ソニーPCLは、クリエイターのニーズに幅広く対応し、コンテンツ価値の最大化に貢献することを目的としたクリエイション拠点として「Visualisation Core」をオープンした。
スタッフもスタジオ機能もオールラウンドに進化し、提供する機能とワークフローを限定しないスタジオを目指したとのことで、企画立案から制作、コンテンツデリバリーまでシームレスに提供する空間になるという。
Visualisation CoreにはクリスタルLED(横約9.7×高さ約2.7m、解像度7,680×2,160画素)を備えたコミュニケーションスペースが設けられ、様々なイベントが可能。さらにスタジオスペースとして、ふたつのMAスタジオや、編集およびグレーディング作業ができる編集室も常備されている。編集室はすべて4K対応で合計6部屋が並び、作業内容や制作スケジュールに応じて編集とグレーディングをフレキシブルに割り振ることが可能になっている。この他に、オフライン編集、エミュレーション、仕込み作業等が行えるマルチルームという構成だ。
発表会冒頭、最近のポストプロダクションの取り組みの例として、日本テレビ系で放送された日曜ドラマ「ブラッシュアップライフ」を通してテレビドラマの進化を追ったトークセッションが行われた。会場には本作の監督を務めた水野 格氏や撮影を担当した谷 康生氏が登壇し、従来のテレビドラマの作り方との違いから紹介された。
水野監督によると、「ブラッシュアップライフ」は世界で視聴されるクォリティのドラマを目指して制作されたという。昨今テレビ視聴者の目が肥えてきている中で、地上波のドラマ作りはあまり変わっていない。実際にイベント等で海外のプロデューサーに日本の地デジドラマを見てもらったところ、馬鹿にされたような反応もあったそうだ。
そこで本作では、世界に通用するモノ作りを目指し、映画畑のスタッフに声をかけて、撮影機材からカメラワークまでこだわったという。また映像のトーンにも工夫をしたとかで、作品中で主人公の地元が舞台になっているシーンは暖かいトーン、都会のカットではクールな印象になるように色温度にも差を付け、さらに室内の配色などを変えているそうだ。
この点についてカラリストの廣瀬有紀さん(ソニーPCL)は、「時代・場所によるトーン分けは、衣装や美術の時点でも入念に行われていましたが、グレーディングでも作り分けています。色味を変えたら彩度を揃えるなど、共通項を持たせ1つの作品としてはまとまるように作り込みました」と画面全体でどのようなトーンを作るかについて配慮したことを語っていた。
また谷氏によると、今回はカメラにREDジェミニを使い、5KのRAWで撮影したという。それもあり、「例えば夜間の実景では、暗部は明るさが必要ないのでISO感度を下げ、中間〜ハイライトはISO感度を上げる事で、暗部のカラーノイズを抑えつつ必要な明るさを保持することができました」と、廣瀬さんが高品質な素材で収録したことによるメリットを語ってくれた。
地デジのドラマなので、そういった細かいグレーディング作業を毎週行わなくてはいけないわけで、スケジュールもかなりタイトだったようだ。特に監督との確認作業は実際に映像を見ながら行うのが理想で、「遠隔で監督とカメラマンがグレーディングをチェックできる環境があるといいですね」と、今後の編集スタジオに対する意見も出されていた。
トークセッションの後は、Visualisation Coreの設備が紹介された。エントランスを挟んで、コミュニケーションスペースの反対側がスタジオスペースで、ここでの目玉といえるのは、ドルビーアトモスや360 Reality Audioといったイマーシブオーディオの制作も可能なMAルーム(208ルーム)だろう。
メインのDAWはPro Tools Ultimateで、ビデオ用にはAvid Media Composerを準備。Procella Audioのパッシブスピーカー(フロントL/C/Rはスクリーン裏に配置)が設置されている。映像は4K/HDR対応プロジェクターと、家庭用4Kブラビアの50/43インチモデルが常設されている。
デモ音源を聴かせてもらった印象では、まだ少し音が硬めという気もしたが、これはスタジオ自体が完成したばかりという要因も大きいだろう。音声スタッフも、これから時間をかけて部屋の音を調整していくと話していた。
さらにMAルームとして5.1ch対応の210ルームも準備されている。DAWなどの機材は208ルームと共通で、さらにここでは先に発表された、ヘッドホンによる立体音響制作ツールの360VMEを使った、イマーシブオーディオのバーチャルミックスに対応しているという。
その208と210ルームに挟まれた209ルームは、アフレコやナレーション収録、さらにフォーリー(生音などの効果音)の収録ができるマルチブースになっている。収録用マイクを4本並べることができ、8〜12名のキャストが同時に収録できるという(ガヤ録音なら最大15名程度まで対応可能)。
床のカーペットは数ヵ所が取り外し式で、その下にはコンクリートや木材などの素材の違う床材を準備、ここで足音などのフォーリーを録音するのだという。また209ルームは208/210ルームとモニター回線でつながっており、MAルームにいる録音監督からの指示を演者と共有可能。これも作業の効率化を狙った提案とのことだ。
編集室は上記の通り合計6部屋で、すべて4K/HDRに対応したシステムが準備されている。マスターモニターにはソニーの「BVM-F250A」(4K/HDR作業時は『BVM-X300』を設置可能/205ルームには『BVM-HX310』を常設)を、家庭用モニターとして4Kブラビア「KJ-50X85K」(205ルームは『KJ-65Z9D』)を備えている。
なおVisualisation Coreの各編集室での作業はサーバーを通じて共有が可能なことも特長だ。例えば同じドラマについて202ルームで色補正を、203ルームではテロップ作業といった具合に異なる作業を進めておき、それを統合することで、限られた時間で効率的に制作を進められるわけだ。しかも監督は各作業を随時モニター可能とのことで、このシステムがこれからの動画編集のスタイルを変えていくかもしれない。
今回207ルームでは、同社の「清澄白河BASE」とつないだワークフローについてのデモンストレーションも行われた。「清澄白河BASE」はバーチャルプロダクションシステムを備えた撮影スタジオで、今回はここで撮影した映像を専用回線で共有、映像素材も自動的に最適化してくれるPostOnといったシステムをどのように運営するかが紹介された。
「清澄白河BASE」で撮影した人物画像(今回のデモでは5.6K)が数分でVisualisation Coreと共有され、しかもその際にAutoDM機能で映像と音声の同期が自動で処理され、且つプロキシデータとマスターデータも自動作成されたり、AI Shape Fitting機能ではフェイスマスクを自動的に生成してくれるという。つまりデータが届いた段階でマスキング処理が終わっているわけで、すぐに次の編集作業に移れるわけだ。ソニーPCLでは「清澄白河BASE」以外にも高円寺、渋谷、代々木公園にも編集拠点を構えており、各拠点をネットワークにつないで有機的に活用していくことが可能になっている。
「Visualisation Core」の概要
●所在地:東京都港区港南1-7-18 A-PLACE品川東2F
●スタジオ概要:
・マルチルーム(6室)
オフライン編集からエミュレーション、QCに対応できるマルチルーム。オフライン/オンライン編集、グレーディング、サウンドデザイン、エミュレーション、プレビュー、QCなどを1つの部屋で実現し、フレキシブルな運用により制作効率の向上が図れる。
・編集/グレーディングルーム(6室)
CM編集、ドラマ編集、番組編集、グレーディングなど、フレキシブルに機能をニーズに合わせて割り振ることができる。
・MAルーム(2室)+マルチブース
イマーシブ対応MAルーム、5.1ch対応MAルーム、マルチブース(アフレコ、ナレーション、フォーリー)を装備。