ぴあフィルムフェスティバルのPFFアワード2020で審査員特別賞を受賞した『頭痛が痛い』が、6月3日より待望の公開を迎える。メガホンを執ったのは、本作が初監督作となる守田悠人。ともに映画初主演となる阿部百衣子とせとらえとを迎え、人の心の奥底に巣くう死にたさの衝動を、陰鬱とした雰囲気の中で映像化している。ここでは、阿部百衣子とせとらえとの二人に、出演した感想を聞いた。
――今日はよろしくお願いします。お二人とも映画初主演ということで、上映を迎える今の心境をお聞かせください。
せとらえと 撮影からは4年、ぴあフィルムフェスティバルで上映してからももう2年は経っているので、今の時代の状況によって、映画の観方が変わってくるかもしれないという不安もありますけど、とにかく早く観てほしいという気持ちが強いです。ただ、今回上映される再編集バージョンは未見なので、自分自身の観方がどう変わるのか、興味があります。
阿部百衣子 私もせとらさんと同じ気持ちで、撮影してから時間が経っている作品なので、その間に私自身も色々と成長していればいいなと思います。初主演という嬉しさと、4年前の私ということで、恥ずかしいという気持ちもあります。でも、皆さんに観ていただくことで、色々と感じ取ってもらえるのがすごく楽しみです。2018年当時のことをぎゅっぎゅっと詰め込んでいるので、それが2022年になって、どういう捉えられ方をするのかというところが楽しみでもあり、怖くもありという気持ちです。
――撮影はそんなに前なのですね。
せとら 2018年の12月に始めて、翌年の4月までのおよそ半年をかけました。新型コロナが広がる前でしたね。
――いくが着ていたジャンパーに大きく“CORONA(コロナ)”って書いてありましたけど。
せとら 本当に偶然で。実は、そういう名前のブランドがあるんですよ。
――さて、お二人ともオーディションを経て、役を獲得していますが、オーディションを受けようと思った動機・理由を教えてください。
せとら オーディションの募集要項に載っていたあらすじを読んだ時に、鳴海に、過去の自分と重なる部分がたくさんあると感じたからです。加えて、監督の着眼点がすごく心に刺さってきて、絶対に出たいという気持ちで応募しました。
阿部 私も鳴海に共感してオーディションに行っているんですけど、決まったのはいくでした。ただ、当時の自分が抱えていた問題というか、葛藤していることに近い感情をいくがすごく持っていたので、共感する部分も多かったです。
――そんなに悩んでいたのですか?
阿部 そうですね。いくちゃんの、自分はこう見られているから、こうでなくてはいけないと思っているところ、つまり、自分自身の偶像によって自分の首を絞めるみたいなところは、すごく近いなと思って。
――そうした共感は役作りに活かしている?
せとら 過去の自分に近いところや被る部分があったので、そういう時はどうしたのかな、どう思っていたのかなという当時の心情を思い出しながら演じた部分は、たくさんありました。それこそ、鳴海ぐらいの年の頃は一番辛かった記憶がありますね。
――具体的に話せますか?
せとら 鳴海と似ている部分で言うと、当時は、何がしたいのか、どうしたらいいのかが分からなくなっていたし、将来の夢も持てなくて……。そんないろいろな葛藤を抱えているのに、どうすることもできず、すごく苦しかったです。
ただ、そんな状況であっても、家族とか友達に恵まれていたことが助けになりました。根気よく話を聞いてくれたおかげで、それを乗り越えることができて、今の自分があると思っています。
――阿部さんは?
阿部 私は帰国子女だったので、学生の頃は結構たいへんでしたね。外国人特有のテンションで周囲の子と接していたら、コミュニケーションが上手くできなくなった時期があって……。(日本では)枠に入らないといけない、いい子にしないといけないんだって感じて、その時期は大変でした。
――役作りについて、監督からの要望はありましたか?
せとら・阿部 特に、こうしてほしいとは、言われなかったですね。
――鳴海のメイクは特徴的でしたけど、それもご自身で?
せとら それは、監督やスタッフさんが、私のめっちゃ昔のSNSの写真を掘ってきて(笑)、こういうイメージにしてほしいと要望されたんです。髪型に関しては、特に言われませんでした。
阿部 役作りに関して、“阿部さんの思ういくでいてください”と言われたのが大きかったです。具体的には、表でやっている行動、言っていることと、そして、心の奥底で考えていること、思っていることをすごく意識しながら、その葛藤みたいなものを表現できたらいなと思っていました。
――阿部さん(いく)の髪型は?
阿部 それは、あまり覚えてないんですけど、当時私がしていた髪型を、そのまま生かしたのではないかと思います。
――劇中では、そんな葛藤を抱えた二人が出会います。鳴海の行動が二人の将来を変えますが、なぜ鳴海はいくを追いかけたのでしょう?
せとら 鳴海からしたら、自分と同じ人を見つけた嬉しさもあると思いますけど、助けてあげたい、放っておけないという気持ちが強かったと感じています。だから、衝動的に追いかけていって声をかけた、と。
――そして二人は急速に仲良くなっていきます。
阿部 いくとしては、鳴海から来てくれたっていうのは予想外の出来事だったし、喜びと嬉しさはあったんじゃないかなと思います。お互いに、自分と共鳴する部分を、その瞬間に見つけたんだろうなって。
――仲良くなった割には、いくが鳴海を呼ぶ時は、ずっと“佐藤さん”でした。やはり心を開ききれない。
阿部 そうですね、最後まで佐藤さんでしたね。いくとしては、私はこうでなくちゃいけないっていう、理想像・偶像みたいなものがあって、たとえば、「(自分は)クラスメイトの子をいつも気にかけている優しい子である。それによって、その人の気持ちを分かってあげられる。だから、(鳴海を)救ってあげたい」という義務感というか偽善のようなものも、あったかもしれません。
――そうした性格は、鳴海と同じように、家族との関係が大きく作用していると思いますが、いくの家族については劇中では描かれていません。阿部さんはどのように捉えていましたか。
阿部 監督は、いくにはリアリティを持たせたくないので、架空の人物とか、妖精のような存在で描きたいと仰っていて、家族構成についての細かい説明はありませんでした。あくまで私の想像ですけど、家族関係はうまくいっていなくて、特にお父さんはすごいモラハラ系の人で、お母さんはいつも怒られているけど、自分では救えない……。そういう環境の中で、どんどんいい子ちゃんを演じていくことで、いくの性格は生まれてきたんじゃないかなって考えていました。
――今回、初主演同士で共演してみてどうでしたか。
せとら 初めましての時は、私自身いわゆるコミュ障なので、すごくぎこちなくて、自分から周りに話しかけることができずにいたら、阿部さんから声をかけてくれたんです。 “おはようございます”“よろしくお願いします”って言ってくれた時は、急に話しかけられてびっくりしたのもあったし、恐らく共演者さんだからきちんとしなくちゃという思いが強くて。笑顔を作れていたのかも分からないような状態で、“よろしくお願いします”ってお返事したんですけど、嫌な思いさせてないかなって、罪悪感で落ち込んでいました。
阿部 せとらさんって、いつも黒い服を着ていたし、大きいアクセサリーも着けていたので、“普通の方じゃない”“オーラがすごいな”って圧倒されていて(笑)。その時は、共演者さんかもしれないと思って声がけしたんですけど、ちょっとそっけなかったので、話しかけない方がいいタイプの人だったのかなって、ちょっとドキドキしていました。
それから4年ぐらい経って今思うのは、そこをスタートに、手探りで、長い時間をかけて撮影をして、私もせとらさんも、映画としては初主演を経験することができたという、同志みたいな感覚がありますよ。変わらずにどっしりとしていてくださることに安心感もありますね。
――最後に見どころをお願いします。
せとら 全体を通して描かれている死にたさについて、監督の言葉を借りると、“勝手に測るんじゃない”っていうのが、自分は頭にすごく残っています。この映画でも、いろいろな死にたさを抱えた人がたくさん出てきて、その度合いもそれぞれ違います。映画を撮った当時と、今とではまた状況が違うと思いますけど、陰鬱としたこの時代だからこそ、とかは言いたくありませんけど、とにかくこの作品を観てほしいです。たくさんの人に観てもらって、いろいろなことを考えて欲しい。そう思っています。
阿部 生きていると、いろいろと不条理なこととか、苦しいこととかはたくさんあるし、大人になればなるほど、綺麗に生きなきゃいけないみたいなこともあって、自分自身にも嘘をつくし、弱音も吐けないしということが増えていく中でも、高校生の鳴海といくが、もがきながらもドロ臭く、必死に生きるってことと向き合っている姿を観て、あー綺麗じゃなくてもいいなって思ってもらったり、ちょっと息を抜いてもらえたりしたらいいなーと思います。是非、劇場で観てください。
映画『頭痛が痛い』
6月3日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
出演:阿部百衣子 せとらえと
脚本・監督:守田悠人
配給:アルミード
2020/日本/カラー/16:9/2.1ch/108分
(C)KAMO FILMS
●阿部百衣子プロフィール 【島内いく役】
1996年2月21日生まれ。愛知県出身。
8~10歳アメリカ在住。多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科卒。 自身を救ってくれたのは映画や演劇であった経験から、同じように苦しむ人の力になりたい、自ら命を終わらせる人を一人でも減らしたい、という想いから俳優を志す。舞台出演作に、シラカン「永遠とわとは」、U-33project「むむちゃん」など。本作で映画初出演にして初主演。
●せとらえとプロフィール 【佐藤鳴海役】
1991年7月29日生まれ。兵庫県出身。
フリーランスモデル・俳優。
映像作品をメインとして、アーティストのミュージックビデオ、ショートドラマ、映画などに出演。趣味・特技はピアノ。本作で映画初主演。