NTTコミュニケーション科学基礎研究所(以下、CS研)は、研究成果を披露する「NTTコミュニケーション科学基礎研究オープンハウス2022」のオンライン開催を、6月2、3日の両日行なうと発表。本日5月30日、報道陣向けの内覧会を都内で開いた。

 今回のオープンハウスは、「変化する現在(いま)に適応し、持続する未来(あす)を切り拓くコミュニケーション科学」をコンセプトに、講演や展示を通じて、研究成果を広く知らしめること目的に開催される。

▼「NTTコミュニケーション科学基礎研究オープンハウス2022」サイト

 CS研の所長・納谷 太氏によると、同所は、「心まで伝わるコミュニケーションの実現へ向けてさまざまな研究」を行なっているそうで、「人を深く理解することで、機械を通じてのコミュニケーションを実現する研究成果」を今回、29の展示を通して紹介。うち6項目については内覧会でのリアル展示を行なう、ということだ。大まかには、前半は人に迫るAI。後半はVRを使って人を深く理解するもの、になるそうだ。

画像: ▲冒頭、展示会のコンセプト、内覧会の紹介を行なうCS研の納谷 太所長

▲冒頭、展示会のコンセプト、内覧会の紹介を行なうCS研の納谷 太所長

 展示については、同研が目標とする「IOWM」(アイオン:光と無線技術によって膨大な情報を集め・分析し、情報社会に役立てる)に沿って行なわれている各種の研究が紹介されることになる。以下、内覧会で披露された6つの展示について簡潔に紹介したい。

※下記()の数字は、オープンハウスの展示番号

(01)信号機を使わないリアルタイム分散交通制御

画像: ▲デモでは、小さい車がそれぞれ通信を行ない、ぶつからないように動き回っていた

▲デモでは、小さい車がそれぞれ通信を行ない、ぶつからないように動き回っていた

 その名の通り、信号のない都市(スマートシティ)を、自動運転車がお互いに通信をしながら、自律的に動きまわる様子を再現した展示。現実世界をデジタルの世界で再現し、リアルの世界の制御に活かすというデジタルツインの思想に基づき、動きの学習を繰り返し行なうことで、自律運転を可能にするというデモ。展示では、閉ざされた空間(自動車教習所の敷地内というイメージか)内を、多数のロボ車が動き回っていた。

画像: ▲デモで動き回っていた小型自走者

▲デモで動き回っていた小型自走者

(11)移りゆく車窓の風景についてロボットと話そう

画像1: (11)移りゆく車窓の風景についてロボットと話そう

 詩的なタイトルがつけられているが、内容はいたってマジメなもの。音声認識技術は広く普及しているが、そこに映像認識技術を組み合わせているのが、本展示のポイント。映像が連続的に変化していく状況を考えた時に、ドライブ映像が一番馴染みがいいということで、今回の内容になったそう。

 展示では、江の島近辺の海沿い道路の走行を想定し、位置情報、スポット情報を活用し、カメラが取り込んだ映像情報をリアルタイムに分析し(ロボットがある程度、自律的に会話を始めたり、受け答えしてくれる)、ロボットと会話をしながらドライブが楽しめる、という内容。おしゃれなお店があるね、とロボットに話しかけると、位置情報や分析した映像から、店名やお店のジャンル(カフェですねとか)を返してくれる。

 現時点では、「近くにトイレない?」「空いている駐車場を案内して」といった会話にまでは、対応していないそうだが、リアルタイムに位置変化(映像を分析)を加味した雑談が行なえるのは、NTTが世界に誇る大規模な対話データを活用したものであり、かつ世界初という。

画像2: (11)移りゆく車窓の風景についてロボットと話そう
画像3: (11)移りゆく車窓の風景についてロボットと話そう

(09)機械翻訳の間違いを探します

画像: (09)機械翻訳の間違いを探します

 自動言語変換(機械翻訳)の間違いを探してくれる展示。機械翻訳の精度は上がったものの、まだまだ間違い(誤変換)も多いため、それを自動的に発見してくれるというのが、注目ポイント。オリジナル言語と、翻訳語の単語を対比させることで、不要な単語が入ってしまっている、必要な単語が抜けてしまっている、を判別してくれる。現時点では発見した間違いは人の手による修正が必須なため、今後の課題は、それを自動化できるかということになる。

(28)みんな何を触りたいの?

画像: (28)みんな何を触りたいの?

 多くのユーザーがツイッターでつぶやいた事柄の中から(ビッグデータを活用)、人々の動向を分析した展示。「〇〇に触りたい」という要求に着目し、1)人々は何に触りたいと思っているのか、2)コロナの前後でその要求に変化があったのか、の2点について分析したという。

 1)については、人は生物(人や動物)への接触要求(スキンハンガー)がもともと多いそうで、コロナ後では、それが増大したという。一方で、感染経路になりうるような非生物(ドアノブなど)への非接触(触りたくない)も、増大する結果になったそう。

 今後はこの結果をもとに、触覚を得る技術(ハプティクス)への応用が課題になるそうだ。

(21)ノビのある速球は錯覚?

画像1: (21)ノビのある速球は錯覚?

 投手の投げたボールが打ちにくい――ノビる――理由はどこにあるのかを、VR技術を使って解き明かした展示。物理的なもの(原理)を追求したというより、打者の感覚=脳の情報処理のメカニズムが、それに大きく寄与していた、ということを分かりやすく教えてくれた。

 投手の投球動作の時間と球速という2つの要素を操作しながら、VR技術を使って打者の感覚を探っていくと、球速が同じでも投球動作が速いとノビる球に感じるという結果となった。一方、投球動作を遅くすると、球速が速くてもノビていないと感じるようになるそうだ。

 こうした認知機能(=特にアスリートの)のメカニズムを明らかにすることで、新たなトレーニング・コーチングに活かしていきたい、としている。

画像2: (21)ノビのある速球は錯覚?

(26)壁が動くと速く歩く?

画像1: (26)壁が動くと速く歩く?

 人が歩く速度は、周囲の環境に影響されるのか? されるのなら何に反応するのか、を突き詰めた展示。VR技術を使って、周囲の壁を(前後に)動かしたり、自分と壁の距離を変える、あるいは深度の変更(奥行感を操作する)を行なって実験したところ、3番目の奥行の感覚(奥行の感覚から、自身の歩行速度を得ているそうだ)が影響していることが分かったのだという。

 これが何に役立つのかと言うと、この感覚をVRに適用させることで、人が使いやすい安全なVR環境(映像)の構築に寄与できるようになる、ということだそう。

画像2: (26)壁が動くと速く歩く?

 今回のオープンハウスでは、以上に紹介した6つだけでなく、全29にも及ぶ興味深い展示が用意されており、筆者は(24)の「マインドフルネス瞑想はストレスをどう減らす?」に大いに惹かれた。さらに、6つの講演も予定されているなど、スポックの言葉を借りれば魅惑的な展示が盛りだくさんとなる。ぜひ、読者の皆さんには、下記オープンハウス2022を覗いてみて、自身の興味を満たす展示と出会ってほしい。

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