カーティス・メイフィールドやリロイ・ハトソンを輩出した伝説のヴォーカル・グループ、ジ・インプレッションズが奇跡の初来日を果たした。
結成は今からちょうど60年前の1958年、場所はシカゴとされる。ザ・ルースターズというグループを母体に発足し、“ジェリー・バトラー&ジ・インプレッションズ”名義でのデビュー曲がいきなり全米R&Bチャートの第3位を記録。間もなくバトラーがソロ活動に転じ、60年代初頭にはサム・グッデン、カーティス・メイフィールド、リチャードとアーサーのブルックス兄弟、フレッド・キャッシュ(ザ・ルースターズからの復帰組)の5人になった。
それからの活躍がまた特筆に値する。61年から有名なレコード・カンパニー“ABCパラマウント”(もともとポール・アンカで儲けた会社だが、ロイド・プライス、レイ・チャールズ、B.B.キング、ファッツ・ドミノら黒人歌謡の偉人たちも傘下に迎えた)と契約、カーティスのソングライティング能力も途方もなく開花し、移籍第1弾シングル「Gypsy Woman」はR&Bチャート2位を記録。その後はヒットに恵まれない時期もあったが、ブルックス兄弟が抜けた3人編成に生まれ変わり、アレンジャーにジョニー・ペイト(ジャズ・ベーシストとしても著名)を迎えてから驚異のV字回復、63年リリースの「It's All Right」は100万枚を売り上げ、65年リリースの「People Get Ready」は2004年にローリング・ストーン誌が選定した“史上最も偉大な500曲”の24位にランクインしている。ボブ・マーリーやロッド・スチュアートのカヴァーで、この曲に入門したファンも少なくないはずだ。
こうした黄金のナンバーを、目の前で届けてくれたのが今回の来日である。ぼくはビルボードライブ東京の公演(9月11日)に行ったのだが、とにかく、あのサム・グッデンとフレッド・キャッシュが今なお健在で、自分の足でステージにのぼり、豊かな歌声を届けてくれているという事実が、ライヴが始まってからもしばらく信じられなかったほどだ。
カーティスのポジションには1984年生まれの気鋭、ふたりとは祖父と孫ほど年齢の違うジャーメイン・ピュリフォリーが就いた。俺は俺の声で俺の節回しでインプレッションズをやる。その心意気を感じて気持ちよくなったのは、ぼくだけではないはずだ。そこで思い出したのがブラッド・メルドーの学生時代のエピソードだ。彼は当時ウィントン・ケリーに心酔していた。そしてジミー・コブと共演した時、ケリー節のコピーを延々と披露した。コブはケリーと十何年間演奏していたから、そっくりに弾いたら懐かしがって喜ぶと思ったのだろう。しかしコブはニコリともせず「私は君自身のプレイを聴きたい。ウィントン・ケリーはひとりで充分」と言ったという。ジャーメインはカーティスではなくジャーメインであり、サムもフレッドも今現在の深く渋い声で魅了する(60年代の颯爽たる歌唱から半世紀以上が経っているのだ)、それでこそ2018年のジ・インプレッションズである。
演目は前述のほかに「We're a Winner」、「I’m So Proud」、「Choice of Colors」、カーティスのソロ曲から「Move On Up」など。ぼくは“イントロ当てクイズ”をしている気分で各曲の冒頭を楽しみ、ヴォーカル・パートに入ってからはおぼろげな歌詞の記憶を反芻しつつ3人の歌唱に浸った。サムとフレッドが高齢ということもあり、インプレッションズは活動を凍結するという。せめてカーティス20周忌の2019年まで現役を続けてもらえたらと思うのだが……。