株式会社LiveParkでは去る3月31日に、イベント参加型ライブ配信アプリ「LIVEPARK(ライブパーク)」上で、ジャズライブ“Cozy Couch Concerts #2”の配信を行なった。本来はお客さんの前でライブを実施し、その様子をライブ配信するイベントだが、今回は新型コロナウイルス対策もあり無観客で実施されている。今回はCozy Couch Concerts #2を配信している現場にお邪魔して、このイベントの狙いやLIVEPARKアプリの特長についてインタビューを実施した。
--今日(3月31日)は、これからCozy Couch Concerts #2の配信が行なわれる、虎ノ門のWeWorkオフィスにお邪魔しました。まずはLIVEPARKのサービス内容や特長から教えていただけますでしょうか。
清田 LIVEPARKでプロデューサーをしております、清田いちるです。弊社は超低遅延ライブ配信技術を使った、映像配信サービスを手がけています。超低遅延というのは、通常はインターネットを通じたライブ配信では10秒ほどの遅延が発生するのですが、それを抑えてリアルタイムに配信を受け取ることができるという意味です。
先日までは、日本テレビの『金曜ロードSHOW!』の放送に合わせて赤ペン瀧川先生による解説をリアルタイムで配信していましたが、これもLIVEPARKなら放送に合わせてリアクションができるから可能だったコンテンツです。
10秒近い遅延があると、テレビ放送とリンクした実況配信はできないわけですが、LIVEPARKは超低遅延ですからそういったこともありません。ユーザーさんは、放送を見ながらライブ配信している内容もリアルタイムに受信できます。
--ということは、LIVEPARKアプリは放送などのリアルタイム性の高いメディアと一緒に使ってもらおうという狙いがあるのですね。
清田 いえ、そうではありません。LIVEPARKはテレビ番組のサブコンテンツだけを手がける会社ではありません。オリジナルコンテンツも増やしています。
今後5G時代が来ますが、そうなった時のメインコンテンツは何だろうと考えた時、リッチな情報のやりとりがされるライブ配信は可能性があるだろうと考えています。LIVEPARKは、5G時代のネクストジェネレーションのライブ配信を模索、検討していくための会社として起業しました。
--LIVEPARKアプリは超低遅延が特長とのことですが、配信を行う場合は技術的にはどうしても遅延が発生してしまいます。それをどういった方法で抑えているのでしょう?
清田 弊社の場合、画像を一枚ずつ、毎秒15フレームで送っています。通常の配信ではバッファを設けることでコマ落ちしないようにするのですが、それだと遅延が発生します。LIVEPARKでは独自技術を使って、リアルタイムで映像を送りながらもコマ落ちはしないように対策しました。ただ、この方式だと現在の4G回線ではデータレートの関係で受けきれないことも考えられますので、できれば無線LAN環境でご覧いただきたいと思っています。
--配信に使っているカメラなどの機材はどうなっているのでしょう?
清田 一般的なデジタル一眼レフと、iPadの内蔵カメラを使っています。それで撮影した映像と音声をミックスし、ライブ配信用アプリのOBS Studioを使って送り出しています。音声は、以前はアナログでしたが、4月からはステレオで配信できるようになります。
もちろん音楽がメインですから、機材はちょっと大がかりです。トークライブなどではマイクの声をそのまま使いますが、音楽コンサートなので、音量、音質をていねいに作らなくてはいけません。ミキシング卓などの機材も準備して、音楽として楽しんでいただけるようにしてから送りだしています。
--Cozy Couch Concertsについてうかがいます。今回は配信だけでなく、ライブの運営そのものから企画されているそうですが、それはどういった狙いがあるのでしょう?
清田 Cozy Couch Concertsでは、インタラクティブ性のあるライブ配信にトライしたいと思っています。ライブ配信というと、ユーザーは観ているだけ、聴いているだけになると思いますが、LIVEPARKでは配信者側、出演者がリアルタイムにユーザーの反応を把握して、それをもとにやりとりをしたり、ゲームをしたりといった形を考えています。
LIVEPARKのシステムには、「アンケート」「クイズ」「コメント」「タップの連打による声援」「P in Pの二画面表示」などの5つの機能が既に実装されているのです。
今日のCozy Couch Concertsでも、画面にユーザーからのコメントが流れますので、出演者がそれを読んだり、あるいはリクエストを受けて演奏する曲を決めたりといったことも予定しています。そういったコミュニケーション、インタラクションのあるライブ配信がLIVEPARKのポイントです。
今後はジャンルにとらわれずに、様々なインタラクティブなコンテンツを配信していきたいと考えています。その先にはわれわれが企画したコンサートを配信し、オンラインチケットを購入してもらってご覧いただくとか、そこから声援を送ってもらうといった展開も考えています。
--今日のCozy Couch Concertsは無観客になってしまいましたが、将来的にはそういった展開もできそうですね。
清田 本来Cozy Couch Concertsは、ミニライブ、インストアライブを行なって、それをLIVEPARKのアプリで配信しようというイベントでした。ところが今回のコロナウィルスの影響があって、会場側から観客を入れてのライブは控えて欲しいという要望があったのです。
その時われわれとしては、コンサートを中止するか、無観客で実施するかというふたつの選択肢がありました。結局無観客での配信を選んだわけですが、それでも会場はかなり狭いスペースしか準備できておらず、Cozy Couch Concertsに見えないかもしれません。
こんなに無理矢理やるくらいなら、中止した方がいいんじゃないかという意見もありました。しかしコンテンツを配信するサービスとしては、こんな時期だからこそ文化芸術をサポーツするべきだと思いますし、無観客であっても、ベストな環境でなかったとしても、ライブ配信をするべきだという時代的な使命感のようなものを感じたので、実施することにしました。
ですので、できるだけスタッフの人数を少なくして、消毒も徹底し、出演者間の距離も取るなど、可能な限りの感染対策は行なっています。そんな手間をかけてでもライブ配信を実現したいというのが、今回のチャレンジです。
今回は8畳ほどのスペースで演奏していただきますが、果たしてきちんとできるかどうかはやってみないとわからないのです。でも何より、視聴者の皆さんと演奏者の方が楽しんでくれればと思っています。
--ユーザーにとっては、自分のコメントが出演者にダイレクトに届くのも嬉しいでしょうね。
清田 いただいたコメントはオープンにしていますし、演奏者がそれを読みながらライブを進行しますので、物理的な距離はともかく、気持ちの距離は近いライブを実現できるのではないかと思っています。ネットワークを介した、新しいライブの在り方です。
最近は、ミュージシャン側からもライブが中止になって、発表の場がなくなったという声も聞きます。彼らも現実的に困っていたり、心理的に不安だったりという状態ですから、LIVEPARKとしては配信の場を提供することで、少しでも貢献できればと考えています。
(取材・文:泉 哲也)
「こんな楽しみ方があるということを、もっと多くの人に知ってもらいたい」
出演者の永田ジョージさんにCozy Couch Concertsの魅力を聞く
--永田さんはフリーのジャズピアニストとしてご活躍ですが、Cozy Couch Concertsについては、出演者の選定などのプロデュース的な役割までされているとうかがいました。Cozy Couch Concertsに関わったきっかけは何だったのでしょうか?
永田 そもそもはLIVEPARKの清田さんがSNSでこんなことができないか、といった発言をしたのがきっかけで、そこにぼくを始めとする色々な面々が乗っかっていったのです。
1週間くらいでおおまかな雰囲気が出来上がって、そこから2〜3週間で1回目のメンバーが決まって、さらにカシオさんに協力してもらえることになって、とどんどん話が進んでいきました。
--ネットで自然発生的にできあがったというのも、Cozy Couch Concertsらしい気がしますね。演奏のテーマやスタイルもSNSで決めていったのですか?
永田 “Cozy Couch”というテーマは、会場になるWeWorkのオープンスペースを下見に来たら、ソファが置いてあったのがきっかけです。ソファってライブのステージには普通ないものですから、このまま使ったら面白いんじゃないかと考えたのです。
またアメリカのNPRという公共ラジオ放送で「Tiny Desk Concert」という企画がありますが、これは若手の面白い人たちがNPRのオフィスに集まって、デスクの上に鍵盤を置いてライブを行なうといった内容です。それの日本版を目指したいと考えました。“Desk”じゃなくて“Couch”かなと。
--2月18日に行なわれたCozy Couch Concerts #1はジャズを中心に演奏されたそうですね。
永田 ジャズ&ポップです。ゲストに小和瀬さとみさんというジャズシンガーにおいでいただいたのですが、彼女も生き様がCozyなので凄く合うんじゃないかと思ったのです。
ジャズって時代によって雰囲気も変わっていきますし、20年前のポップスをジャズマンが演奏したらジャズになりますよね。ぼくらが竹内まりやさんの80〜90年代の曲を演奏するのは、現在進行形のジャズだと思っています。
--さてCozy Couch Concertsのような、視聴者とインタラクティブにつながりながらのライブというのは珍しいと思いますが、通常のライブと比べて違う点はありますか?
永田 前回はお客さんがいる中での演奏でしたが、今回は無観客なので、その点でも変わってくる気はします。完全無観客の場合は、ある意味レコーディングに近いメンタリティが求められますね。僕たちが演奏して、リスナーにその瞬間のレコーディング内容を聴いてもらっている、そんな気がしています。
--目の前にお客さんがいる方が緊張するようにも思いますが、そうではないんですか?
永田 お客さんがいないことによる緊張感があります。いい演奏をするもしないも、全部ぼくらにかかっているという意味での緊張です。お客さんと一緒だと、それだけでいい空気ができたり、いいライブになるのですが、それがいないわけですから。今回無観客で配信した時に、どんなインタラクションが生まれるかはやってみないとわからないですよね。
最近は無観客でライブをやることが増えていますが、その時にビューワー数が伸びたり、コメントで反応があると嬉しいですよね。その意味ではラジオ的、電話リクエストの時代に近いかもしれませんね。
--出演者として、Cozy Couch Concertsを楽しんでいる視聴者の方にお願いしたいことなどありますか?
永田 音圧を上げて聞いていただけると、生々しいエネルギーも伝わると思いますので、スマホのスピーカーではなく、ヘッドホンやBluetoothスピーカーで音を聴いて欲しいですね。
今回のライブでも、楽器もマイクもダイレクトにミキサーにつないでいます。その意味でも、演奏の音そのものをダイレクトに、生々しく聴いていただけるはずです。細かいタッチの差まで聴こえてしまいますので、こちらも緊張感があります。
--最後に、今後こんなことをやっていきます、やってみたいという予定はありますか?
永田 Cozy Couch Concertsは、希望としては毎月開催したいと思っています。ぼくのミュージシャン仲間もいますので、こんな新しい楽しみ方があるということをもっと多くの人に知ってもらいたい。これは新型コロナに関係なくやっていきたいと考えています。
昨今は、仕方なく無観客配信ライブをやっていると考えがちですが、実はそうではなく、こういう楽しみ方もあるということをミュージシャンにも知ってもらいたいです。無観客であるということはマイナスではないのです。LIVEPARKというインフラを使えば、会場も比較的自由に選べますので、もっと色々な展開をしていきたいですね。
「Cozy Couch Concerts #2」の概要
●出演者
ピアノ:永田ジョージ、ヴォーカル:白仁“虎徹”賢哉(Kotetsu)
●演奏曲:
「I Need To Be In Love/Carpenters」「Change the World/Eric Clapton」
「Overjoyed/Stevie Wonder」「Woman “Wの悲劇”より/薬師丸ひろ子」 他