様々な分野でプロダクトの企画、開発を手がけるRE・LEAFから、ユニークなテレビスタンド「F5-SB」が発売された。われわれの毎日の生活に欠かせないテレビの音を改善し、最高の品質で楽しんでもらいたいという思いから、こだわりまくって開発された製品という。
今回はF5の企画・設計を手がけたRE・LEAF株式会社 代表取締役社長 古賀 剛さんと開発設計部門 亀田克久さん、製造を担当した株式会社大橋製作所 メタル事業部 営業グループ 星 次男さんにF5開発の苦労話をうかがった。
●テレビスタンド+サウンドバーブラケット
RE・LEAF 「F5-SB」 ¥360,000(税別)
テレビスタンド「F5」 ¥280,000(税別)
サウンドバーブラケット「AC-SBM-F5」 ¥80,000(税別)
※オプション:リアカバー「A-RC-F5」、転倒防止機構「AC-FP-F」、スパイク「CSI-F5」
——RE・LEAFさんから発売されたテレビスタンド「F5-SB」は、従来の同様モデルとは開発コンセプトから異なる唯一無二の存在だと聞いています。確かに、製品の作りもお値段も別格と言っていいでしょう。まずはなぜこれほどの製品を作ろうと思ったのかからうかがいたいと思います。
古賀 弊社は、世界初、世界一を目指すという社是をかかげていて、究極の技術から感性価値を妥協なく追究するという姿勢をとっています。
様々な分野の物作りを手がけていますが、そのひとつとしてテレビスタンドも開発しました。最近は薄型テレビも大型化が進んで、映像はどんどん綺麗になっています。でも内蔵スピーカーの音は追いついていないように感じています。
僕としては、全世界にテレビをいい音で楽しみたいというニーズはあると考えています。最近は音のいいサウンドバーも登場していますから、そういったものと組み合わせて使っていただきたい。そんな普遍的な価値を追いかけています。
——そこまでの覚悟で物作りに取り組んでいるメーカーは少ないかもしれませんね。その分苦労も多いのではありませんか?
古賀 確かに、言うのは簡単ですが実現するのはたいへんです。そもそも製品作りにしても、試行錯誤がとんでもなく多いんです(笑)。当然、手間も時間もかかります。また僕自身が前職でオーディオ、ホームシアター関係の仕事をしていたこともあり、サウンド面でも妥協はしたくありません。
製品づくりにしても、そんな姿勢に忍耐強くお付き合いいただける工場は決して多くありません。また工業製品なので、コストも無視できませんし、前例の無い仕様要件に対して、最終的な完成形を幾多の試行錯誤から探ることが多いので、全工程を逆算的に俯瞰する洞察がとても重要です。今日お邪魔している大橋製作所さんは、そんなわがままにお付き合いいただける貴重な存在です。
——物作りのパートナーがいてくれるというのは大切ですからね。
古賀 本当に助かっています。オーディオのような趣味の製品では、ある程度振り切った方針を持っていないと、ユーザーから期待される剛性とか強度、精度が出てこないのです。最初に妥協してしまうと、結果として音質などに響いてくるんです。それを避けたいので、現場の方にはすごく苦労をかけています。
——さて、新製品のF5の特長について教えていただけますか。
古賀 F5は、40〜85インチの薄型テレビが取り付けられるテレビスタンドです。中央のポール部分がスムーズに回転するので、色々な角度で楽しみたい時もストレスなく調整できます。またサウンドバーを設置できるスタンドが一体化されていますので、画面を回転しても音がずれるような事はありません。
注目していただきたいのは、本体の剛性です。ベースプレートが6mm厚、後ろでテレビ本体を支えるブランケットは4.5mm厚、その他の部分は3.2mm厚の鉄板を使っています。スタンド(パイプ)の板厚は6mmで、正直ここまで異なる超厚の鉄鋼素材を組み合わせた、高精度の板金加工の設計はなかなかありません。
大橋製作所さんで、4.5mm厚の板金を曲げていただいているんですが、他の会社さんではここまでの精度は出せないと思います。そのため部品ひとつを作るのもたいへんなんです。加えて、それらを組み合わせて製品を仕上げなくてはならないので、設計と製造のすりあわせにはかなり気を遣いました。
——正直、テレビスタンドにそこまでの強度が必要なのか、という気もします。
古賀 あくまでも音質を重視した結果です。そもそもF5を企画したのが9年前で、その時にテレビスタンドは必ず人気商品になっていると思っていました。
というのも、テレビも画質競争の次は必ず音質競争になると考えたからです。4K/8Kが普通になったら、画質で差別化するのは難しくなります。そうなった時にテレビに求められる価値は、まず音質、それからインテリア性ですからね。
実際に最近はテレビメーカー各社も音質に配慮し始めていますし、サウンドバーも海外製を中心に本格的なモデルが登場しています。でも、それらの製品を単純にテレビ台に載せたり、サウンドバーを直置きすると、本来の音を再現できないのです。F5は、まさにそこをなんとかしたいと思って企画ました。
——具体的には、どんな点が問題なのでしょう。
古賀 まず問題になるのが、大画面テレビは薄いということです。特に有機ELテレビなんて厚さ1cm前後ものものある。これではボリュウムを上げたら(本体が)共振してしまいます。しかし、テレビ本体を鉄板に四隅できちんと留められれば、全体の制振にもつながりますし、剛性も取れます。当然音がよくなるわけです。
また最近はサウンドバーを組み合わせることが多いでしょうが、サウンドバーはラックに直置きすると音が反射してしまうので、本体を浮かせた方が音はよくなります。弊社ではサウンドバーを載せる台についても、3.2mmの鋼板を採用しています。ただ載せるための棚ではなく、載せて音がよくなることが重要なのです。
——いい音を楽しめるテレビの取り付け方、サウンドバーの置き方を簡単に実現できると。
古賀 今後はテレビがインテリアになっていくということで、後ろから見ても美しくなるように、ケーブルをすべて隠すということにも配慮しました。スタンドのパイプは内径55mm以上ありますので、相当太いケーブルも通せます。
たいへんたったのは、テレビはサイズによって40〜80kgの重量があることです。それをどのサイズも同じ状態で支えて、かつ転倒角も15度以上を確保しています。
他にこだわった点としては、F5はスイーベル対応ですが、回転部分の中心点上側に滑車を設けています。ここにワイヤーを通して壁に固定することで、パネルの向きを自由に変えつつ、転倒防止を実現しました。回転の快適さも大切なので、滑車部にはボールベアリングを仕込んでいます。
——そこまで考えているとは、かなりマニアックですね。
古賀 テレビを支えるだけとか、壁寄せ設置するためという概念ではなく、音質で差別化する、そのために人類が作れる最大の強度を目指していると自負しています(笑)。
もちろんF5は価格も高いので、すべてのユーザーにお使いいただけるとは思っていませんが、音のよさ、設置時の美しさ、ケーブル処理のスマートさといった部分を認めていただけると嬉しいですね。なお弊社では、テレビの設置は必ずプロの業者さん、インストーラーさんにやっていただくことになっていますので、万全な状態で設置できます。
——ではここから、実際にF5を設計・製造する際の苦労話もうかがいたいと思います。最初にF5のコンセプトを聞いて、亀田さんはどう考えたのでしょうか?
亀田 私が参加した時には、F5のプロジェクトは既に進んでいました。設計についてもある程度完成したところから引き継いで、私が仕上げたという形になります。
——それを実際に大橋製作所さんで作っているわけですが、これは試作段階から決まっていたわけですか?
古賀 はい、最初から決めていました。大橋製作所さんはクライアントの要望に合わせてさまざまな製品を仕上げる高い技術をお持ちです。特に弊社の場合は開発工程が大切で、アッセンブリーをする時の具合は現場の皆さんのスキルが要求されます。大橋製作所さんにはそれに対応してくれる若手スタッフもいらっしゃいますので、それらを含め、最適な場所にお願いできたと思っています。
——4mmという板厚を使うということですが、どんな理由で決まったのでしょう。
星 基本的には、これ以上の厚さだと曲げられないとか、折れてしまうといった加工の限界です。また鉄板をレーザーでカットしますが、レーザーは溶断ですので、断面の上側は綺麗でも下側は断面がぼこぼこになってしまいます。それを踏まえて、どれくらいの厚さが限界かを探っていきました。
古賀 最初はすべて切削で作ろうと思ったのですが、それだととんでもない価格になってしまって、これはさすがに無理だと(笑)。
——リアカバーには曲面処理も施されるなど、ひとつひとつのパーツ部も手が込んでいます。
星 最近の加工機械では、ゆっくり叩いて曲げを作ることができますので、それを使ってゆるやかな曲面に仕上げています。側面はレーザーで形状を作ってから曲げ加工を施しています。後は、職人さんが溶接して形を整えていくわけです。
亀田 F5のように台座があって、そこに垂直に支柱を立てるというデザインでは、ここの溶接もとても難しいんです。
そもそも溶接では熱を加えるため金属が歪みますから、その対策も難しかったのです。またテレビを水平に設置できるようにするには、スタンドの強度と水平さが求められますが、これらはそれぞれ矛盾する要素です。そこのバランスをどうするかは、星さんと苦労して追い込みました。
星 パイプも特殊な二重構造なので、これを実現するのが難しかったですね。特にゆっくり、スムーズに回って、かつ安定しているということを実現するのはたいへんでした。
——F5は強度も大事だし、オーディオ的な品質を実現するために、普通のテレビスタンドとは違う物作りの厳しさも求められていると思います。そのあたりで苦労した事はありましたか。
星 できること、できないことを、正直に話し合っていきました。そのうえで妥協点を探っていき、さらにそれも本当に可能なのかといった具合に、コミュニケーションを取りながら進めていきました。
亀田 たとえば、ある部品が必要になったとすると、それが作れるのかなど設計段階に戻って考え直しています。
星 古賀さんも亀田さんも、本当にひんぱんに弊社に足を運んでくれています。問題が発生したら、現物を使ってどうしようということを確認します。製品を具体化する設計者、製造担当が、直接相談できるメリットは大きいですね。
——F5について古賀さんから出した条件、ここは絶対守って欲しいといった項目はあったのでしょうか。
古賀 第一に音質をよくすることです。テレビをきちんと固定して、歪みを抑えることが必要だと考えました。実際の製品化では背面プレートの平面性や剛性が求められます。
またテレビは自重があるので、どうしても前に傾きます。そこに対しての全体としての剛性、安定性や、嵌合部分の正確さもお願いしました。嵌合部分で鳴きがでないようにするということですね。
あとは、回転時の水平性と軽やかさにもこだわりました。感覚的な表現ですが、小指でも重たいテレビが軽くスムースにすっと動くことは、ある意味で非日常的な感覚ですので、驚きを超えて、高精度なメカ機構特有の快感を感じると思います。テレビを傷つけず、かつ気持ちよく使える滑らかさ、気持ちよさを目指しています。
——ちなみに星さんは、古賀さんの要望を聞いて、どう思いましたか?
星 とんでもないなと(笑)。実際に開発時には喧嘩腰になったこともあります。
古賀 星さんは人格者で、ちゃんと話を聞いてくれるんですよ。他の工場では、「そんなに言うならお前が作ってみろ」と怒鳴られたこともありますからね(笑)。
——さて、F5は既に発売されていますが、今のユーザーは何インチのテレビ、あるいはサウンドバーと組み合わせているのでしょう。
亀田 今のところは、75〜77インチが中心です。特にソニーの有機ELテレビは画面から音が出ますから、それを活かしたいというユーザーは多いと思います。
古賀 最新のサウンドバーについては詳しいデータはわかっていませんが、個人的にはゼンハイザーやB&Wなどハイエンド音響メーカーも続々と開発してきているので、こういった高音質を追求したサウンドバーと組み合わせて欲しいですね。
F5はいい製品に仕上がったと思っています。しかしまだまだ認知度が低いので、普及活動を頑張ります。特にF5の設置方法は、VESAから配線まで壁掛け施工と同じノウハウが必要ですし、製品の特徴と価値は、AVスペシャリスト、インストーラーなど専門家の方々からエンドユーザーにご提案いただくことが重要です。
そうしたアドバイスによって、最新のサウンドバーで高音質を追求する、スイーベル機能(水平回転)が便利なシーン、壁掛けができない場所への提案など、多くの方にテレビをいい音で楽しんでもらえるようになることを願っています。(まとめ:泉 哲也)