巨大な歴史の裏に潜んだ〈悪夢〉が追いかけて来る!

マラソン マン 1976年

監督 ジョン・シュレシンジャー
製作 ロバート・エヴァンス シドニー・ベッカーマン
原作 ウィリアム・ゴールドマン
脚本 ウィリアム・ゴールドマン
撮影 コンラッド・L・ホール
音楽 マイケル・スモール
出演 ダスティン・ホフマン ローレンス・オリヴィエ ロイ・シャイダー ウィリアム・ディヴェイン 
   マルト・ケラー フリッツ・ウィーヴァー リチャード・ブライト マーク・ローレンス

画像1: 4K SCREEN CAPTURE

4K SCREEN CAPTURE

1970 年代のサスペンス・スリラーのなかで、もっとも完成された映画のひとつである本作は、あらゆるレベルで注目に値する映画だ。演出は『真夜中のカーボーイ』の監督シュレシンジャー。ハリウッドの映画業界に少なからず悪影響を及ぼした、問題作『イナゴの日』に続く監督作となった。マッカーシズムとナチズムの暗いテーマを反映した、絶え間ない緊張感に溺れること必至である。

脚本は『明日に向かって撃て!』『大統領の陰謀』でオスカーに輝いたゴールドマン。自身のベストセラー小説を銀幕用に脚色、ホフマン、オリヴィエ卿、シャイダー、さらにディヴェイン、紅一点ケラーという芸達者たちの惜しみない協力を得て、みごと映画化に成功している。

小説が出版される前に、小説の映画化権と脚本執筆料をビル(ゴールドマン)支払ったことが話題となったが、映画化される本はなかなか見つからないので、それは安い投資だと思っていた(50万ドルと噂される)。実際、完成した小説は史上最高の映画のようだった。この本は『ゴッドファーザー』以降最高のものだった。私たちが失敗さえしなければ、大きな成功が手に入る。そう確信したよ。(プロデューサー、ロバート・エヴァンス)

脇に回ったシャイダーの好演が光るが、なんといっても話題はホフマンとオリヴィエ卿の競演。オリヴィエは古典的な訓練を受けており、ホフマンはというとメソッド演技の実践派。彼らの主張の違いが何であれ、画面上で絡むふたりの相性はドンピシャ、最終的な結果は圧倒的というほかない。

画像2: 4K SCREEN CAPTURE

4K SCREEN CAPTURE

撮影監督は『冷血』『明日に向かって撃て!』のオスカー撮影監督コンラッド・L・ホール。35mmオリジナルカメラネガ(後述)を最新4Kスキャン、パラマウントの修復部門がデジタルレストア/HDRグレードを行っている。HDRはHDR10とドルビービジョンをサポート。アスペクトは初めて1.85:1ビスタサイズで収録される(これまではオープンマット1.78:1)。

ちなみにホールは本作の撮影を最後に、10年間にわたり活動を休止する。この期間中、友人の撮影監督ハスケル・ウェクスラーとともにCM制作会社を設立し、数百本のCMを監督、撮影。脚本執筆ににも取り組んでいる。復帰作はボブ・ラフェルソン監督作ミステリ『ブラック・ウィドー』。

古典的なフィルム・ノワールがカラー映画への移行により、1950年代後半から1960年代初頭にかけて事実上姿を消した。だがカラーフィルム技術的進歩により、白黒ノワールのビジュアル・スタイルへの回帰が可能となり、1970 年代から1980年代にかけてネオノワールが誕生した。画調の特徴として非常に低い彩度を持ち、光と影を強調した高いコントラストの外観に反している。コンラッドが撮影した『マラソン マン』は、白黒ノワールの視覚的パレットへの回帰を実現した映画のひとつだ。(撮影監督ロジャー・ディーキンス)

画像1: 2017 PARAMOUNT BLU-RAY

2017 PARAMOUNT BLU-RAY

画像1: 2023 KINO LOBER UHD BLU-RAY

2023 KINO LOBER UHD BLU-RAY

2017年パラマウントBLU-RAY版に比べて大幅なアップグレードとなり、非常に有機的な映像プレゼンテーションとなっている。粒子感はわずかに強め、撮影条件やライトレベルによって変動がある。鮮明さ、コントラストに優れ、(シーンによっていくぶん黒の引き込みが早いものの)低照度ショットにおける陰影描画力も改善、説得力がある。なかでもクローズアップとミドルショットの映像情報とその質量は観応えがあり、ホフマンとオリヴェエ卿の大顔絵に注目されたい。

本作はステディカムが使用された2本目の映画だ(『ウディ・ガスリー/わが心のふるさと』での撮影が先だが、本作は2か月ほど早く公開)。もちろん撮影は開発者のギャレット・ブラウンが担当して、マラソンマンのランニングや追跡シーンで広範囲に使用している。コニー(ホール)はブラウンと、フレーミング、被写体との距離、意図的な揺れなど、執拗に打ち合せしていた。結果、観客の視線と一体になりながら、観客に緊張という視覚的苦痛を与えることができた。(編集ジム・クラーク)

画像2: 2017 PARAMOUNT BLU-RAY

2017 PARAMOUNT BLU-RAY

画像2: 2023 KINO LOBER UHD BLU-RAY

2023 KINO LOBER UHD BLU-RAY

HDRはバウンスライト(間接照明)や拡散光に効果を上げる。どこか不健康な肌色も魅力的。決して色彩豊かな映画ではないが、点在する原色や二次色のアクセントも良好だ。前述通り、HDRグレードはパラマウントによるものだが、マゼンタやターコイズなど、明らかに色調が異なるショットがあり、困惑するかもしれない。また軟調で低解像のショットが含まれるシーンもあり、おそらくオリジナルネガの損傷個所の代用として、インターポジかインターネガを使用したものと思われる。

画像3: 4K SCREEN CAPTURE

4K SCREEN CAPTURE

音響エンジニアは『チャイナタウン』『天国の日々』『プラトーン(オスカー受賞)』のジョン・ウィルキンソン。サウンドトラックは5.1chトラック、2.0chデュアルモノラル・トラックを収録。前者は2017年BLU-RAY版5.1chトラックのリユース。後者も2017年版にロッシー収録されていたが、35mm磁気マスターからロスレス仕様にリマスター、整音も行き届いている。

お薦めはモノラル・トラック。総じて堅実なトラックとなっており、スコアと効果音のバランスも適格だ。発声は聴きづらい箇所もあるが、会話シークエンスは十分な注意が払われている。なかでもニューヨーク・タイムズが「悪夢を特徴づける苦痛と、滑稽な不条理が完璧に融合したもの」と評した、オリビエ卿の拷問シーンの物云いは必聴。

画像4: 4K SCREEN CAPTURE

4K SCREEN CAPTURE

音楽は『ザ・ドライバー』『郵便配達は二度ベルを鳴らす(1981)』のマイケル・スモール。ドラマとサスペンスの起伏に対する表現力は聴きどころのひとつで、たとえばオリヴィエ卿に対する和音の使い方、ホフマンとケラーのロマンスを語るピアノの調べなど、映画の流れの中でとても巧く機能している。その終幕、ホフマンの姿に重なるトランペットソロの響きも忘れ難い。

ジョン(シュレシンジャー)からは早い時期から、痛みと忍耐、意志の強い力を伴う音楽を作るように指示されていた。拷問シーンではパーカッシブなパルスと、焼けつくようなエレクトロニクスのうねりをかすかに重ねた。それで十分だった。なにしろ「Is it safe?」という、オリヴィエの台詞の抑揚自体が音楽だったからね。あれは質問じゃない。恐怖の扉を開くための音楽なんだ。(マイケル・スモール)

UHD PICTURE - 4/5  SOUND - 4/5

画像: 4K SCREEN CAPTURE 映像平均転送レート 76489 kbps(HDR10)| 5885 kbps(DOLBY VISION 7.14%) 音声平均転送レート 2892 kbps(DTS-HD Master Audio 5.1 | 48kHz | 24bit) 1945 kbps(DTS-HD Master Audio 2.0 Mono | 48kHz | 24bit)

4K SCREEN CAPTURE

映像平均転送レート 76489 kbps(HDR10)| 5885 kbps(DOLBY VISION 7.14%)
音声平均転送レート 2892 kbps(DTS-HD Master Audio 5.1 | 48kHz | 24bit)
          1945 kbps(DTS-HD Master Audio 2.0 Mono | 48kHz | 24bit)

画像: MARATHON MAN:IS IT SAFE? www.youtube.com

MARATHON MAN:IS IT SAFE?

www.youtube.com

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