私立警察か 夜の私刑者か 妻の面影、娘の涙を心に抱いて
さすらいの狼が仕掛けた闇の罠!
観客と評論家に人気があったにも関わらず、ハリウッドでスタアの座を得られず、『サン・セバスチャンの攻防』に出演後ハリウッドを離れ、ヨーロッパに活躍の場を移した好漢ブロンソン。『さらば友よ』『ウエスタン』『雨の訪問者』『狼の挽歌』など、ヨーロッパでの活躍はご存知の通り。そしてフランス ・イタリア・ スペイン合作西部劇 『レッド・サン』に出演後、ハリウッドに凱旋する。
一方、イギリス人監督ウィナーは、 ハマー・ホラー作品で知られていたオリヴァー・リードとコンビを組んだことで才能を開花、ふたりのコンビ作『ジョーカー野郎』『明日に賭ける』『脱走山脈』をヒットさせる。なかでも高い評価を受けた『脱走山脈』は、ハリウッドで注目を集め、ユナイテッド・アーティスツの招きで修正主義西部劇『追跡者』を監督、アメリカ映画デビューを飾った。
ブロンソンとウィナーが初コンビを組んだのは、やはりユナイテッド・アーティスツが製作配給した『チャトズ・ランド』であり、ウィナーはハリウッドでのブロンソンのペルソナを確立したと言われる『メカニック』『シンジケート』『狼よさらば』を放つ。
ニューハリウッド(1960年代後半から70年代半ばにかけて起きたムーブメント)の流れを避けて、伝統的なハリウッドスタイルで演出した。自警行為は魅力的なファンタジーかもしれないが、現実には事態を悪化させるだけだ。それを描くために、主観的なテクニックの使用を避け、観客がアクションの中心にいるのではなく、客観的にドラマの展開を観るようにした。(マイケル・ウィナー)
『狼よさらば』でブロンソンが演じるのは、成功したニューヨークの建築家ポール・カージー。ある日、暴漢によって妻が殺害、暴行を受けた娘は精神を破壊されてしまう。この事件をきっかけに、ポールは銃の力を借りて犯罪者に私的制裁を加えていく。『狼よさらば』はブロンソン・フィルモグラフィの中で重要な作品のひとつであり、本作以降20年間で4つの続編を生み出している。
ブライアン・ガーフィールドの小説は、狂気に陥る普通の男についての話だ。自衛行為を続けるうちに主人公の精神は歪んでいき、終いには武装していないティーンエイジャーの容姿が気に入らないという理由だけで撃ち殺すんだ。私の脚本はシドニー・ルメットの監督作となるはずだった。犯人を追う市警刑事フランク・オチョアが主人公であり、刑事をヘンリー・フォンダ、犯人をジャック・レモンが演じる予定だった。監督とスタアの土壇場での変更は、すべてを変えてしまった。(脚本ウェンデル・メイズ/『眼下の敵』『ポセイドン・アドベンチャー』)
撮影監督は『真夜中のパーティー』『セルピコ』のアーサー・J・オーニッツ。軽量コンパクトで静音性の高いパナビジョンR-200 PSR(Panavision Silent Reflex)撮影。パラマウント・アーカイブ部門主導による、35mmオリジナルカメラネガからの最新(2022年)4Kデジタルレストア/HDRグレード。HDRはHDR10とドルビービジョンをサポート。ちなみに本作は2014年に米ワーナーからBLU-RAYリリースされている。これは2012年、ワーナーがパラマウント映画600タイトルの権利を購入したことによるもの(契約の有効期間は3年間)。
照明は可能な限りシンプルにした。過度な照明でニューヨークの街頭を別の街のようにしたくなかったからね。ナイトシーンの撮影ネガは露光不足となり、ラボで増感するんだ。それには厳密で適正な露光が必要となる。ニューヨークのテクニカラーラボは完璧に仕事をこなしたよ。おかげであの時代のニューヨークが持つリアルな空気感を再現できた。それは私やマイケル(ウィナー)が求めていたものだ。(撮影監督アーサー・J・オーニッツ)
大きな相違点は1.78:1ハイビジョン・アスペクトから、1.85:1オリジナル・ビスタサイズに修正されたこと。単に上下マスキングを施したものではなく、インターポジを使用したBLU-RAY版と比較するとフレーミングの違いも視認できる。主に夜または暗い場所が舞台となるが、それでも全体的なディテイルの明瞭度、黒レベル、色調が改善されている。粒子感は適切にレンダリングされているが、ナイトショットによってはわずかにDNRの痕跡がある。
HDRグレードは控え目ではあるが、コントラストと色域の拡張は明快。なかでもBLU-RAY版に比べれ彩度の改善が遥かに優れており、全編を通じてウォームトーンに寄せられ、色階調もシームレスに拡張している。高精細感とは無縁の映画ながら、粗い質感を湛えたタフな映像は観応えあり。撮影監督オーニッツが切り撮ったニューヨークのロケーションは、貴重な映像資料としての重みをもつ。
音響エンジニアは『ジョーカー野郎』に始まるウィナー監督作品や、『デュエリスト 決闘者』『上海サプライズ』で知られるヒュー・ストレイン。2017年パラマウントBLU-RAY版と同マスターと思われるDTS-HD MA2.0(ステレオ)サウンドトラックと、今回新たにリミックスされたDTS-HD MA5.1サウンドトラックを収録(使用素材は不明)。
5.1chミックスはフロントヘビーであるものの、警察署内、ニューヨークの歓楽街、地下鉄の列車内でサラウンド効果を機能させる。2.0chトラックの整音精度はわずかながら高まっており、なかでも中音域(発声)の明瞭度が改善されている。物語のムードを確立する音楽は、ミケランジェロ・アントニオーニ監督作 『欲望』以来、8年ぶりにサウンドトラックを担当したハービー・ハンコック。ストリングスと融合させた、グルービーなフュージョン・ビートは聴きどころのひとつ。
スタジオはドン・エリス(『フレンチ・コネクション』)やデヴィッド・シャイア(『サブウェイ・パニック』)を候補に挙げたが、ディノ(デ・ラウレンティス)は最初からハービー・ハンコックを考えていたようだ。もちろん異論はなかったよ。前の年に発売された『ヘッド・ハンターズ』は、私のお気に入りだったからね。(マイケル・ウィナー)
UHD PICTURE - 4/5 SOUND - 4/5
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