1980年。4月に巨匠ヒッチコックが他界したこの年、そのヒッチコック作品の圧倒的影響下にあったデ・パルマが挑んだサスペンス・スリラー。愛すべきサディスト、デ・パルマは『サイコ』『めまい』『裏窓』といった作品のエピゴーネンぶりを隠すことなく、様式化された暴力のイメージ、魅惑的であからさまなエロティシズム、観る者に衝撃を与える才気と力量を本作で示してみせた。
ヒッチコックの映画には、驚くほど視覚的なアイデアがあった。だがその多くは、現在の映画製作では追放されているように思う。この種の視覚的なストーリーテリングは、時代遅れになってしまったんだ。(ブライアン・デ・パルマ)
『ミッドナイト・クロス』(クライテリオンから9月UHD BLU-RAYリリース)とともにデ・パルマ・ベストに挙げられる本作だが、独特の凄みを帯びるフーダニット(Who done it?/犯人解明を重視した小説・映画)の素晴らしさは、実のところジェラルド・B・グリーンバーグの編集によるところが大きい。『フレンチ・コネクション』『地獄の黙示録』『クレイマー、クレイマー』『天国の門』『アンタッチャブル』といった作品で知られるグリーンバーグは、流れるようにショットを積み重ね、観る者はその腕の冴えにたちまち引き摺り込まれてしまうのである。
撮影監督は『サタデー・ナイト・フィーバー』のラルフ・ボード。35mmパナビジョン・アナモフィック撮影。35mmオリジナルカメラネガからの4Kスキャン/デジタルレストア/HDRグレード。当初、デ・パルマがHDRグレードを監修するとアナウンスされていたが、最終的にはプロジェクトに参加しておらず、カラーワークス(現デラックス傘下)主導で作業が行われている。それでもデ・パルマが監修を務めた2015年クライテリオンBLU-RAYよりも、画像は大幅に改善されているといってよかろう。ちなみにクライテリオンBLU-RAYでもカラーワークスが作業を手掛けているものの、スキャン比率のエラー(リコール/再リリース)があり、カラーグレードの出来映えもいまひとつであった。
撮影監督ボードによる絶妙なソフトレンズ/ソフトフォーカスの絵づくりながら(髪の毛一本一本まで高精細に描く撮影スタイルではない)、ソリッドで洗練された粒子感、より緻密なディテイルを備えたている。HDR とWCGはコントラストと明るさのバランスも均一に保ち、深い黒レベルを実現、より細緻な画像ニュアンスを引き出している。同時にクライテリオンBLU-RAYに見られた緑味の強い色調も払拭。光彩はクールトーンに傾いており、多用される鏡やカミソリといった日用品の意匠の光沢や反射光が視覚的緊張感を著しく高めている。
2.0 MONOトラックは35mm磁気トラックから 24 ビットでリマスター。リミックス5.1chトラックも同時収録されるが、こちらは2011年 MGM BLU-RAY収録5.1chトラックのリユースとなる。当然、推奨されるのはMONOトラックでの鑑賞となり、5.1chトラックではサウンドの起伏が抑制されており、音場の拡張は聴取できるものの薄弱な印象となる。ピノ・ドナッジオによる美メロは聴きどころのひとつで、映像とのコントラプンクト(対位法)の効果も強化されている。
UHD PICTURE - 4.5/5 SOUND - 4/5
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