1973年に書かれた小松左京の『日本沈没』。地殻変動により日本列島が沈没するという様子を科学的に描き、沈没を食い止めようとする科学者たちや日本人の海外脱出を計画する日本政府の懸命な姿を描いたディザスターSFの傑作だ。原作の大ヒットだけでなく、すでに2度実写映画化もされている。そんな作品をもとに湯浅政明監督によってアニメシリーズが制作された。未曾有の大災害が起きたときの日本の姿を露わにする物語がNETFLIXで7月9日から独占配信される。

被災した家族の視点から描かれる『日本沈没』

 監督となる湯浅政明は、NETFLIXのアニメシリーズでは『DEVILMAN crybaby』に続く2作目。原作の狂気に満ちた物語をアニメ表現の限界に迫る映像で完成させた。また、近作では『映像研には手を出すな!』で大きな話題となったことでも知られる。アニメーション制作はサイエンスSARU、音楽は牛尾憲輔というスタッフとなっている。

 『日本沈没2020』は、原作や実写映画ではあまり描かれることのなかった被災した人々の視点から描かれる。主人公は、中学3年生の少女、武藤歩(CV:上田麗奈)。陸上部に所属し、次のオリンピックでは日本代表候補を期待されている。物語は彼女とその家族が沈みゆく日本で必死に生きようとする姿を描いている。湯浅監督の作品は、いわゆる日本アニメの絵柄とは一線を画した独特なものだが、ふとした仕草や表情の芝居、歩いたり走ったりという動きの表現が豊かなものだ。本作もその点では同様で、それだけに被災した日本を逃げ惑う人々の様子が生々しく描かれる。実写とは異なる心に響くリアリティを実感してほしい。

画像: 被災した家族の視点から描かれる『日本沈没』

 地震大国と呼ばれ、近年でも各地で大きな震災に見舞われている日本。そうした過去の災害の記録を元に津波の発生や原子力発電所の被災など、映像面でもリアルな災害の様子が描かれる。ところで、現代の一般的な見解では、日本列島は沈没するよりも隆起する可能性が高いと言われているが、それについても言及があるのが面白い。

 作品では、日本中を襲った巨大な地震は沖縄がもっとも被害が大きく、最初の地震で沖縄諸島が沈没している。そんなニュースを聞いて人々は東が安全だと言う。逆に武藤家族は、日本沈没を予測し、海底調査を行なっていた小野寺博士の説を頼りに西を選ぶ。さまざまな情報が飛び交い、デマや不安を煽る噂がうずまくなか、人々は自分たちの考えを信じて生き残ろうとする。そんな懸命な姿を生々しく描いているのが感動的だ。

 本作がまぎれもなく『日本沈没』であるのは、小野寺博士の名が世間でも知られているほか、インターネットを通じた海外のニュースや報道、日本政府の緊急放送などで、生き残った日本人の一部を海外に移住させる「D計画」が発動していることが時折伝えられることだ。武藤家族たちも、その報せを頼りに、脱出船がある港を目指す。つまり、原作の『日本沈没』での物語ときちんとリンクしていることがわかる。

 武藤一家が目にする日本が沈没していく様子も、もしも日本列島が沈没するという“IF”に基づいた科学的な考証が行なわれており、山道では断層が現れて地形が大きく変わっていることがわかり、津波による浸水がいっこうにやまず、被災を免れた建物に入れば、床が少しずつ傾いていて、太平洋側から沈没が始まっていることがわかる。どこにでもいる被災した人々の視点から日本が沈没していく様子が描かれていくのは、フィクションではあるが実にリアルだ。

原作とも2作の実写映画とも異なる結末。日本人であることを問う物語

 原作と最初の映画では日本は沈没する。あまり知られていないが、小説では『日本沈没 第二部』(小松左京、谷甲州 著)も発表されており、国土を失った日本人が各地に散らばったその後を描いている。

 これとは別に2度目の実写映画では、壊滅的な被害を受けながらも、日本は完全な沈没を回避した結末となっている。『日本沈没2020』は、それらとはまた違う結末になっている。どのような物語になるのかを自分の目で見守ってほしい。

画像: 原作とも2作の実写映画とも異なる結末。日本人であることを問う物語

 国土を失って散り散りになった人々はそれでも“日本人”でありつづけられるのか。日本人であることの意味、それは単なるナショナリズムではなく、心の拠り所でもある自分の居る場所、国や民族の最小単位である家族の意味を問いかけるものだ。

 ついつい大げさな話をしてしまったが、『日本沈没2020』は『日本沈没』の総決算であるとともに、誰にとっても目を背けてはならない命題を突きつける物語に仕上がっている。武藤家族が出会う人々は、誰もが懸命に生きている。夢や希望があって、生き残ることを目指している。そんな姿を通して、このドラマが提示するメッセージを自分のものとして考えてみたい。

Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』

Netflixにて、7月9日(木)全世界独占配信

画像: Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』

<キャスト>
武藤歩:上田麗奈/武藤剛:村中知/武藤マリ:佐々木優子/武藤航一郎:てらそま まさき/古賀春生:吉野裕行/三浦七海:森なな子/カイト:小野賢章/疋田国夫:佐々木梅治/室田叶恵:塩田朋子/浅田 修:濱野大輝/ダニエル:ジョージ・カックル/大谷三郎:武田太一

<スタッフ>
原作:小松左京『日本沈没』
監督:湯浅政明
音楽:牛尾憲輔 脚本:吉高寿男
アニメーションプロデューサー: Eunyoung Choi シリーズディレクター:許平康 キャラクターデザイン:和田直也 フラッシュアニメーションチーフ:Abel Gongora 美術監督:赤井文尚、伊東広道 色彩設計:橋本賢 撮影監督:久野利和 編集:廣瀬清志 音響監督:木村絵理子 アニメーション制作:サイエンスSARU
主題歌:「a life」大貫妙子 & 坂本龍一(作詞:大貫妙子/作曲:坂本龍一)
製作:“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners
(C)“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

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