「自分よりも、あいつの方が悲惨だよな」。人の愚かさをえぐり出すように描いた『ピストルライターの撃ち方』が、いよいよ6月17日より公開となる。舞台は近未来。生きる術を失い、搾取構造の中に置かれた人間の姿が淡々と綴られていく。ここでは、登場人物たちの生きざまに影響を与えるマリを演じた黒須杏樹にインタビューを実施。役作りの苦労から、今後の目標などについて話を聞いた。

画像1: 眞田康平監督作『ピストルライターの撃ち方』がいよいよ公開。ヒロインを演じた「黒須杏樹」は、「やっと自分の役者人生が始まるんだと感じることができた作品です」

――よろしくお願いします。まずは、出演しての感想をお願いできますか。
 ロケに行くのは初めてでしたし、映画自体もまだ2回目ということで、すごく緊張していました。けど、たくさんサポートしていただいたおかげで、楽しくできました。

――今回はオーディションで、しかも800名の中から選ばれたそうですね。
 そうなんですよもう、本当に有り難かったです! オーディションに行く時には“絶対に受かるぞ”っていう気持ちで臨むんですけど、やはり受かったっていう連絡をいただいた時は、驚きと喜びが入り混じって、すごく嬉しかったです。ちょうど父と一緒にいる時でしたので、イエーイ! ってハイタッチしちゃいました。

――オーディションでは、受かる! という予感はあったのでしょうか?
 いえ、全くなかったですよ。待合室には私一人しかいなくて、一人で(オーディションに呼ばれるのを)待っているのは、とにかく緊張しかなかったです。私が最初だったのか、最後だったのかは分かりませんけど、とにかく緊張しかなかったです。

――受けてみての手ごたえは?
 掴んだっていう感じはなかったですね。でも、オーディションが終わって、ありがとうございますと言って部屋を出ようとした時に、もう一カ所(セリフを)読んでほしいところがある、って言われたんですよ。その時は“もしかして”って思いました。

――スタッフから、選ばれた理由は聞きましたか?
 最初に尋ねた時は“肩幅”って言われたんですよ(笑)。意外と肩幅が広くて、その時に着ていた服も、肩(体形)が出るデザインのものでしたから、それで気に入ってもらえたのかなって、嬉しくなりました。

――最初に台本を読んだ時の感想はいかがでしたか?
 何て言えばいいのか……言葉で表すのはとても難しいのですが、これを表現(理解)するには、きっちりと考えて考えて考えてやらないといけない! ということはすごく感じました。

 私は見た通りの性格――ちょっと緊張しいで、控え目――なのですが、マリはガツガツしていますし、当たりも見た目も強い。けど、本当は弱いところがある、という女性なので、それを表現するのに、まずは、どういう風に育ってきたのか、どうやってこういう性格になったのか、という中身(生い立ち)から作るようにしました。まあ自分と真逆だからこそ、マリのことをきちんと理解したいという思いも強かったです。

――破天荒に見えて、意外と純、と。
 そうですね。根っこの部分が純というのは、自分に似ているのかなと思ったので、そこは共感できました。そこからどんどん作っていって、自分はこういう風に育ったけど、この子は違う風に育ってきたので、刺々しくなってしまったんだな、という感じです。

――ご自身と遠い役、反対の役というのは、演じやすいものですか?
 最初はとても苦労しました。自分では強く言っていると思っていても、そう見えていないこともあって、それは、きちんと(芝居に)落とし込めていないということですから。自分自身も、叫んだり、怒ったりするのが苦手で、そうしたネガティブな感情の表現が一番出しにくい部分だったので、とにかく苦労しました。

――少し話は飛ぶかもしれませんが、全身で表現するダンサーと、芝居の表現には、通じるものがあるのでしょうか?
 やはり体を動かした方が、乗るっていう感覚があるので、できるだけ体を使った方がいいんだなっていうのは、感じました。序盤にはあまり体を動かすシーンはありませんでしたけど、カラオケパブで少し乱闘気味になるシーンを撮ったあたりから、役に乗る感覚が得られるようになりました。

画像2: 眞田康平監督作『ピストルライターの撃ち方』がいよいよ公開。ヒロインを演じた「黒須杏樹」は、「やっと自分の役者人生が始まるんだと感じることができた作品です」

――少し内面に入りますが、マリは表面上はトゲトゲしていながらも、自分の中に芯があって、それがブレないというか、ある意味、達観しているようにも感じました。
 そうですね。そこはやはりマリの強い部分なんだろうと思います。自分の弱い部分を見せないように、ああいう風を装っているのは分かっていましたけど、本当はすごく真面目で、芯がきちんとしている子なんだなって、演じていてすごく感じました。

――そんなしっかりしている子が、今の境遇にいるんですね。
 やはり根はしっかりとしていても、人間は弱いものなので、うまくいかないこともある。それでもなんとかして生きていかなければいけない。そういう部分が、この作品には出ているのかなと思います。そういう状況に置かれても、必死に生きている姿は素敵だと思いました。

――そういう“私は私で生きていくんだ”っていうところは、芝居とか表情、目線の動き1つからも感じられました。
 ありがとうございます。自分はここにいるけど、下だと思わないように、ここにいる自分でもきちんと生きているんだ、これでも自分は人なんだ、っていうことを、最後まで意識しながら演じていました。

画像3: 眞田康平監督作『ピストルライターの撃ち方』がいよいよ公開。ヒロインを演じた「黒須杏樹」は、「やっと自分の役者人生が始まるんだと感じることができた作品です」

――劇中では、他人と比べてしまう人の愚かさも描かれていましたが、そういう面で監督とは何か話しはされたのでしょうか?
 特に話した記憶はないですね。感じ取ったというか、自分でそうしようと決めたところはあります。この世界に住んでいる人だって、誇りを持って生きているんだ。それを意識していました。

――メインキャスト3人「マリ」「達也」「諒」の関係性について、どう感じましたか。
 これまでの生活の中では、出会って来なかった3人だと思うんです。まあ、達也と諒は幼馴染で一緒に育っていると思いますけど、マリは初めましての人で、まさかこの3人が揃って共同生活するとは思っていなかったはずです。

 ただ、出会うべき3人だったのかなという風には思っていて、マリが来たことによって、達也の持っている考え・基準が変わっていったり、諒に対しての基準が変わっていったりとかもしているのかなと思いますし、マリ自身も、達也と諒に出会うことによって、今まで閉じていた心が、少し開くようになっていったのかなと感じました。

――変わっていく2人を見てどう感じましたか。
 変な方向には変わっていないのと、どちらかと言えば諒が一番変わっているんですけど、それもいいように捉えれば、二人を護るためにああなったのだろうと思えるので、うわっなんか嫌、っていう感覚ではなかったですね。

――三角関係的な雰囲気も感じました。
 そうしたことも考えながら、お芝居していました。マリはどっちに行くのかな、どっちにもいかないのかなとか(笑)、いろいろ考えました。

――達也と過ごす夜のシーンは印象に残りました。
 そこはとても素敵なシーンになったと思います。2人の関係性が、そこでギュッとつまった感じもしますね。女性からしたら、好感度も上がりますし、本当に優しい人なんだなっていうのが分かりました。

画像4: 眞田康平監督作『ピストルライターの撃ち方』がいよいよ公開。ヒロインを演じた「黒須杏樹」は、「やっと自分の役者人生が始まるんだと感じることができた作品です」

――一方で、女性の先輩方への当たりは強かったですね。
 そうなんですよ。新人だからこそ人気があるわけですけど、先輩からしたら、自分(先輩)を差し置いて、という感じで気に入らないわけです。けど、マリからしたら、それが何? という感じで、とっても険悪な雰囲気なりますけど、演じるのは楽しかったです。役者としては、表現という面で険悪な方向に行けば行くほど、どんどん楽しくなっていました(笑)。

――ところでこの作品は、時代設定が少し未来なんですね。過去でも現在でもありそうな世界と感じました。
 未来の世界の話だよとは聞いていましたけど、すごく遠い未来ではない。まあ、今でもありえそうな話だとは思いました。

――その意味では、人の愚かさは不変なのかな、と。
 そうですね。ハッピーエンドではないので、終わってどんよりしてしまう自分がいましたけど、それはそれで正解なのかなって感じています。

――観終わって、素直にどんな感想を持たれました?
 自分のことで言えば、完成したものを観ると、やはり、こうすればよかった、ああすればよかったということが、結構出てきてしまいますけど、まあ当時は当時でできることをしていたというのは理解しながら、自分のこと(演技)を客観的に見て、次につなげていくには、演技をパワーアップするにはどうすればいいのか、というのを考えていました。

 作品としては、インディーズとは思えないような深い映画になっていて、画もすごく綺麗ですし、ストーリーも役者さんも、とてもお芝居がお上手な方が多かったので、自分の芝居は気にせず、1本の映画として、楽しみながら観ることができました。

――定番の質問になりますが、印象に残っているシーンを教えてください。
 よく思い出すのは、達也と二人で過ごす夜のシーンです。そこはちょっとマリの弱い部分が見えるところでもあるので、印象がとても強いです。

――他方で、後半の諒の暴走はすごかったです。そこからつながるラストシーンはいかがでしたか?
 最後のシーンは、特に私(マリ)のセリフはないんですけど、セリフがないからこそ、すごく大事なシーンになったと思います。マリとして気を抜かず、頑張ってやろうという意識で、2人をきちんと見守るというか、見送りました。もう、動じているところを見せたらだめだと思ったので、泰然とした雰囲気でいました。

画像5: 眞田康平監督作『ピストルライターの撃ち方』がいよいよ公開。ヒロインを演じた「黒須杏樹」は、「やっと自分の役者人生が始まるんだと感じることができた作品です」

――そこでようやく二人が笑うのも印象的でした。
 ですよねっ!

――その後、マリはどうなっていくんでしょう?
 私の勝手な想像なんですけど、もうただただ今まで通りに、あそこで風俗を続けていくのかなと思いました。続けて行って、いつかお金を返しを終えて、解放される、という感じでしょうか。でも、解放されても、やはり戻って来てしまい、そこから離れずにずっと働いているんじゃないかと思います。お母さんになって、普通の生活をしているマリも想像しましたけど、そのままずっと変わらずに、風俗を続けているんじゃないかと思います。

――本作に出演して、ご自身で成長を感じたところはありましたか?
 役やお芝居に対しての意識が大きく変わって、ここからやっと自分の役者人生が始まるんだと、感じることができました。具体的には、今まで自分が演じてきた役を超えてマリを表現することができたので、(表現の)幅が広がったなって思いました。

 これまでは、演技に対して自分のやれる幅がこのぐらい(小さい丸)と思っていましたけど、実はもっと広かったということに気づけたので、そこはよかったなと思います。もっともっと経験値を上げていきたいです。

――ちなみに、話しは飛びまして、黒須さんのお父さんもダンサーですが、小さいころは、お父さんはどう見えていたのでしょう?
 私にとっての父は、いつもダンスをしていて、とにかくダンスがうまくて、そしてダンスで舞台に出ている人。それが普通だったし、そういう姿しか知らないので、それがお父さんなんだって思っていました。

――その姿を見て、ご自身もダンスの道へ進もうと決めた?
 そうですね、やはりその世界(ダンスをする、舞台に立つ)しか知らなかったので、そこに行きたいというよりも、行くものだと思うのが自然な流れでした。

――実際に進んでみて。
 ダンスに関して言えば、素晴らしいダンサーさんがものすごくたくさんいらっしゃるので、私は、ダンスだけではいけないかもしれないって、挫折しかけたことはありました。

――そこから芝居の方面にいくきっかけは?
 きっかけは、高校の卒業を控えて、進路をどうしようって考えた時に、ダンスは子供のころからずっと習っていたので、別の道で表現の方法を学びたい、と思ったことです。それで演技の学校(アップスアカデミー)に進みました。ちょうど父が夜間のワークショップに通っていたこともあって、私も行ってみたい、というのが始まりです(笑)。

――受験ですか?
 オーディションですね。それで受かって入りましたけど、当時は受かったことが信じられなかったです。いまこうしてインタビューを受けて話していますけど、当時も今も話すことには苦手意識があって、人前で話すとすぐに泣いてしまうほど緊張しいな子だったんです。オーディションの時も、自己紹介をしているうちに、どんどん泣いてしまって……。もう、全然話せなかったんです。それもあって、受かったことが信じられなかったんですけど、嬉しかったですね。

――自己紹介しながら泣く子は記憶に残りますね。
 そう思っていただけると(笑)。結構、よくしていただきました。そこで、演技のレッスンを受けていました。

――今後は、演技とダンス、両方をやっていきたいのでしょうか?
 基本は演技をメインにやっていきたいと思っています。けど、ダンスは全くやらないということではなく、自分の強みとしてレベルアップしていきたいですし、それと合わせて演技力も向上させて、より表現の力や幅を強く、広くしていきたいです。

――ミュージカルはどうなんでしょう?
 とても興味があって、一度出演させていただいたことがありますけど、歌は……今、頑張っていますけど、まだちょっと苦手で。自分でうまいですと言えるように、いろいろと練習しています。

――今後、やってみたいことは?
 ミュージカル、舞台も含めて、幅広くやっていきたいです。できることは、いろいろやっていきたいですね。

――役柄は?
 殺し屋とか、サイコパスな役はまたやったことないので、それも含めて、経験のない役をたくさん演じてみたいです。

――お父さんとの共演は?
 今のところは(共演の経験は)ありませんけど、いずれやってみたいと思います。コロナが始まって自宅で過ごすことが多くなった時に、二人で創ったダンス動画をSNSに投稿していたんです。私がストーリーを考えて、父がそれにあった振り付けをする、という感じで、とても楽しかったので、そういう創作もしてみたいですし、お芝居での共演もしてみたいですね。

画像6: 眞田康平監督作『ピストルライターの撃ち方』がいよいよ公開。ヒロインを演じた「黒須杏樹」は、「やっと自分の役者人生が始まるんだと感じることができた作品です」

映画『ピストルライターの撃ち方』

6月17日(土)よりユーロスペースにて 全国順次公開

<キャスト>
奥津裕也 中村有 黒須杏樹
杉本凌士 小林リュージュ 曽我部洋士 柳谷一成 三原哲郎 木村龍 米本学仁 古川順 岡本恵美 伊藤ナツキ 橋野純平 竹下かおり 佐野和宏

<スタッフ>
監督/脚本:眞田康平 プロデューサー:奥村康 撮影:松井宏樹 録音:高橋玄 音楽:長嶌寛幸 美術:飯森則裕 助監督:登り山智志 ヘアメイク:香理 制作:宮後真美 配給:Cinemago
2022/シネスコ/カラー/ステレオ/118分 R-15+
(C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

黒須杏樹 公式サイト/ツイッター

ヘアメイク:香理

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