この度、第75回カンヌ国際映画祭監督週間正式出品、第58回シカゴ国際映画祭ゴールド・ヒューゴ(新人監督賞)受賞など世界中の映画祭を席巻している新鋭シャルロット・ル・ボン監督の長編デビュー作『ファルコン・レイク』が、8月25日(金)より渋谷シネクイントほか全国順次ロードショーとなる。

画像: シャルロット・ル・ボン監督長編デビュー作『ファルコン・レイク』。枝優花は「想像を越えた展開に驚き、何度も鑑賞した」

 公開に先立って、一般試写会に加え、枝優花と門間雄介によるトークイベントが8月9日(水)に開催された。
          ●          ●
 初めに、作品を鑑賞した感想を聞かれた枝優花(以下、枝)は「淡い青春モノを予想していたら、『こっちか!』と良い意味で裏切られ続けながら、まずは1回観て。そのあと2回3回と観ました。」と想像を越えた展開に驚き、何度も鑑賞したと振り返る。

 門間雄介(以下、門間)は「思春期の少年と少女を描いている作品として、ある種のフォーマットに沿った展開にはなっていますが、随所にそうではない要素が混ざっている。冒頭のシーンも、あれがファーストカットって、普通じゃないですよね。」と始まりのカットの印象深さを指摘。枝も「ファーストカットに何を持ってくるかが、監督にとって大事なことだと思うんです。あのファーストカットは衝撃的でした。」と話した。

 “幽霊が出る”と噂のある湖畔の避暑地を舞台に、14歳になる少年バスティアンと16歳の少女クロエが辿る“忘れられないひと夏”を描く『ファルコン・レイク』。枝は「10代の恋愛を描くときに、幽霊や死の匂いはあまり出さないですよね。シャルロット・ル・ボン監督のインタビュー映像を見ると『生は死と隣り合わせ』といった話をしていて。幽霊のような得体の知れないものと、自分達の中にある得体の知れない感情……大人になるとその感情に名前がついたりして、ドキッとしたり嫌な気持ちにならなくなっていきますが、思春期特有の名前が付けられないモヤモヤ感が全編通してあって、面白いなと思いました。」と“思春期”に独自のモチーフを加えて描かれる作品の世界観に言及。

 続けて、「主人公は少年のバスティアンですが、観ながらだんだんと少女のクロエに気持ちが向かいました。どちらに視点を置くべきかと考えていましたが、ル・ボン監督が『自身を2つに分けて演出した』とお話ししていて腑に落ちました。彼だけの視点で描くこともできるけれど、彼女の孤独や葛藤も見せてくれるので、そういう見方になったのかと。」と登場人物それぞれが丁寧に撮られていることに注目。門間は「僕は素直に少年の視点からみた年上の女性への憧れを理解できました。ただ、観ていく中で、同じ設定で男性の監督が撮影するものとは確実に違うものができていると思いましたし、これまでのそういった作品とは異なった仕上がりになっていると感じましたね。」と、ル・ボン監督の演出の唯一性を語り、「両方の登場人物に監督の想いを乗せているが故に、どちらも深みが出ている」と評価。

 16mmフィルムで全編が撮影され、そのトーンも印象的な本作。フィルムを扱うことについての魅力について枝は、「デジタルでは作り出せない光の拡散だったり、鮮明に映らない良さがあると知人とも話していて。デジタルは、人間の目でも捉えられないものも見えてしまい、情報量の多さによるストレスもあるのかなと。伝えたい情報を精査して、見せたいものを見せる時にフィルムはいいですよね。この映画がもつ曖昧さや、幽霊のような実体が捉えられない要素を表現するのは、フィルムの特性と合っていると感じました。」と、フィルム撮影がもたらす効果について考察。

 また、バスティアンを演じるジョゼフ・アンジェルは撮影当時14歳、サラ・モンプチも18歳と、演技経験が決して豊富ではない10代の俳優を起用している本作。『少女邂逅』などで少女たちが紡ぐドラマを描いてきた枝は、「映画の現場経験が少ない思春期の役者を演出するとき気をつけている点」を問われ、「プロの役者とは明らかに違うので、カメラマンやスタッフもいつでも(カメラを)回せるように待機していたこともあります。ハリウッドの役者は切り替えを意識したアスリートのようなメンタルの作り方をしていると聞きますが、それとは真逆で気持ちをそこで育てていく。いわゆるプロの役者とやるときと、そうではないときとで自分も対応の仕方を変えたり体制を変えたりしています。」と試行錯誤を重ねる制作の裏側を明かした。

 そして話題は、この作品を通して連想した映画へ。枝は「観終わってすぐ思い出したのは『アメリカン・スリープオーバー』です。デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督は『イット・フォローズ』や『アンダー・ザ・シルバーレイク』でもそうですが、得体の知れない何かがあるところが好きですね。あと、少しテイストは違いますが『ウォール・フラワー』とか。主人公が物語の中心としては描かれますが、コミュニティでは中心にいられない、そんなところも好きでした。」とル・ボン監督の作家性や登場人物がもつ孤独、寂しさへ歩み寄る視線へ好感を持ったと話す。門間が「『アメリカン・スリープオーバー』も迷いや葛藤がきちんと描かれていますよね。『ファルコン・レイク』は戸惑いのようなものがストーリーに乗っかっていく。脚本や演出で細かく配慮がされています。」と改めて演出の巧みさを話に上げると、枝も「会話の端々で、発せられた言葉の裏に色々な感情があるのがちゃんと捉えられているので心がざわざわしました。」と感情を揺さぶられたと深く賛同した。

 最後に枝は、「人に説明する時、言葉に悩む作品ですが、わたしはそういう映画がもっと受け入れられて、言語化しづらいものに前のめりになれたらいいのにと思っています。この映画を観て、友達と話したり、いい方向で広がってくれたら。」とコメント。門間も「皆さんが気になるラストも含め、原作と映画を比べてみると、監督の意図が感じられますし、人それぞれの解釈を身近な方と話すと楽しいと思います。」と作品の魅力を熱く語り、イベントを締めくくった。

映画『ファルコン・レイク』

8月25日(金)渋谷シネクイント ほか全国順次ロードショー

監督・脚本:シャルロット・ル・ボン
出演:ジョゼフ・アンジェル、サラ・モンプチ、モニア・ショクリ
原作:バスティアン・ヴィヴェス「年上のひと」(リイド社刊)
提供:SUNDAE 配給:パルコ 宣伝:SUNDAE
原題:Falcon Lake|2022年|カナダ、フランス|カラー|1.37:1|5.1ch|100分|PG-12|字幕翻訳:横井和子
(C)2022 - CINEFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI

This article is a sponsored article by
''.