HKT48を卒業後、本格的に女優として活動している兒玉遥が初主演を飾った映画『空のない世界から』が、いよいよ10月21日(金)に公開される。社会のセーフティネットから零れ落ちてしまうことの多いシングルマザーや無籍者を題材にした本作。監督を務めた小沢和義の描きたかった強いメッセージを、彼女が全身で体現した注目作だ。ここでは、その兒玉にインタビューを実施。役作りから現場での苦労などを聞いた。
――よろしくお願いします。まずは、初主演作が公開を迎える今の心境をお聞かせください。
ありがとうございます。最初は不安でしたけど、だんだんと楽しみになってきました。同時に、今回演じたシングルマザーの姿を観て下さった方がどういう反応をされるのか、ドキドキと楽しみが入り混じっています。
――本作への出演の経緯は?
スタッフの方から、社会性のある映画を撮りたい、その主演をお願いしたいとオファーを頂いて(出演が)決まりました。
――内容は、社会性があるだけに結構重たいものになっています。出演の決め手は?
私自身、女優の道を選んだ時に、幅を狭めず、自分で枠を決めないで、どんな役も演じきろうと思って転身しましたから、お話を頂いた時から“絶対にやる”という決断しかなかったですね。迷いはなく、体当たりでやらせていただきました。
――最初に台本読んで、演じられた藤井麻衣香をどう感じましたか?
自分の思っていることを話したり、表に出すのが苦手な子で、自分の中に溜め込んでしまうタイプなので、そうした部分をセリフではなく、しぐさや表情でどう表現しよう、演じようかという部分を大事にしようと思いました。
――具体的には?
ある意味、なり切っている部分はありましたね。撮影中はもう、役作りをどうしようと考えていなかったように思います。基本的に、事前に監督と何度もディスカッションをして、本番までに不安がない状態にしてから、撮影に入っていますから、現場ではスタッフさんの支えもあって、すごくやりやすかったなという印象です。
結果として、作ろう、演じようということを意識をせずに、カメラの前に立てたのは、自分の中では嬉しい出来事になりました。
――ディスカッションはどのような感じで行なったのでしょう。
私の意見をお伝えするというより、監督の求める麻衣香像を明確に把握するために、(監督の持つ麻衣香の)イメージや意見を聞いて、それに近づけるように、近づくようにしていきました。そうしたディスカッションを通じて監督は、常に自信を持たせてくれるような言葉をかけてくださったので、本当にありがたかったです。
――監督、一見怖そうですけど。
めちゃくちゃ優しいですよ。現場では、一番優しかったです。ご兄弟揃って“顔面凶器”って言われていますけど、実際は超温厚で、とても柔らかい方です、はい。
――そんな麻衣香は、物語が進むにつれて心境が変化していきます。
そうなんです。最初は自信がなくて、殻に閉じ籠って、娘と自分の2人だけの世界だけで生きているみたいな感じですね。まあ、端から見たらちょっと痛い大人に見えるかもしれません。でも、それが正しいと思ってずっと生きてきたんです。
それが、旦那から逃げ出してホテルに住み込みで働くことによって、家族ではないけど、家族のようなスタッフに支えられたり、アゲハ(佐藤江梨子)との出会いもあったりして、ちょっとずつ外の世界に目を向けられるようになって、人の温かさに触れて成長していきます。
そうした女性を演じるわけですから、自分がこう演じようというのではなく、ストーリーの展開に沿ったお芝居をしていく。その流れの中で、少しずつ麻衣香自身が強くなっていく姿を表せたんじゃないかなって思っています。
――その変化を演じる中で、記憶に残っていることはありますか?
子供との掛け合いを、よりナチュラルにするのは難しかったです。
――子供の反応がそっけないから?
違います、違います。私にとっては、子供の存在ってすごく特別に感じるけど、母親であれば、子供と毎日一緒にいて、三食一緒に食べるなど、とても密接な関係の中で生活していると思うんです。そうした関係性の中で、普段している親子の会話を、より自然に表現するところには、特にこだわってお芝居をしたので記憶に残っているんです。ただ、あまり考えすぎないのが一番だったかなと、今では思います(笑)。
――麻衣香の前半の姿を見て、演じて、感じるものはありましたか?
自信を失わざるを得ない状況にいることで、(自分を)弱いなって感じる部分も多いだろうし、その分、後ろめたさもあると思うんです。社会に対して、強く、前向きにいられない。そんな役を演じていると、正直、心苦しくなりました。
――ちなみに、楽屋はどんな雰囲気だったのでしょう。
ずっとさくら役のつむぎちゃんと一緒でした。お芝居好きなのとか、将来何になりたいのとか質問したら、何でも答えてくれて、本当に可愛かったし、楽しかったです。子供とこんなに長くおしゃべりする機会もないから、とっても癒されました!
――一方で、アゲハ役の佐藤江梨子さんはいかがでしたか?
部屋で“助けてー”って叫ぶシーンが一番、自分の中では印象に残っていて、そこは佐藤さんとつむぎちゃんにすごく助けられました。
たった一言ですけど、麻衣香にとっては、まだまだ口には出せない言葉だったので、ものすごい葛藤があったんだろうな、と。ただ現場では、何回も煽られるので(笑)、気持ちを持っていきやすかったというのはありました。
アゲハさんみたいに、しっかりと物を言える女性もかっこいいなって思いますし、言葉には人を助けられる力があるんだなって感じました。
――中盤には、監督のお兄さんの小沢仁志さんも登場します。
オーラがすごかったですよ。来た瞬間にものすごい迫力があって! でも、監督と二人で並ぶと、なんだかコントをしているみたいで、会話が超面白いんですよ。
――ところで、さくら(つむぎ)ちゃんと踊るシーンの振り付けは児玉さんがされているそうですね。どういうイメージで作ったのでしょう?
バストアップのショットだったので、手振りを多めにしようと思って作りました。アップで撮られても、顔の近くに手が来て、しっかりと映るようにと思って。
――つむぎちゃんはすぐに覚えてくれた?
撮影3日前ぐらいに、私が踊っているビデオで送ったら、覚えてきてくれましたから、すぐにできるようになったのではないでしょうか。
――それにしても旦那はひどい奴ですね。
本当ですよ。逃げても逃げても追いかけてきて、常に追いかけられているっていう恐怖に、麻衣香は縛られているんです。
――でも、周囲の助けもあって、その呪縛から逃れる決断をします。
そこは、印象的なシーンにしたいというスタッフさんに身を任せて、流れのままに撮っていただいたという感じですね。実際には、そこで麻衣香が過去を吹っ切るという描写になりますので、それまでとは違った力強さを持った姿を見てもらえるように、というところは意識しました。
――あと、ネタバレなのでボカシますが、麻衣香が化粧をするシーンも印象に残りました。
そこは、監督が入れたいと熱望したシーンなんです。リップを塗る姿を見せることで、今までとは違うということを表せたかなと思います。
――さて、今回主演作を経験して、ご自身の中で、成長を感じた部分はありますか?
はい。自分に経験がないもの――母親として疑似体験ができた――を演じられたことが、大きな糧になりました。それによって、自分に今まで無かった引き出しが増えた気がして、そこは女優として、すごくいい経験になったと感じています。
――今後やってみたいことはありますか?
いっぱいありますよ。中でも、医療モノはすごくやってみたいですね。セリフが多そうだし、専門用語もたくさんありそうで、大変そうだなって感じますけど、絶対に力がつくだろうなって思います! ただ血が出るのはあまり得意ではないので、先生ではなく、ナースの方がいいかもしれません。ちゃきちゃきと現場を仕切るような雰囲気で。まあ、ナース服もかわいいですから(笑)。
――今後の抱負をお願いします。
やはり、女優業を中心にしていきたいというのが一番ですね。でも、女優業をメインとした活動の中でも、例えばバンドのボーカル役をやれば劇中で歌も歌えますし、仕事を芝居だけっていう風に枠を決めずに、いろいろなものにチャレンジしたいです。ファッション誌にも出たいですし、歌も踊りも機会があるならばやりたいです。
映画『空のない世界から』
2022年10月21日(金)より、シネ・リーブル池袋 ほか全国順次公開
<キャスト>
兒玉遥 つむぎ 佐藤江梨子 上村侑/根岸季衣 窪塚俊介 本宮泰風/小沢仁志
<スタッフ>
監督:小澤和義 脚本:梶原阿貴 音楽:吉川清之 製作:人見剛史 エグゼクティブプロデューサー:鈴木祐介 プロデューサー:角田陸、神崎良、佐久間敏則 協力プロデューサー:見留多佳城 撮影・照明:今井哲郎 美術:早坂英明 録音:水嶋優太 編集:恒川岳彦 助監督:須上和泰 衣裳:片柳利依子 ヘアメイク:結城春香 制作プロダクション:G・カンパニー 配給・宣伝:ライツキューブ 宣伝協力:キグー
2021/67分/DCP/シネマスコープ/ステレオ
(C)2021 ライツキューブ
【兒玉遥 プロフィール】
2011年、HKT48の第1期生オーディションに合格。同グループのメンバーとして活動を開始し、センターポジションも務める。2016年には第8回AKB48選抜総選挙で自身最高となる第9位に輝く。2019年6月にHKT48を卒業後、女優としての活動を本格化し、2019年に卒業後初の舞台『私に会いに来て』へ出演。舞台、映画などジャンルを問わず様々な分野で活動を広げており、今後ますますの活躍が期待される。
ヘアメイク:宮本圭歌