ある者は夢と呼び、またある者は魔法と呼ぶ。そして私は桃源郷と呼びたい。
 だが現実というものはいつだって甘くない。魔法に浸れば浸るほどそれから醒めた後がつらくなる。そうわかっていても聴かずにはいられない、見ずにはいられない、磁石なみに強力な存在。それがSOLEIL(ソレイユ)だ。

 12月22日、東京・渋谷“Veats Shibuya”(9月20日オープン)で“SOLEIL LAST CHRISTMAS CONCERT”が開催された。10月10日に発令された“SOLEIL活動休止のお知らせ”から、本当にあっという間の2ヵ月あまりだった。メンバーはヴォーカル&グロッケン&小道具のそれいゆ、ベース&プロデュースのサリー久保田、そしてサポート・メンバーにギターの中森泰弘、ドラムの白根賢一、コーラスのもえか。2017年の結成から関わり、今年の5月に脱退した中森がスペシャル・ゲストとして参加したことで、SOLEILのオリジナル・メンバー3人が久々に揃ったのもたまらない魅力だ。全24曲というセットリストはSOLEILライヴ史上、最大のボリューム。喜びにうちふるえた。

 無人のステージには各メンバーの楽器、2本の段ボールギター、ブラウン管テレビ型の段ボール(その中には小道具がたっぷり収められている)などがきっちりと並んでいる。やがて場内が暗くなり、エルガー作「威風堂々」が鳴り響くモノクロ・フィルムへ。初期のライヴからおなじみの演出だが、まるで江戸時代から180年間たれをつぎ足し続ける老舗のうなぎ屋のように、映像は常にアップ・トゥ・デイトされている。最新シングル「Twinkle Heart」までさまざまなそれいゆの表情が刻み込まれたフッテージに見入る誰もが、このグループを知った日から現在までの気持ちを内省したことだろう。

画像1: 「SOLEIL(ソレイユ)」 あれ、何故か目から水が……。キュートなヴォーカル+60’s ガールポップをとことん追求したサウンドで人気上昇途中にあったバンドがラスト・コンサートを開催、オーディエンスを“永遠の魔法”にかける

 オープニングはファースト・アルバム『My Name is SOLEIL』の1曲目に入っていた「魔法を信じる?」。starblincの「ひみつのアッコちゃん」風赤いワンピースを着たそれいゆは、そこにいるだけでマイナスイオンを滝のように噴出しているかのような雰囲気だ。彼女の左に立つサリー久保田、右に立つ中森泰弘、後ろに控える白根賢一の安定感。もえかの快いコーラスが、それいゆの歌をさらに引き立てる。

 つづいてはセカンド・アルバム『SOLEIL is Alright』から「Sweet Boy」。ポール・ウェラー、エルヴィス・コステロ、サリー久保田らの似顔絵パネルを振りながら歌うそれいゆを見るのもこれで見納めだ。もえかはマラカサー(マラカス奏者)としても、頼もしいところを見せた。

 「アナクロ少女」はサード・アルバム『LOLLIPOP SIXTEEN』から。サビの部分でのリボンを使ったパフォーマンスと、マイナー・キーのメロディがかみあって、ぼくはこの場面になるたびに胸をしめつけられる。お立ち台にのぼり、リボンを振りながら歌うそれいゆには後光がさしていた。セカンドからの「エモ色のコラソン」は中森泰弘のコンポジション。作者自身のコード・ワークやソロも大きな聴きものだったが、それに段ボールギターで対抗するそれいゆ、タンバリンで歯切れ良いリズムを刻むもえかにもしびれた。サードからの「ハイスクールララバイ」はセリフ部分の“ナー”が肝だが、今日のそれいゆのそれは脂が乗っていて実にいい感じ。もえかは腕を外に向かって下に伸ばし、大きくリズムをとりながら、バック・コーラスをつけた。

 聴けば聴くほど深みにはまる、そんな1曲がセカンドに入っていた「キャンディの欠片」だ。いっぽう、去る12月18日に出たステレオ盤(注・これまでのソレイユの作品はすべてモノラル)『SOLEIL in STEREO』ではすさまじく魅力的にしてイビツな泣き別れミックスのもと、それいゆのささやくような歌声とサリー久保田の重厚なベースが堪能できた。この切なく、はかない曲がライヴで味わえるのも今回が最後。これまで笑顔で通してきたもえかも、ここでは歌詞の世界に入り込んだようにシリアスな表情でひきつける。

画像2: 「SOLEIL(ソレイユ)」 あれ、何故か目から水が……。キュートなヴォーカル+60’s ガールポップをとことん追求したサウンドで人気上昇途中にあったバンドがラスト・コンサートを開催、オーディエンスを“永遠の魔法”にかける

 次はセカンドからの「Baby Boo」(このセリフ、“乙女心”の振り付けを体験できるのもこれが最後なのだ)、「Hong Kong Chang」が続く。後者は12月18日にタワーレコード新宿店で行なわれた『SOLEIL in STEREO』リリースイベントで初めて披露されたはずだ。エキゾチックでオリエンタルな雰囲気のなかに、おそろしくキメ細かなコード進行が盛り込まれた、これも大変な名曲である。白根のメロディアスなタムさばきも、ちょっとアーサー・ライマン風のそれいゆのグロッケン・ソロも実に快調。サリー久保田はベースを弾く間にドラをブッ叩き、ブルース・リーばりの怪鳥音もキメた。

 サードに入っていた「Red Balloon」は、英国リヴァプールのペニー通りを旅しながら聴きたくなるような1曲。それいゆはSUZUKIの鍵盤リコーダー“アンデス”で間奏を吹き切り、もえかは半音階を使ったフレージングで滑らかにそれいゆのリード・ヴォーカルに絡んでいく。続いては1枚目に入っていた「夢見るフルーツ」(白根賢一作曲)を、それいゆ抜きのインストゥルメンタル・ナンバーとして演奏した。

 WIKAが制作した“「ロシュフォールの恋人たち」オマージュ”のワンピース+赤のベレー帽にお色直しを終えたそれいゆが歌い出したのは、11月20日にアナログ・シングルとして発売された「Twinkle Heart」。優しく語り掛けるように歌う冒頭のパート、“ダッダッ、ダダン”の後に登場するサビでの伸びやかな歌声、いずれもそれいゆの新境地といっていいものだが、これも本日で歌いおさめだ。アウトロのところでの、もえかのハミングも実によかった。

 ファーストからの「さよなら14歳」はグロッケンを弾きながらの歌唱。16歳になったそれいゆの声でこれを聴く喜びは格別だ。セカンドからの「卒業するのは少しさみしい」は四方八方に飛ぶメロディを実に美しくつなぎ合わせたナンバー。もえかはいちコーラス担当を超え、“裏メロ”というべき旋律でサウンドに厚みを加えていく。いっぽう、サードからの「メロトロンガール」でのもえかは、それいゆの歌に影フォントのごとくぴったり寄り添う。後部の段ボールテレビ(画面のところにはサード・アルバムのフォトが貼られている)から手旗を取り出して演じられたのはもちろん、「MARINE I LOVE YOU」。白地に赤でY、赤地に白抜きのNのこの旗は、今後どうなるのだろう。「それいゆ小道具記念館」を作って、保存してみてはいかがか。

 後半は激しめのロック・ナンバーを連続で。セカンドの「太陽がいっぱい」、さらにサードからの「5-4-3-2-1」、「School’s Out」、「ファズる心」だ。中森泰弘はサード・アルバム発表前に脱退したので、こうした曲を弾く彼を見るのはレアだ。「太陽がいっぱい」のモンキーダンス、「School’s Out」の段ボールギタースマッシュ、「ファズる心」のタンバリン(中が空洞のもえかのそれとは違って、皮つき)もこれが見納め聴き収めだった。

 アンコールでは久々にそれいゆ、サリー久保田、中森泰弘のトリオ編成が実現。それいゆはドラム・スティックを握り、ファーストからの「姫林檎GO GO!」「恋するギター」、デビュー・シングル「Pinky Fluffy」を叩き語った。

 そしてダブル・アンコールでは再びもえか、白根が合流し、全員のパフォーマンスに。ファースト収録曲ながら、昨日とは違うステップに向かう主人公を描いた歌詞の内容がこの日とダブる「ごめんね、テディベア」と、“これがなくてはSOLEILのライヴに来た感じがしない”といっても過言ではないアッパーな「Are you happy?」を聴かせた。“ARE YOU HAPPY?”(※全部大文字)と書かれたプラカードを掲げるそれいゆの表情は、どこまでも吹っ切れているように見えた。

画像3: 「SOLEIL(ソレイユ)」 あれ、何故か目から水が……。キュートなヴォーカル+60’s ガールポップをとことん追求したサウンドで人気上昇途中にあったバンドがラスト・コンサートを開催、オーディエンスを“永遠の魔法”にかける

 今後、それいゆは、サリー久保田いわく「普通の女の子になる」とのこと。サリー、中森、白根はマスター・ミュージシャンゆえ、2020年以降もいろんな音楽の現場で売れっ子ぶりを示すことだろう。もえかのマザーシップである“まちだガールズ・クワイア”もライヴの予定がガンガン入っている。ぼくは今月25日に行なわれる“まちだガールズシアター Vol.14~Xmas Special~”をライブポケットで予約した。

 2020年2月26日にはこのラスト・ライブの模様を収めたDVD、およびサード・アルバム『LOLLIPOP SIXTEEN』のアナログ盤が発売される。星になったSOLEIL、その輝きは永遠だ。

テキスト:原田和典

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