仕事をする人々を奴隷と呼び、お金がなくても日々を謳歌している。そんな世界で暮らす人々の姿を全編モノクローム映像で綴った『ダウンタウン・ユートピア』が、いよいよ11月3日から公開される。主演には、大塚監督とは4本目のタッグとなる吉本実憂が務め、突き抜けたキャラクターを豪胆に演じている。ここでは、その岸ナオミを演じた吉本実憂にインタビューした。

画像1: 「吉本実憂」がまたしても破天荒な役を演じた『ダウンタウン・ユートピア』が11月3日より公開。「ストレス解消に観てほしい!」

――よろしくお願いします。こうして作品の取材でお会いするたびに、新しい吉本さんが見られて、どんどん進化しているように感じます。
 ありがとうございます。それはありがたいことに自分でも感じます。

――さて、本作はとても不思議な映画でした。まずは、出演が決まった時のことを教えてください。
 大塚監督からのオファーだったので、安心してすぐに、やりたいです! とお返事したのは覚えています。しかも、映像はモノクロだし、家出少女が喫茶店を訪れて、というところから始まる物語が、とても面白そうだと思いました。

――最初に台本を読んだ時はいかがでしたか?
 最初の感想は、大塚さんの作品にしては思ったよりもキャラクターが薄いのかなというものでした。けど、撮影が始まってみたらもう、まったく違っていて、とんでもない人たちばかりなんですよ(笑)。本当に個性溢れるメンツばかりで驚きました。

――役の説明などはあったのですか?
 説明はありました。あと、大塚組って絶対に撮影前にリハーサルをするんです。大体1カ月ぐらいやりますね。なので、毎作リハーサルの時に出演者が揃って、一緒になって作っていくという感じです。

――もう慣れている?
 そうですね、『罪の余白』の時も1カ月半ぐらいやらせていただきましたので、そこでそれぞれの役に対しての共通認識みたいなものが培われていって、言葉を交わさずとも芝居で作り上げていけるようになるので、私はすごく好きです。こうやって土台をきちんとしてから撮影に臨むのが、私としてはやりやすいと感じています。

――『罪の余白』で大塚監督と出会ったから、今の吉本さんがいらっしゃるわけですね。
 本当にそう思います。『罪の余白』でもうしごかれて……(笑)。でも、そこでお芝居の楽しさを知ったので、お芝居の楽しさに気付いていなかったら、今どうしてるんだろうって思うぐらい、大塚監督は、私の人生にとって大きな影響を与えてくれている人です。

――前にお話しを伺った『レディinホワイト』(2018)では、役がつかめずに大変だったと仰っていました。今回の役作りはいかがでしたか?
 いやぁ~『レディin~』の時は本当に大変でした。その時に私が演じた如月彩花は、かなりポジティブなキャラクターでしたけど、当時の私は結構ネガティブで。なので、笑ってと言われてもすぐにできなかったんです。でも今は、自然にずっと笑えているし、自分でもポジティブな人間になってきたなって思います。それがお芝居の面でも活きていて、感情をどの方向にも持っていきやすくなりました。取り繕っていないというか、常にフラットな状態でいられるので、そこから悲しむのにも、怒るのにも、楽しむのにも、どの方向(の感情)へも行きやすくなったので、感情を動かしやすくなったのだと思います。まあ、今回演じたナオミは、怒りが多めでしたけど、苦労という苦労はなかったです。

――演じられた岸ナオミは、とにかく不思議な女性でした。映画の導入部から引き込まれました。
 そうですよね。なかなかいないでしょうね。冒頭部分については、実の母に病院に行きなさいと言われて無理やり行かされて、先生に反抗しているんです。出来上がった映像を見て、我ながら、衣装とか座り方とかがかっこいいって思いました(笑)。

 先生役の堀部(圭亮)さんがもう素晴らしい役者さんなので、こちらが役の中でふざけて(堀部さんを)いじったり、バカにしたような態度を取ると、きちんと(役の上で)切れてくれるので、それは楽しかったです。やはり、お芝居を通して通じ合っている感覚があると嬉しくなります。

――アドリブはあったのですか?
 アドリブというか、そのシーンの最後のほうは、先生(堀部)なのにどんどんどんどん口が悪くなっていって、台本にあるセリフよりもきつくなるというのはありました。

――ちなみに、『レディin~』の時は、役作りで監督を参考にしたと仰っていました。本作のナオミでは?
 監督そのものですよ(笑)。毒舌部分は全部監督です。あとは表情でしょうか。ポスターの顔とか、怒った時の顔、眉間にしわを寄せているところとか、冒頭で先生をいじっている時の顔は、まさに監督を参考にしました(笑)。

 ただ、(監督が)本気で怒っているところは見たことないんですけど、いじりながらズバッと毒を吐くことはよくあるので、その時のふざけている顔(もう、本当にふざけているんですよ)は、監督を参考にしています。

――ストーリーとしては、ナオミは、親との関係が悪化して家出します。そこまでこじれる親子関係というのもすごいですね。
 そうですね。でも、毒親というか、子供を支配したがる親というのは、今も世にもいると思っていて、ある意味そういう親の象徴になっています。

――少しネタバレしますが、中盤にはその母親が出てきますけど、それほどひどい親には見えませんでした。
 本当ですか? お母さんのセリフで、“親に向かって”というものがあるんですけど、それを言う親って、ちょっとこじれてるのかなと思います。親に向かってという言葉自体が、対等ではないというか――もちろん親に対しての、産んで育ててくれたことへの感謝は必要だと思いますけど――子供をずっと自分のものとして扱っていくのはどうなんだろう? って感じます。だから、家に帰ると親がいるし、色々言われるし、もう離れたい、顔も見たくないという状態になって、家出をした、というところです。

――そうして家出して、放浪して、喫茶店にたどり着きますが、すぐに出て行ってしまいます。
 居心地が良くなかったんです。1人になりたかったのに、やたら人がいっぱいいて、なんか居心地が悪いなっていう感じです。ナオミは、感情的に常にイライラしているので、人が多くいるのを見て、あっココ無理だと思って、出ていっちゃいました。

――喫茶店を出て行っても、すぐに連れ戻されてしまいます。意外と素直でした。
 まあ、捕まったし、引っ張られたし。飲んではいないけど、フラフラしている状態なので、物理的に引っ張られて抵抗する気力もない。そのぐらいやさぐれているっていう感じでした。

――そこでいよいよ、2人と出会います。中でも吉本一輝(木村圭作)はいつまでも突っかかってきます。
 そうなんですよ。ああいうコミュニケーションの取り方しかできないのかもしれませんけど、自分のことを気にかけてくれているところ――ご飯食べろよとか、タバコ買いに行くかとか――は、気になっている。あとは、何回もハンドスラップゲームをしながらコミュニケーションしていくところは、見たことがないというか、想像できないですよね。観てくださった方はやらないでほしいんですけど、あれって意外とコミュニケーションが取れて、仲良くなれるんです。本当に。喧嘩して仲良くなるみたいな感じで、ちょっと驚きでした。

画像2: 「吉本実憂」がまたしても破天荒な役を演じた『ダウンタウン・ユートピア』が11月3日より公開。「ストレス解消に観てほしい!」

――家出して、世捨て人のようになっていたのに、仲良くなるのは不思議ですね。
 楽しそう見えたからでしょうね。お互いにいじりあっていたり、毒を持っているところが近いと感じたのかもしれません。あとは、意外とゲームが役に立ったように思います。お互い至近距離で向き合っているじゃないですか。ああいう時間が、仲良くなるのに大事なのかもしれません。おそらく、ナオミ一人では、嫌いな人には向き合わないと思いますから。

――親からは圧(支配欲)しか受けなかったけど、初めて向き合う相手ができたという感じなんでしょうか。
 そう思います。あまり愛情を感じて来なかったけど――まあ、愛情とはちょっと違うけど――この人は、自分のことを気にかけてくれている、ちょっと思ってくれている、と。このゲームはやらないでほしいと思いますが、やはり正面に相手がいて、目を見て話をする、というコミュニケーションは、大事なんだろうと思います。

――一夜明けると、ポスターの顔になっていますし、仲良くなると、言動も似てきますね。
 確かに(笑)。言動については、吉本(一)をいじっているんです。めっちゃバカにして似せているんです。

――吉本(一)は気にしている風はないですね。
 そこがまた、吉本(一)っていうキャラクターの愛くるしいところなんですよ。ああしてすごい毒を吐いてますけど、ちょっと抜けていて……、人間味があって、堅苦しい人じゃないっていう部分は、私も好きです。

――その3人(木村圭作、宮川浩明)のシーンの撮影はいかがでしたか?
 私自身も心地よかったですね。木村さんも宮川さんもすごくいい人で、しかも面白いので、気を遣わなくてもいい、穏やかな雰囲気で過ごすことができました。ナオミにいじられても怒らないとか、大きい器で受け止めてくださっていたところは、とても心地よかったです。

――世界観としては、暗いというか陰鬱としている雰囲気はありますけど、登場人物たちは皆、荒んではいないし、楽しく生きているなと感じました。
 そうですね。関わりたい人と関わって、行きたい場所に行って、やりたいことをしてという感じです。私も、やりたいことをやりたい人間なので、やらなければならないことばかりでは、すごくストレスが溜まってしまうんです。どちらかと言えば、私もこの世界観の中の人かもしれません。

――先立つもの(お金)さえ充分にあれば、と思いますが。
 多少お金が苦しくても、やはり好きなことをやらないと、気持ちが落ち込んじゃいますね。楽しくないな~って。お金も大事ですけど、お金よりも大切なものはあるんだなって、最近より強く感じるようになりました。

――こうしてお話を伺っていると、本当に楽しまれているなと感じます。昨年のドラマ「Huluオリジナル『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』Season2」ではアクションを披露されていましたが、本作で初挑戦だったもの、大変だったものはありますか?
 葉巻、ですね。実際に吸っていないと、見た目の煙の量が少なくなってしまうし、私もできることは自分でやってみたいと思っていますから、初めて吸いました。葉巻って口の中だけで味を楽しむものらしくて、結構、甘くて美味しかったです。煙もすごく出ますけど、それが通り過ぎた後に、甘さを感じるんです。吸おうとは思いませんけど、葉巻って意外と美味しいんだと思いました。映像的にも、モノクロに煙が映えて、すごく綺麗に見えました。

――さて、話を戻しまして、3人の奇妙な生活が進むにつれて、表情が豊かになっていきます。
 そうなんです、とっても心地の良さを感じるんですよ。

――そうした心境の変化からでしょうか? 最後にナオミはある行動を取ります。
 血のつながりはなくても、一緒にいる時に感じる楽しさだったり、心地よさっていうものから、口には出さなくても、感謝の気持ちや、ちょっとした愛情みたいなものは芽生えてきたので、自分でそうしたいとまっすぐに思ったからです。恋愛じゃないですけど、やっと出会えた、という感覚に近かったように思います。本当に気を遣わない相手で、ガンを飛ばしたり、毒を吐いても、一緒にいてくれる2人の存在は、ナオミにとってすごく大きかったはずです。

――お母さんとも和解できた?
 和解はしていないですね。でも、ハッピーエンドではないですけど、ナオミの心は明らかに変わった。いつでも戻れる場所がある、会いたい人がいるっていうちょっとした変化は、ナオミにとってはすごく大きいものだったのかなと思います。

――ラストシーンの表情はすごくよかったです。
 確かに! 別人みたいでした。

――話は飛びますが、1シーンは長めでワンカットに近い撮影でした。
 演じる方としては、ワンカットとか、長回しで撮ってもらった方がやりやすいです。出した感情を(次のシーンのために)記憶しなくていいので楽です。

――作品で描かれている世界には、嫌だなっていう感じはなかったので、本当にあったら一度訪れてみたいです。
 あっ 本当ですか?! そう思ってもらえたらよかったです。嬉しいです

――では月並みは質問になりますが、吉本さんの好きなシーンや、読者へのメッセージをお願いします。
 好きなのは、やはりあのゲームですね。何回も出てきますし、いろいろな人とやっていて、ある意味、いろいろな人とコミュニケーションを深めていくという場面なので、私はすごく好きです。

 作品としては、それほどシリアスな内容ではありませんけど、観ていただいた方には、人と関わる時に、偏見をなくすきっかけになってほしいと思います。そうすれば世界が広がるし、面白い人も見つかるし、楽しくなると思うので、そういう人が増えてくれればいいなと思います。あとは、ストレス解消に観ていただければ嬉しいです。

画像3: 「吉本実憂」がまたしても破天荒な役を演じた『ダウンタウン・ユートピア』が11月3日より公開。「ストレス解消に観てほしい!」

――最後に今後の抱負をお願いします。
 アクションはずっと練習していますので、これからもアクション作品はやっていきたいです。あとは、人間味の溢れる役もどんどん演じたいです。人間のドロドロした部分も含めて、(人の)全てが詰まっているような作品がいいですね。やはり、人間味のある物語が好きですし、自分の好きなことをしたいっていう部分からも来ていますけど、そういう作品にいっぱい出たいです。とにかくいろいろな役を演じて、お芝居が好きなので、常にお芝居のことをずっと考えていたいです。

映画『ダウンタウン・ユートピア』

11月3日(金・祝)より 池袋HUMAXシネマズ ほか全国順次ロードショー

<キャスト>
吉本実憂 木村圭作 宮川浩明 中島広稀 堀部圭亮 カトウシンスケ 村岡希美 駒木根隆介 市瀬秀和 中川朋香 小糸舞 坂巻有紗 國本鍾建 松田ケイジ 他

<スタッフ>
監督・脚本:大塚祐吉 プロデューサー:木村義幸 撮影:ミカエル・セニンゲ 編集:スタンリー・ディック 録音:ポール・ドロシェビッチ 音楽:野村美穂 
製作:ZOO PRODUCTION 配給・宣伝:ウッディ
2023/日本/モノクロ/78分/シネマスコープ/5.1chサラウンド/DCP
(C)ZOO PRODUCTION

吉本実憂SNS
https://miyu-yoshimoto.com/
https://www.instagram.com/miyu_yoshimoto_official/?hl=ja

ヘアメイク:Emi Ojima
スタイリスト:YUUKA YOSHIKAWA
衣装:ピアス[and cloud]/リング[and cloud/Jouete]/シューズ[CHARLES & KEITH]

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