映画『クレッシェンド 音楽の架け橋』(1月28日公開)の試写会&トークイベントが1月20日都内で行なわれ、音楽映画ということでバイオリニストの廣津留すみれがゲストとして登壇。作品の印象を、自身の経験と重ね合わせて披露していた。

画像1: 映画『クレッシェンド 音楽の架け橋』のトークイベントにバイオリニストの「廣津留すみれ」が登壇。「対話を通して相手を理解する姿勢を忘れずにいたい」

 『クレッシェンド 音楽の架け橋』は、いまなお解決の糸口の見えないイスラエルとパレスチナの対立問題を、音楽を軸にして未来を切り開いていこうというテーマで作られた1作。実際に存在する楽団和平オーケストラ「ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団」から着想を得て製作されたという。物語は、敵対する若者たちで結成されたオーケストラが、和平コンサートへ向けて練習していく21日間の模様を描いている。

 本作の印象を聞かれた廣津留は、「ワークショップを行なうことで、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちでも、お互いのことがどんどん分かり合えて来る。そのことが手に取るように伝わってくる作品でした」と絶賛。自身も海外留学中は、「言葉が分からなくても、音楽が通じあうための言葉になる」ことを経験したそうで、「この作品とも通じる部分だなって思います」と感想をコメントしていた。

画像2: 映画『クレッシェンド 音楽の架け橋』のトークイベントにバイオリニストの「廣津留すみれ」が登壇。「対話を通して相手を理解する姿勢を忘れずにいたい」

 そして、廣津留自身も、劇中で描かれているイスラエル・パレスチナの紛争をその身で体験したそうで、学生時代にイスラエルとヨルダンを巡る演奏ツアーに参加した際、イスラエルでの演奏を終えてヨルダンに入り、さあ一緒に演奏をという段になって「(イスラエルを回ってきたので)一緒に演奏することはできません」と、断られてしまったという。「音楽で解決できるんじゃないかという希望を持っていただけにすごく衝撃的で、問題の根深さに気づかされた」そうだ。ただし合同演奏はなかったものの、ディスカッションの席が設けられたといい、「映画でもディスカッションをするシーンはありますけど、私もそれを通して、分かり合えたり、歩み寄れたりする部分は感じられました」と、現地で肌で感じた経験を披露してくれた。

 また、本作は先述した和平オーケストラに着想を得て製作されているが、そのオーケストラを創設したダニエル・バレンボイムについて廣津留は「アルゼンチン生まれのユダヤ人というアイデンティティを持ちながらも、世界の平和を目指しているし、しかも自分の信念というか軸がブレることなくそれを貫いている姿は、本当に素晴らしいと思います」と称賛していた。

 司会から、今まで出会った中で印象に残っている指揮者・演奏者について聞かれると、ロールモデルとしているのはチェリストの「ヨーヨー・マ」と即答するも、「すっごくおちゃらけたおっちゃんなんですよ」とおどけてコメント。「演奏の時は素晴らしいんですけど、リハ中や休憩中に、日本語で“どうよ”と話しかけてきたりして、(こちらの)テンションを上げてくれる面白いおっちゃんなんです」と、愛情もたっぷりにその素顔を紹介してくれた。

画像3: 映画『クレッシェンド 音楽の架け橋』のトークイベントにバイオリニストの「廣津留すみれ」が登壇。「対話を通して相手を理解する姿勢を忘れずにいたい」

 そして紛争だけでなく、コロナ禍の広がりによって分断が進む世界については、「自己中心的になってしまう部分もありますけど、やっぱりいろいろなバックグラウンドの人がいて、いろいろな民族の人がいて、世界が成り立っているので、地球人ということを忘れてはいけないと思います。この作品でも対話という行動が相手の理解にすごく役立っていると感じています。私も、相手を理解しようという姿勢を忘れずにいたいです」とまとめていた。

画像4: 映画『クレッシェンド 音楽の架け橋』のトークイベントにバイオリニストの「廣津留すみれ」が登壇。「対話を通して相手を理解する姿勢を忘れずにいたい」

映画『クレッシェンド 音楽の架け橋』

1月28日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開

<ストーリー>
世界的に有名な指揮者のエドゥアルト・スポルクは、紛争中のパレスチナとイスラエルから若者たちを集めてオーケストラを編成し、平和を祈ってコンサートを開くというプロジェクトを引き受ける。オーディションを勝ち抜き、家族の反対や軍の検問を乗り越え、音楽家になるチャンスを掴んだ20余人の若者たち。しかし、戦車やテロの攻撃に晒され憎み合う両陣営は激しくぶつかり合ってしまう。そこでスポルクは彼らを南チロルでの21日間の合宿に連れ出す。寝食を共にし、互いの音に耳を傾け、経験を語り合い…少しずつ心の壁を溶かしていく若者たち。だがコンサートの前日、ようやく心を一つにした彼らに、想像もしなかった事件が起きる──。

監督:ドロール・ザハヴィ
主演:ペーター・シモニシェック
2019年/ドイツ/英語・ドイツ語・ヘブライ語・アラビア語/112分/スコープ/カラー/5.1ch/原題:CRESCENDO #makemusicnotwar/日本語字幕:牧野琴子/字幕監修:細田和江 配給:松竹 宣伝:ロングライド
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