「Billie Jean」はポータブルオーディオ界のハイブランドがコラボして作った
オーディオ機器の“コラボモデル”とか“ダブルネームモデル” と聞くと、多くのオーディオファンは気持ちを高ぶらせるのではないだろうか。筆者もその一人だ。友好関係にある2つのブランドがそれぞれの持つフィロソフィーや技術を融合させると、往々にして「1+1=2」以上の製品が生まれる。今回レビューを行なう「Billie Jean」(ビリー・ジーン)は、まさにその典型となるユニバーサルIEM(インナー・イヤー・モニター=モニター用イヤホン)だ。
ビリー・ジーンは、ハイエンドDAPブランドのAstell&Kern(アステル&ケルン) と、IEMで世界的メーカーとして知られるJerry Harvey Audio(JHオーディオ)のコラボレーションにより誕生した。JHオーディオのユニバーサルIEMは、複数のドライバーを組み合わせ、5万円を超えるモデルがほとんど。その点、本機はエントリーモデルに位置づけられ、直販価格が¥39,980(税込)とリーズナブルだ。
ユニバーサルIEM
Astell&Kern/JH Audio
Billie Jean
オープン価格(直販価格¥39,980税込)
エントリーモデルながらも、同ブランド独自開発のカスタム BA(バランスドアーマチュア)型ドライバーを高域用と中低域用に1基ずつ搭載する、2Wayデュアルドライバー構成としている。
ビリー・ジーンを語る上でまず触れなければいけないのは、上位モデルに採用された「Freqphaseテクノロジー」が搭載されていること。本技術は、独自の「チューブウェイブガイド」を用いて、高域と中低域を担当する2つのドライバーの時間軸と位相を正確に制御し、それぞれのドライバーの信号到達時間を 0.01 ミリ秒以内に統一させるというもの。これにより複数のユニットを用いるマルチドライバーイヤホンの弱点として指摘されることも多い、帯域による質感の違いや位相のズレを大幅に低減させた。
また、ハウジングのノズル部分にアコースティックチャンバーを設け、音声伝達時の空気量を増すという「アコースティック・チャンバー・サウンド・ボア」デザインを、ブランド初採用。これにより、高域特性の最適化と空間表現力を改善する。
リケーブルにも対応する。端子はカスタム IEM 2pin タイプ。付属ケーブルは、米国デュポン社が開発したケブラーに圧縮した銀メッキ銅線を巻き付けた独自品を採用。取り回しの良さと音の良さを両立したとしている。
「Billie Jean」は聴けば欲しくなる名品。自然なサウンドステージが絶品だ
ビリー・ジーンを手にとってまず感じるのは、思いのほかハウジングがコンパクトなこと。同ブランドの上位モデル「Michelle Limited」比で 30%以上もダウンサイジングされたそうだ。
試聴は、筆者のリファレンスとしているオンキヨーのハイレゾスマホ「GRANBEAT」(グランビート)を用いた。2017~2018年に発売されたジャズボーカルで優秀録音盤の1つとして知られる、グレゴリー・ポーター『Nat King Cole & Me』(96kHz/24bit FLAC)を聞く。素晴らしい情報量と各帯域の位相がほぼ完全に整っていることに驚いた。リアルなボーカル、適度な色彩感のあるピアノ、そして頭内に広がる自然なサウンドステージが絶品だ。
次にステレオサウンド社の『Stereo Sound Hi-Res Reference Check Disc』から、トラック19の「グリーンスリーブス」(5.6MHz DSF)を聴いた。一聴して高域から低域までレンジが広く、抜群の空間再現力が感じられた。位相特性に優れていることは、パーカッションやサックスの位置関係が明瞭にわかることから理解できる。また高域、低域とも聴感上の解像度はかなりのもので、デュアルBAドライバー構成の良さがよく出ている。
その音は「Freqphaseテクノロジー」を始めとした設計思想が具現化する、まさに狙い通りのサウンドだと感じた。音楽性の高さとオーディオ的な再生能力、両者のバランスが非常によい。さらに、インピーダンスが18Ωと低く比較的非力なDAPでも駆動しやすい設計はアステル&ケルンの影が見え隠れする。
また筆者の耳の形状と相性が良かったのかもしれないが、カスタムIEMに近いフィット感もあり、装着感や遮音性も優れていた。あまり褒めすぎたくないのだが、実売4万円を切るという価格帯が信じられないほど完成度が高い。久しぶりに食指が動きそうな素晴らしいIEMと出会った。