東急レクリエーションは、「松任谷由実 THE JOURNEY 50TH ANNIVERSARY コンサートツアー movie ~5.1ch/4K ~」を109シネマズプレミアム新宿、109シネマズ名古屋、109シネマズ大阪エキスポシティの3館の映画館において順次、特別上映している。
「松任谷由実 THE JOURNEY 50TH ANNIVERSARY コンサートツアー」は2023年11月横浜アリーナで収録、2024年5月にDVDとBlu-rayがリリースされているが、今回特別上映されるmovie版は映画館に合わせ音声が2チャンネルではなく、マルチチャンネル素材から新たに5.1チャンネル音声を制作。5.1チャンネル音声を制作したのはグラミー賞エンジニアとして知られるGOH HOTODA氏である。
取材スタッフは12月某日、GOH HOTODA氏に「松任谷由実 THE JOURNEY 50TH ANNIVERSARY コンサートツアー movie ~5.1ch/4K ~」における5.1チャンネルの制作背景、音の狙いなどをうかがう機会を得た。
―今回の特別上映に際して、コンサートの音声を新たに5.1チャンネル化した経緯を教えてください。
GOH HOTODA(以下・GOH) 当初は「松任谷由実 THE JOURNEY 50TH ANNIVERSARY コンサートツアー」のパッケージソフトを109シネマズプレミアム新宿のスクリーンでそのまま上映しようと計画していました。坂本龍一さんが監修された109シネマズプレミアム新宿の音の評判は知っていたので、ODS(映画以外のコンテンツ)で「松任谷由実 THE JOURNEY 50TH ANNIVERSARY コンサートツアー」を上質な音で再現できたらと考えていたんです。
―近年、都市部の映画館では実際、ODS上映がとても盛んです。2チャンネルのステレオ音声でも上質なスピーカーシステムなどが導入されていれば、自宅でパッケージソフトを観賞するのとは別次元の体験ができます。
GOH 私たちスタッフも当初はそのように考えていたのですが、109シネマズプレミアム新宿のスクリーンで音を確認した際、来場者の方々に松任谷由実さんの記念コンサートの魅力を映画館という環境で最大限に楽しんでもらうには既存のソフトのステレオ音声ではやや物足りなく感じました。そこで新たに5.1チャンネルのサラウンド音声を制作するのがベストではないかと松任谷正隆さんに提案したんです。その提案が受け入れられて、5.1チャンネルのミックスを新たに手掛けました。松任谷由実さんのコンサートは演奏はもちろんのこと、舞台装置を含む演出が練り上げられているので、そうした要素を含め5.1チャンネル音声に反映し表現できたらと以前から考えていたんです。
―GOHさんはこれまでもサラウンド・ミックスの制作に数多く携わり、自宅スタジオでもドルビーアトモス・ミックスの制作に取り組まれていますね。
GOH サラウンドで表現できる音の世界は計り知れません。私は2023年末に開催された「THE JOURNEY 50TH ANNIVERSARY コンサートツアー」を実際に横浜アリーナで体験していたので、会場における音の臨場感のイメージが記憶にしっかりとありました。今回の5.1チャンネルの制作ではマルチ・チャンネルの素材にまで遡り、音声を新たに作り上げています。
―movie版を観賞すると、パッケージソフトでは聞こえてこなかった音がかなりありますね……。
GOH 私が今回新たに制作した5.1チャンネル・ミックスは音楽パートを仕上げた後、ステージ上の演出としての花火の音、炎が燃え上がる音、そしてダンサーたちのパフォーマンスを印象付ける足音といった効果音の数々を専門スタッフの方に加えてもらっています。そうした音の要素はDVDとBlu-rayの音声には収められていませんでしたが、コンサートを観賞しているファンの皆さんはそうしたステージ上の演出も含めた音を総合的に体験されているので、そこを伝えたいと以前から考えていました。映画館で特別上映するmovie版は来場者の方々に新たな体験をしてもらうことが不可欠だと考えたんです。
先にも述べたように私は2023年末、横浜アリーナでライヴを体験しているので、その時の記憶をイメージしながら新規の5.1チャンネル音声を制作しています。タイトルに〈movie〉と加えているのは映像の4K化に加え、既存のパッケージソフトとは音声が別物という意味を込めているんです。
―5.1チャンネルのミックスはGOHさんの自宅スタジオで制作したのですか?
GOH はい、そうです。最大200トラックにおよぶ音声素材から新たな5.1チャンネル音声を制作しています。最終的に仕上げた音声素材はポスプロのスタジオで確認しMCや細部の微調整を施した後、109シネマズプレミアム新宿のスクリーンで最終確認をしたんです。コンサートではミュージシャンたちが緩急を付けながら歌と演奏を繰り広げ、観客はそれを含めて楽しむものですが、今回のmovie版ではコンサートの構成に見合った音づくりを演出効果も含め制作側がしっかりと伝える必要があると考えました。
自宅スタジオで制作した5.1チャンネル音声が、109シネマズプレミアム新宿のスクリーンでは私のイメージ通りに再現されていると思います。パッケージソフトとはまったく異なる音の世界が体験できるコンサート映像を上質な映画館の環境でぜひともお楽しみください。
GOH HOTODA氏プロフィール
1960年東京生まれ。1980年代にアメリカ・シカゴでミックス・エンニアとしてのキャリアをスタートし、1987年にさらなる可能性を求めてニューヨークへ。1990年リリースのマドンナのシングル「Vogue」でハウス・ミュージックの立役者のひとりとなる。ミックス・エンジニアとして2度のグラミー賞に輝き、これまで手掛けた作品のトータル売上げは6,000万枚以上。プロデューサー/アーティストとしてもThe SyncやNOKKO & GOで作品をリリースしているほか、他者楽曲のリミックスも数多く担当している。帰国後、熱海にstudio GO and NOKKOを設立し、これまでと変わらずワールドワイドな活動を展開。松任谷由実のハイレゾ音源のマスタリング、近作のミキシングも手掛けている。
聞きどころ満載 movie版 5.1chサラウンドについて
取材スタッフは109シネマズプレミアム新宿のスクリーンで聞きどころ満載の〈movie〉版を観賞したが、映像とリンクしながらも演出効果がスマートに盛り込まれたコンサート映像と5.1チャンネル音声に惹き込まれた。以前、GOH HOTODAさんの自宅スタジオで体験したサラウンド・ミックス同様、過剰な演出を削ぎ落としたナチュラルな音の印象に近似していると感じた。すでにパッケージソフトの「THE JOURNEY 50TH ANNIVERSARY コンサートツアー」をお持ちのファンの方でも、GOHさんの作り出した5.1チャンネル音声を3館の109シネマズに導入された上質なカスタムメイドのオリジナルスピーカーで観賞すれば、新たなコンサート体験が味わえる。
コンサートの構成に即した緩急のある音、とりわけ舞台演出が印象的な「真夏の夜の夢」における5.1チャンネル音声に心を奪われた。「松任谷由実 THE JOURNEY 50TH ANNIVERSARY コンサートツアー movie ~5.1ch/4K ~」は今後のODS上映の在り方、さらなる可能性まで示唆。プレミアムサウンドシアターSAION(サイオン)は制作陣の感性まで刺激し、映像作品のクォリティを向上させるポテンシャルを誇る。今回の特別上映は松任谷由実ファンのみならず、音楽ファンには見逃せず・聞き逃せないだろう。音の細部、消え際まできちんと表現する上質なカスタムメイドによるスピーカーシステムが、心を揺さぶる感動体験を約束してくれる。(武田昭彦)