不気味な自動のこぎりが唸る!人肉を切りきざむ音がする!
想像を絶するこの大残酷を 全篇正視できるか?
テキサス生まれの監督フーパーと脚本家ヘンケルが生み出したこの映画、ストーリーは至ってシンプル。旅行中の若者たちがテキサスの片田舎の農家にふと立ち寄ったことから起きる、骨髄が凍りつくような逃れられない恐怖を描いたカルト的スラッシャーである。これまでに作られた映画の中でもっとも影響力のある映画のひとつとして賞賛され、ホラー映画の革命的な柱のひとつとしても際限なく言及され、今日に至るまで絶えることなくコピーされ続けている。
この低予算ホラーの特色をいくつか列記してみよう。その1、スプラッター度では『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』にかなり負けている。その2、お下劣なユーモアがあまりにお下劣ゆえに、笑いを誘う。その3、惨殺されるキャラクターにまったく好感が持てないからといって、恐怖度が薄まるわけではない。その4、子供たちへの悪影響が危惧されるのは確かだが、映画自体は文句ナシの大傑作。(雑誌PREMIERE編集 クリス・クロニス)
ご存じのように『悪魔のいけにえ』は16mm撮影(ASA感度25の低感度コダック・エクタクローム7252)され、16mmネガをブローアップされた35mmインターネガ(コダック・カラープリントフィルム5381)、上映プリントが生成されている。それは粗く大きい粒子構造への変質を意味し、その粒子の粗い映像外観こそが本作の特徴と認識する結果となった。ちなみにエクタクローム7252 は、コントラストの低いリバーサルフィルムで、粒子構造が細かく、インターネガを使用した複製に適した低コントラストのキャラクターを備えていた。
ところが監督フーパーが他界する1 年前の2016年、発見された16mmオリジナルカメラネガが4K解像度でスキャンされ、オリジナルの粒子感やディテイルをすべてそのまま記録、これまでの極度に粗い画像イメージを払拭することができたのである。そしてその4KスキャンDPX(デジタル・ピクチャー・エクスチェンジ)を使用したUHD BLU-RAYが、2月に米国、5月にUKで登場した。
前者は米MPIメディアがリリース。独ターヴィン・メディアが4KレストアとHDRグレードを行ったもので、MPI版も同じ4Kマスターを使用する。HDRはHDR10とドルビービジョンをサポート。リリースはBLU-RAY同梱のスタンダード版とスチールブック版(カバー写真左)の2バージョン。ちなみにターヴィン版UHD BLU-RAYも5月にドイツでリリースされたが、これらは同社が2016年にリリースしたUHD BLU-RAYと映像仕様は異なったものだ(2016年版はHDR未採用/BT.709仕様)。
後者はUKセカンド・サイトからリリースされており、MPI/ターヴィン版と同じ4KスキャンDPXを使用するものの、セカンド・サイトが英国シルバーソルト・レストレーションと共同で復元にあたり、新たなHDRグレード(HDR10/ドルビー ビジョン)を作成するという手間が加えられている。リリースはスタンダード版(カバー写真右/UHD BLU-RAYディスクのみ)と豪華特典収録のリミテッド・コレクターズ・エディションとなるが、後者所収のBLU-RAYはリージョンB仕様となる。
米MPIか。はたまたUKセカンド・サイトか。ユーザーにとって悩ましい選択となろうが、映像の総合評価はセカンド・サイトに軍配が上がる。MPIに残存していた傷痕やパラ、フリッカーがはるかに軽減されており、セカンド・サイトのレストアの優位性を視認できる。映像平均転送レートも20Mbほど高く設定されており(最下写真/キャプション参照)エンコードとオーサリングも優秀。画像品質を損なうデジタルノイズの抑制に成功しており、安定した粒子感を実現。一方でMPIは粗目の粒子感で、解像感も後退しており、デイライトショットの背景にノイズが混入している。
HDRグレードの差異はより顕著であり、MPIのハイライトは白トビを許し、黒の引き込みが早く黒ツブレに繋がっている。セカンド・サイトでは暗部情報の掘り起しに成功しており、とくにASA感度25という低感度16mmフィルムで撮られた、ナイトショットや低照度ショットの暗部再現は重要なポイントとなるため、その再現によって本作の魅力が高められているのだ。
WGC(広色域)による色調は好みが分かれるところ。セカンド・サイトでは彩度がいくぶん高められており、たとえばデイライトショットの植生の緑は明清色に寄り、赤系色は明暗も拡張されている。個人的にはMPIにみる中濁色のトーンに凄みを感じるのだが。
サウンドに関しては、リミックス・ドルビーアトモス・サウンドトラック(24ビット)は共通。加えてMPIはDTS-HD MA7.1、同2.0ステレオ、同1.0モノラル・トラックを収録(いずれも16ビット)。対してセカンド・サイトはリニアPCM 1.0モノラル・トラックのみの収録となる(24ビット)。オリジナル・モノラル・トラックをロスレス収録している点は、作り手の良心であり、高く評価したい。
ドルビーアトモス・トラックはほぼ同等のクオリティで、音声平均転送レートも微差だ。オリジナル・モノラル・トラックに即したフロントヘビーのサウンドスケープとなるが、環境音や効果音(電ノコの残響など)の一助としてサラウンドを拡張している。オーバーヘッドも抑制気味ではあるが、シーンによって相応の効果を追加している。セカンド・サイトで少し気になった点は、ADRのレベルがかなり控えめに記録されている箇所があることか(リニアPCMトラックに顕著)。
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