SNEXTは、23日に秋葉原の富士ソフト内セミナールームで、finalブランドのフラッグシップイヤホン「A8000」(¥198,000、税別、12月13日発売)の新製品発表会を開催した。

 A8000は、先日の「秋のヘッドフォン祭」で参考展示された製品となる。開発自体は2年前から進めていたそうで、従来のイヤホンとは次元の異なる音が実現できてはいたが、フラッグシップに相応しい品質を獲得するために、じっくりと検証を続けてきたそうだ。

画像: A8000には、アルミ削り出しのキャリーケースも付属。中でイヤホンが動かないように仕切りも設けられている

A8000には、アルミ削り出しのキャリーケースも付属。中でイヤホンが動かないように仕切りも設けられている

 その経緯を、同社代表取締役社長の細尾 満氏が解説してくれた。

 A8000の大きな特長として、10.8mmのピュアベリリウム振動板が採用されていることがある。細尾氏によると、イヤホンでピュアベリリウム振動板を搭載したのは世界で初めてだが、それありきで開発したわけではないという。

 そもそもA8000は先述した通りフラッグシップモデルとして企画されており、同社ではイヤホンで新しいステージに行かないとフラッグシップとは呼べないと考えていたそうだ。そのテーマは、「音楽を聴く高揚感を、トランスペアレントな音で実現する」というものだったという。

 “トランスペアレントな音”といってもわかりにくいが、どうやら町中の暗騒音がある中でもきちんと聴こえる音、遠くで鳴っていても明瞭でくっきりしている音をイメージしているようだ。

 それを実現する手段として考えたのが、音の時間応答だったという。

画像: SNEXTの代表取締役社長 細尾 満氏

SNEXTの代表取締役社長 細尾 満氏

 細尾氏によると、イヤホンなどの音質を決める手段として、音圧周波数特性と時間応答があるそうだ。音圧周波数特性とは音の帯域(周波数)ごとの音圧レベル(dB)を微調整することで印象を変える方法だ。

 例えば1kHzあたりを強めるとヴォーカルが耳につくようになるし、解像度を高めた音にしたい場合は8kHzあたりを強調するといいという。BAドライバーなどを使ったマルチシステムのイヤホン等ではこういった手法も使われている。

 しかし音圧周波数特性を変化させても、“トランスペアレントな音”は再現できないのだそうだ。そのためには時間応答が優れていなくてはならず、A8000はその領域に踏み込んだ同社初のイヤホンということになる。

 そのために今回は、時間応答の測定方法をアップデートすることから始めたそうだ。これまで使われてきた測定方法は問題点の発見には有効だが、それに基づいた改善では必ずしもいい音にはならなかったという。

 これを受けて物理測定方法と主観的評価方法を再構築して、PTM(Perceptual Transparency Measurement)という独自方式を開発、それに基づいてA8000の開発を進めたそうだ。

画像1: finalのフラッグシップイヤホン「A8000」は¥198,000で12月13日に発売。“トランスペアレントな音”を実現するために、トゥルーベリリウム振動板を初採用

 実際は「地味な検証作業」の繰り返しで、その結果わかったことも「時間応答の改善のためには、振動板が軽く、剛性が強く、音速が速いこと、磁気回路が適切な設計であること」が重要という、ある意味で昔から言われてきたことだったそうだ。しかしPTMを導入したことで、時間応答をよくするために、どんなことをすればどんな結果につながるかが解析できたそうで、これが重要だったと細尾氏は説明していた。

 これを踏まえて、A8000では音速が速く、軽量な点を重視して振動板にベリリウムを選択した。しかしベリリウムは硬いけれどもろいので、プレス加工が難しい。この点については同社は10年近く前にヘッドホン用のベリリウム振動板を研究したことがあり、その技術の蓄積が活きてきたという。今回はベリリウムの薄膜を、高い温度をかけながらプレスすることで緩やかなカーブを持った振動板を成形することに成功している。

 ただしこの振動板を使ったドライバーはひじょうに敏感で、イヤホンの内部容積によっても音が変わってしまうそうだ。開発時にはドライバーの前室(耳側)の形状や容量を変え、さらにドライバーの後ろの空間も二重構造にして容積などのバランスを模索していった。A8000のエンクロージャーは試作・試聴を繰り返して決めたそうで、同社では「テトラチャンバー構造」と命名している。

画像: コネクターにはMMCXを採用。コネクターの破損による修理も多いとかで、付け外しが確実にできるように独自開発した「MMCXアシスト」と呼ばれるツールも付属する

コネクターにはMMCXを採用。コネクターの破損による修理も多いとかで、付け外しが確実にできるように独自開発した「MMCXアシスト」と呼ばれるツールも付属する

 さらにドライバーを固定する際にゴム系の接着剤を使うとそこで音がダンプされてしまう。A8000では硬化式の接着剤を用いてドライバーとステンレスの本体と一体化、不要な振動を抑制することで、輪郭の明瞭な音を獲得している。

 ちなみにこの製造工程は特に難しく、歩留まりもまだまだ厳しいという。「工場では嫌がっています」と細尾氏は話すが、それでもフラッグシップに相応しい音質のためにこの方式を採っているのだろう。

 発表会終了後に、A8000の音を体験させてもらった。48kHz/24ビットのFLAC音源を再生してみたが、再現される音場全体の透明感、音のスピード感に驚いた。演奏している場の空気が澄んでいて、情報がダイレクトに届いている印象だ。

 男性ヴォーカルも胸板が厚く、ドラムも切れがいい。女性ヴォーカルの高い声からベースのゆったりした低域まで、すべての音が遅れなく再生されているので、音の一体感がとても優れているのだろう。10.8mmベリリウム振動板ユニットひとつで再生しているわけだが、低音の量もまったく不満はなかった。

画像2: finalのフラッグシップイヤホン「A8000」は¥198,000で12月13日に発売。“トランスペアレントな音”を実現するために、トゥルーベリリウム振動板を初採用

「A8000」の主なスペック

●使用ユニット:10.8mmトゥルーベリリウム振動板ドライバー(Truly Beryllium Dynamic Driver)
●筐体:ステンレス削り出し/鏡面仕上げ
●コネクター:MMCX
●感度:102dB/m/W
●インピーダンス:16Ω
●ケーブル:OFCシルバーコート、1.2m
●質量:41g

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