や単語の変更だけで製作することができる。ウイルスの発生源、その後の蔓延と隔離、さらに大規模なパニックや社会秩序の崩壊を引き起こす要因、新しいワクチンに関する相反する意見、病原体を特徴づけて封じ込めるための科学的プロセスも含めて、パンデミックに対する的確な真実性を持っており、ほぼすべてを予測していた。(製作グレゴリー・ジェイコブズ)
撮影は監督ソダーバーグ(ピーター・アンドリュース名義)。RED ONE MX撮影/4.5K REDRAW収録。DIファイルは4K。4K DSMからの4Kリマスター。ワーナーMPI(モーション・ピクチャー・イメージング)によるHDRグレード(HDR10のみ)。監修をソダーバーグ自ら行っている。映像平均転送レート58.2Mbps(2層/BD-66収録)。HDRのピーク輝度は999nit 、平均122nitとなる。
RED ONEのプロトタイプを2台使った戦争短編映画『CROSSING THE LINE』(2007年/監督ピーター・ジャクソン)を観たソダーバーグが絶賛、自作『チェ』2部作を同プロトタイプを入手して撮影。本作は正式リリースとなったRED ONE Mのアップグレード版RED ONE MXを採用、さまざまなアクセサリを使用できる特徴を生かし、ここではアダプターを介してツァイスのスーパースピードレンズ(解放F値が小さい)と接続している。
MX のダイナミックレンジは(当時の) ARRIアレクサやSONY F65 ほど広くないため、同様の結果を得るにはライティングに注意を払わなければならない。本作のように4.5Kセンサーを使用すれば解像度の高い画像が得られるが、最新シネカメラとの比較では超えられない壁がある。この10年間の進歩は格段のものがあることを頭の隅に置いて、本作の映像を楽しまれたい。
ちなみに今年3月、REDはARRIとの提携を発表。さらに驚いたことに、日本の巨匠ニコンによる買収も受け入れた。レッドからイエローに。その未来に期待したいところである。
2012年ワーナーBLU-RAY(1層/BD-25/映像平均転送レート16.85Mbps)と同じく16:9/1.78:1アスペクト収録。およそ3.5倍の映像レートによって再現される画力は、2012年版の画像を強化。解像感や明瞭度の向上改善は明らかで、あらゆる環境で堅牢なディテイルを提供、短焦点や長焦点など使用レンズの類別も容易に視認できよう。2012年版で散見されたバンディングノイズを解消。ディフュージョンやプロミストなどのフィルターを使ったと思われるショットの質感再現も優秀。フィルターを排して撮影されたロングショットの景観も鮮鋭だ。
当時、露出不足および過剰の領域、光の反射率と吸収において、RED ONE MXによる撮影の限界かと思われたブルーミングや黒浮きも解消されており、スペキュラーハイライト(鏡面ハイライト)は控えめな表現となるものの、一貫してハイライトはより制御され、より深い黒が再現されている。もっとも顕著な改善は、拡張されたカラー スペクトルを備えた豊かな色調。2012年版の多くの場面では緑味の色合いが強かったが、ここではよりニュートラルなトーンに再調整されている。
音響エンジニア(音響編集監修/リレコーディングミキサー)はラリー・ブレイク。ソダーバーグとは『YES: 9012 LIVE』(1983年/ロックバンド「イエス」のコンサートフィルム)からコンビを組んでいる。ここではMPI主導のもと、ブレイクによってリマスタリングされ、ソダーバーグの承認を得た最新DTS-HD MA5.1サウンドトラックを収録。
フロントステージ重視の会話主導のシネソニック。派手でアクティブな音響演出とは無縁だが、全編を通じて鮮明でクリーンなサウンドトラックとなっている。整えられた発声はフルボディ。浸透力に長け、効果音やアンビエントと巧みなバランスで再生される。ミニマルな音響効果の分解能も高い。サラウンドは攻めかけるものではないが、環境音や大気エフェクトのために頻繁に使用される。LFEエンハンスは抑制されるものの、適所で満足いく効果を披露。クリフ・マルティネスのスコアは恐怖と錯乱に身悶えるような響きを持つ。アップミックス再生推薦盤。
この映画の音楽はスティーヴンにとって懸念材料のひとつで、当初は音楽を使用しないことも考えたようだ。撮影が終わり、私のもとに『フレンチ・コネクション』と『マラソン・マン』の音楽をテンプミュージックとして使ったラフカットが送られてきた。またタンジェリン・ドリームのようなシンセサウンドも受け取った。これらを参考に、冷たく科学的で、不安の音を作り出すことにした。ペーシングは活発であり、悲劇と喪失の感覚を呼び起こすように努め、十二音技法など古い作曲技法を使用した。だが、ファイナルカットでは映像のリズムとエネルギーがより強調されており、刺激的でホラー映画のようなテイストを加えることにした、(音楽クリフ・マルティネス)
UHD PICTURE - 4.5/5 SOUND - 4/5
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