最新球は既にWEの神族に列せられる存在だ
吉田伊織
1938年に登場したウェスタン・エレクトリック(WE)300Bには数々の神話が付きまとってきた。それがトーキーアンプ用として開発された業務用真空管であったこと、さらにはWEのトーキーシステムが純然たるレンタル方式だったからだろう。そんなWE300Bの最新復刻版を聴いた。
1997年から始まった本格的なWEメソッドによる復刻再生産の現行品は、2021年以降の新工程で作られたものだ。今回は2025年製の完実電気扱いのものを筆者手持ちのオールド球と比較してみた。アンプはウエスタン サウンド インクがかつて発売していたトーキーアンプWE91B型キットの完成品を使用。前段管はWE337A×2、整流管はGE 5Z4を使った。
まずは2025年版のWE300B。鮮明で音像が明快。過渡特性の優秀さは隠れもない。アンドルー・マンゼのバロックバイオリンなど、金属質に近い美音がその品位に自足し虚空に軌跡をたっぷりと残す。ビブラートなしなので、もっぱら弓の摩擦と運動量だけでフレーズを作るのだが、その音楽的分析力がよく見えるのだ。ジョニー・ホッジスのビッグバンドも実に快調。各パートの音圧の放射能力をが高いのだが、エネルギッシュなだけでなく稠密な質感、凝縮した空気を一気に解き放つ筋力、膂力が際立っている。
やや中高域寄りに聴こえがちだが、整流管の性格やWE300Bがまだ新品同様ということもあるだろう。あるいは、プレートが従来の黒艶消しではなく白銀の光沢を帯びたグラフェンコーティング仕様なのも関係ありか。私はこの外観を製法や成分と関係なく「玉鋼(たまはがね)」と呼んでいる。アナログ盤の繊細至極、剛力無双の世界も堪能。これは既にWEの神族に列せられる存在だ。

最新のWE300Bを試聴したウエスタン サウンド インク(WSI)91 Typeアンプ。WE91A、91B型は1936年に「ミラフォニック・サウンド・システム」の「M5」用として小規模な劇場で使用され始めた。出力段は300A/Bシングル構成で出力8W。電圧増幅管は5極管WE310A、整流管はWE274Aが採用され、NFB技術など当時の新機軸が盛り込まれた歴史的存在である。試聴機はWSIがWE91Bの回路を再現したキットアンプの完成品。電圧増幅管にWE337A、整流管にGE製5Z3といずれもヴィンテージ管を使った状態で、最新のWE300Bを試聴した。プリアンプのウエスギU・BROS280Rほか『管球王国』リファレンスの最新システムを組み合わせている。
映画劇場の観客何百人分もの音に由来する、奇跡のように鮮鋭な表現力と3次元音場
次に1964年と1968年のWE300Bオールドに交換してみる。これはまた恐るべき音の濃縮状態と傑出した過渡特性が堪能できた。重心が下がり、ジャズのご機嫌すぎるほどの躍動感、官能美に身悶えするばかり。バロックバイオリンの銀の雫のような艶光りにわずかな色味が見え隠れする様子にも覚醒させられた。さらに驚愕したのが湯浅譲二の「花鳥風月」(45回転盤LP)だ。凝縮した音の運動体は活性を増し情報密度が高まり、表現域が拡大している。モニターのB&W801D4シグネチュアの低域が開放的に鳴りにくく音の奔流が時に堰き止められ、決壊の危険性を孕むためかもしれない。
