コロナ禍による分断は人の心をどのように変えてしまったのか? 数多くのドキュメンタリー作を発信してきた中村真夕監督の最新作は、そのコロナによって大きく変わってしまった日常や日々の暮らしの中における女性の心理の動きを、繊細な映像で綴った注目の1本。4話からなるオムニバス形式の作品で、全話の主演を務めるのは、数々の話題作に出演、高い評価を得てきた菜 葉 菜。ここでは本作出演の感想、1人4役芝の苦労などについてインタビューした。
――よろしくお願いします。今回は1人で4役を演じ分けた作品になりますが、どのような経緯でこの形になったのでしょうか?
まず、2020年に「4人のあいだで」を撮って、その1年後に残りの3話を作ったという流れになります。最初の「4人のあいだで」が、映画祭での評判が良かったこともあって、監督が1本の長編として劇場で上映したい、そう思って残りの3作を作って、オムニバス形式の作品にまとめたものになります。それぞれの女性を私が1人で演じたら面白いんじゃないかっていうことで監督が声をかけてくださって、残り3本の出演(主演)が決まりました。
――そういう流れだったんですね。本作で挑戦した1人4役は、役の設定だけでなく、年代もそれぞれ違っていました。最初に話を聞いた時はどう思いましたか?
すごく面白そうって思いましたね。確かに、挑戦ではありましだけど、それほど深く捉えずに、面白そうの方が勝ちました。なかなかできることではないですし、そういう作品に参加できること自体がもう嬉しくて! 役者としてステップアップできるんじゃないか! そう思って受けました。
実際には、それぞれの役について違いを出そうとはあまり思っていなくて、それぞれの女性をていねいに、素直に演じようと思っていました。髪型などのビジュアル面での差をつけようというのは監督とも共有していましたので、違いと言えばそれぐらいで、後は、この1人1人の女性をどう演じようか? そこに意識を集中してやりましたので、特に難しくはなかったですし、悩むということはありませんでした。
――実際に演じ終えてみて?
終わってから、大丈夫だったかな? って、ふと我に帰ることはありましたけど、演じている時はそれほど意識していませんでした。それよりも共演者の方――今回は2人芝居が多かったこともあって、話ごとの相手役の方に、全然違う世界に連れていってもらえるんですよ。そういう意味では、自分がどうしようというよりは、その役をていねいに演じることで、相手役の方と一緒に世界を作っていけた感じなので、4役を演じ分けないといけない、という苦労はなかったです。
――相手役ということでは、第二話「ワタシを見ている誰か」の好井まさおさんは印象に残りました。
やっぱり(笑)。これが一番難しかったんですよ。おそらく監督も脚本に一番時間をかけた話で、これは観る人によってはもう、共感できずに全拒否してしまうかもしれないと思います。私も、ものすごく弱っている時だったら、こういう人に救いを求めてしまうかもしれないなって思いました。
――3度目の配達の時に、部屋に招き入れてもらったことで、男としてはなにかこうピンと来るものがありますよね。
そうそうそう、勘違いしますよね。(その役を演じた)好井さんもそう言っていました(笑)。
――そこで話をして、盛り上がって来た(距離が縮まってきた)時に、男は大失敗をします。その時の女性の変わりようも、ある意味怖かったです。
まあ、私の演じた役も、精神的に弱っている状態なので、人の温もりを欲していて、この人ならそれを満たしてくれるかもしれないと思って――まあ、それも身勝手ではあるんですけど――招き入れたんですけど、えらい目にあって、怖くなってしまう、と。
――悪い人ではないんですけどね。
そうなんですよ。監督も、変な人とか悪い人に見えなくて、拒絶はしてもどこか憎めない、キモかわいい人、という人物を考えていたので、好井さんだからこそ成立した話なのかと思います。
――これは監督の実体験なんでしょうか?
妄想じゃないでしょうか(笑)。監督って、ドキュメンタリーも撮っている方なので、実際にあったいろいろな話を聞いていて、そこからの着想に(ご自身の)妄想を込めたのかなぁ~と。ちょっぴりファンタジーな要素とかサスペンスの要素も盛り込みつつ、人間の多面性みたいなものを描いているのだと思います。
――映画の登場人物って、結構監督の分身であることが多いですよね。
そうそう、それはもう、第四話「だましてください、やさしいことばで」で――ご自身で仰っていましたけど――盲目の女性が、男の子の顔を触るじゃないですか。あれをエロティシズムとして、どうしても入れたかったそうなんです。
実際に、撮影前に盲目の方々にお話を伺ったんですけど、パートナーの方の顔を触ることは、しない人のほうが多かったんです。でも、監督はそれをやりたかった。ちょっと年上の女性が、男の子の顔を触る。そこに生まれるエロティシズムを描きたかった! だからやったって監督は仰ってしいました。先ほどお話した第二話の脚本は、すごく揉んで揉んでたいへんだったそうですけど、このお話はスッと決まったそうです。
――途中で相手の正体に気づいても、それを表に出さない女性の優しさを感じて、この話が一番印象に残りました。同時に、目の見えないという雰囲気もよく感じました。
ありがとうございます。そう言っていただけてよかったです。盲目の役は初めでしたので、観ていただいた方に嫌悪感を与えても嫌だし、芝居をしているって思われても嫌だったので、すごく神経を遣いました。
途中から目が見えなくなってしまった女性という設定でしたので、目は開いている、その上でどこに目線を置くかについては監督とをすり合わせながら詰めていったので、“目線”については、かなり意識をして演じました。
――話を進めまして、第三話「ゴーストさん」は、毛色の変わったファンタジーとホラーが混じった感じになっていました。
そうですよね。まあ難しい話ではあります。ここでは、浅田美代子さんと共演できたことが一番嬉しかったです。浅田さんのお芝居って、自然に見えて、実はすごく難しいことをされているんですよ。毎回、どうしたら浅田さんのような自然なお芝居ができるのかなって、すごく悩んでいたんです。同じ作品に出演したことはありましたけど、本作のような共演をするのは初めてでしたから、すごく楽しみでもあり、同時に緊張していました。
実際にお芝居のやり取りをしてみて、浅田さんは作品全体のことを考えていらっしゃるんだなということがよく分りました。劇中で、お互いに自分の内に秘めているものを話すシーンがありますけど、その時のテンションとか、お芝居の様子――悲しく言うのか、努めて明るく言うのか――について、2人のバランスも含めて、すごく難しいなぁと思っていたんです。テストの時に、私は自分のやりたいように演じたのですが、浅田さんに、菜 葉 菜さんがそうやって明るく言うんだったら、私もそうしようかなって、言われたんです。それで、私の芝居も含めて、作品全体のことも考えてくださっていたんだなって感じて、本当に短い期間でしたけど、共演で得たものはすごく大きくて、有り難かったですね。
――ネタバレしないように聞きますが、ラストにはドキッとしました。
そこは、監督の中ではすんなりと進んだ(決まった)そうで、私自身もその想いを監督と共有して、違和感なく演じることができました。まあ、本当に映画のタイトル「ワタシの中の彼女」のままですよね。この人の人生は、もしかしたら私だったのかもしれない……。加えて、観て下さった方の人生の中にも、同じものがあるのかもしれないって。綺麗ごとだけではないその描き方が、サスペンス要素を強めている部分もあると思います。私はそこに監督の色がすごく出ているなぁと感じて、大好きなシーンになりました。
――話を少し戻しまして、この作品の始まりでもある第一話「4人のあいだで」の撮影はいかがでしたか? ちょうどコロナが猛威を振るい始めたぐらいの撮影と聞いています。
ちょうどオンライン飲み会が流行り出したころの撮影で、それを取り入れた作品はほかにもありましたから、何か違うことをやろう。じゃあ、室内ではなくて屋外でやろう、ということで、公園での撮影になったんです。私自身、結局オンライン飲み会を経験したことがなかったので(笑)、こういう感じなんだって思いながら撮影していました。
――でも、実際のお芝居では、相手が目の前にいての掛け合いが大事になると思いますが、いない状況での芝居はどうでしたか?
多少やりにくい部分はありましたけど、目の前に相手がいない(見えていない)からこそ言えてしまう言葉とか、出せる感情があるんだなぁと感じました。
まあ、普段の芝居とは違う芝居ができたという新鮮さもありましたし、(相手が)見えてないからこそ出てしまう表情や言葉については、そういうことも言えちゃうよなぁという、ある種の面白さもありました。
――段々、話す内容がエグイ方向にいってしまいます。
それが中村監督なんですよ。各話にちょっとしたホラー要素があったり、こう一筋縄ではいかない展開とか、ひねりがあるのは、監督ならではと思います。
――体の相性が合ったとか、ドキッとするセリフもありました。
そうそう、そうなんですよ。そういう直球的な描き方とか、独特の世界観は、中村監督の持つ鋭さなのかなと思います。誰しもが心の奥底にあるものを見逃さないで、きちんと表現する。私も、共感しました。
――ちなみに、菜 葉 菜さんが本作にもう一つのエピソードを加えるとしたら、どんな内容を考えますか?
えっ! 最後にすごい質問が来ましたね。うーん何でしょう、まあ、もうちょっと直球のエロスを入れたいですね。私がどうしたというものではありませんけど(笑)、女性だって、いくつになってもエロスを求めている人もいるだろうし、いつまでも女性だし、その女性であることを描くのであれば、エロスも堂々と表現したいです。観て下さった方の中では、うわぁ~すごいことを描いたね。でも、その気持ち分かるよって言ってくださる人もいるんじゃないかって思います。
実は、(私の)特技に書いてあるベリーダンスは、エロスを身に着けたいと思って始めたものなんです(笑)。『ワタシの中の彼女2』が実現したら、披露したいです。ぜひ!
映画『ワタシの中の彼女』
11月26日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー
「4人のあいだで」 菜 葉 菜、占部房子、草野康太
「ワタシを見ている誰か」 菜 葉 菜、好井まさお
「ゴーストさん」 菜 葉 菜、浅田美代子
「だましてください、やさしいことばで」 菜 葉 菜、上村侑
監督・脚本:中村真夕 企画:中村真夕、齋藤浩司 プロデューサー:浅野博貴 撮影監督:辻智彦 録音:菅沼緯馳郎、古谷正志 制作:姫田信也、紫木風太 グレーディング:池田圭 衣装:越中春貴 ヘアメイク:升水彩香 製作/配給:ティー・アーティスト
2022年/日本/カラー/ステレオ/1:1.78/DCP/69分 レイティング G
文化庁「ARTS for the future!」補助対象事業
(C)T-Artist
菜 葉 菜公式サイト
http://www.t-artist.net/nahana.html