MM型カートリッジの音質が形作られる要素を構造から考察し、根強い人気を持つシュアー製MM型カートリッジの交換針を比較試聴。ヴィンテージ機となったシュアーM44-7、V15 Type IIIで、オリジナルと現行の交換針を聴き比べる。

【2】JICO N44-7 IMP NUDE

画像: 【2】JICO N44-7 IMP NUDE

JICO N44-7 IMP NUDE
●針先:無垢丸針●カンチレバー材質:アルミニウム●適正針圧:1.5~3g

──接合針のN44-7 IMP SDに続いて、無垢針のN44-7 IMP NUDEを聴いていただきました。

古屋 予想通り、基本的な音の方向性はほとんど変わらないと思いました。先ほどお話ししたように、接合針と無垢針の違いは音質的な差を狙ったものではないですから。強いて言えば、こちらの無垢針のほうが若干音が柔らかいと感じました。しかし、これは個体差かと思います。

 私も、あまり差が感じられませんでした。あまり、というよりもほとんど感じられませんね。つまりユーザーにとっては、安価だけれども寿命が短い接合針か、やや高価にはなるけれども寿命が長い無垢針かという選択になると思います。ご自身にとってどちらが使いやすいか、どういう使い方をするかを基準に決めていただければいいのではないでしょうか。

古屋 いずれも現行製品で減磁していないので、純正針よりも音量が大きく、しっかりとした音を聴くことができました。

【3】JICO N44-7 IMP SAS/B

画像: 【3】JICO N44-7 IMP SAS/B

JICO N44-7 IMP SAS/B
●針先:SAS(ラインコンタクト)●カンチレバー材質:ボロン●適正針圧:1~1.5g●備考:サファイアカンチレバーの「N44-7 IMP SAS/S」、ルビーカンチレバーの「N44-7 IMP SAS/R」あり

──3機種目は、SAS針でボロンカンチレバーを用いたJICO N44-7 IMP SAS/Bです。SASは「Super Analog Stylus」の略で、針先形状に丸や楕円ではなくJICO独自のラインコンタクトを採用するシリーズです。針圧は、前の2機種は3gで聴いていますが、こちらは1.5gに設定しています。

古屋 前の2機種に比べるとまったく別物です。良い意味でMC型のような音だと感じました。「リスト」では、音像がキュッと締まって、ピアノの高音がクリアーです。耳にきつい高音ではなく、まろやかさもしっかり残っている。かなり優秀な交換針ではないでしょうか。「モーツァルト」は、ホルンの音がとてもリアルで、前の2機種に比べて全体の音量が上がったように感じました。オーケストラのヴァイオリンは演奏者が何人いるか数えられるぐらいクリアーな再現力で、ハーモニクスまで綺麗に聴こえてきた。

 逆に、「デスモンド」ではジャズクラブの熱気がやや薄れてしまうところが惜しいと思いました。ベースの音はよく締まっていて、それでいて低弦までよく伸びていますが、どこかクールなんですね。クラシックとジャズであれば、クラシックの再生に向いている交換針だと思います。「ベラフォンテ」のヴォーカルも見事です。耳に刺激的な部分がなく、安心して聴くことができる音です。前の2機種よりも価格がぐんと上がりましたが、それも納得のクォリティです。なかなか良い針ですね。

 私も同意見です。これまでの2機種とはまるで音が違いました。カンチレバーの材質が音にこれだけ大きな変化を与えることは、もっと広く知られるべきだと思います。MM型の交換針を買う際に、考慮すべきポイントのひとつでしょう。価格は上がりますが、それだけの価値があります。「リスト」は、ピアノの立ち上がりが素晴らしく、明瞭度の高い音でした。古屋さんと同様、私もMC型に近い鳴り方だと感じた次第です。「モーツァルト」も好印象で、これまでの2機種よりもしっかりとした再現力を持っていると感じました。いろいろな楽器の音が混ざり合ったオーケストラの中で、ソロ楽器の音像がきちんと浮き彫りになっていたと思います。

 「デスモンド」については少し古屋さんと印象が異なり、私は好みの音です。ポール・デスモンドはデイヴ・ブルーベック・カルテットの「テイク・ファイヴ」が有名ですが、そこでのプレイを彷彿させる瞬間がありました。「ベラフォンテ」は、歌がとにかく明瞭で、彼の歌う英語がはっきりと耳に入ってくる。交換針でここまで音が変わるとは思いませんでした。違いがくっきりと出て、面白くなってきましたね。

古屋 MC型では、ボロンカンチレバーを採用しているカートリッジはたくさんあります。でも私の感覚だと、中には成功しているとは言い難い製品もある。もともとクリアー志向のMC型が、ボロンを使うことでクリアーになりすぎてしまい、肉の薄い音になってしまうわけです。一方で、MM型のボロンカンチレバーは今回初めて聴きましたが、これはアリだと思いました。アルミにこだわらず、ボロンなどの素材を積極的に用いれば、交換針のバリエーションが広がっていいのではないかと。

 音にこだわる方の多くは「MM型よりMC型」と考えているかもしれないけれども、こういう製品にはMC型に負けないMM型が生まれるヒントが隠されているように思います。これはとても良かったです。

──JICOのSASシリーズは他にもカンチレバーの材質が異なる交換針がラインナップされており、サファイアを用いたSAS/S、ルビーを用いたSAS/Rなどがありますので、聴く音楽によって使い分けてみるのもいいのかもしれません。

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