イギリス「Wharfedale Pro」社の「GPL」シリーズは、様々な固定設備に対応する同軸のパッシブ・スピーカーだ。スペイン「Beyma」社製のドライブ・ユニットを採用し、堅牢なキャビネットに丁寧に搭載することで、同軸ならではの自然で解像度の高いサウンドを実現している。現在、フル・レンジ・モデルが8機種、サブ・ウーファーは4機種ラインナップされ、12インチと15インチのフル・レンジ・モデルでは80°×40°の定指向性ホーンを搭載した“HQ”モデルを選択することも可能。付属のU字ブラケット、もしくはオプションのウォール・ブラケットを使用することで、さまざまな施設に設置することができる。そこで本誌では、エンジニアの後藤誠氏(エスエスピー)にレビューを依頼。そのインプレッションについて話を伺ってみることにした。
画像: 有名なBeyma社のドライブ・ユニットを搭載。固定設備に最適な同軸のパッシブ・スピーカー「Wharfedale Pro GPLシリーズ」【PROSOUND CLOSE-UP】

「Wharfedale Pro」社の「GPL」シリーズ。コンパクトなキャビネットにスペイン「Beyma」社製の同軸ドライブ・ユニットを搭載、同軸ならではの自然で解像度の高いサウンドで、劇場、バー、ナイト・クラブ、ライブ・ハウスなど、様々な設備に対応する。フル・レンジ8機種、サブ・ウーファー4機種がラインナップされ、80°×40°の定指向性ホーンを搭載した“HQ”モデルも選択することが可能。U字ブラケットが付属しているのも魅力だ

 

 

同軸設計のパッシブ・スピーカー Wharfedale Pro GPLシリーズ

── 後藤さんには今回、「Wharfedale Pro」の同軸パッシブ・スピーカー「GPL」シリーズを試聴していただきましたが、同軸設計のスピーカーについてはどのような印象をお持ちでしたか?

画像: 「エスエスピー」の代表、後藤誠氏

「エスエスピー」の代表、後藤誠氏

後藤 ライブ・サウンドに関して言うと、FOHにおける同軸の利点は個人的にはまだ分かっていないというのが正直なところなのですが、ウェッジ・モニターとしては抜群に良いですよね。トラディショナルな設計のスピーカーを近くで聴くと、どうしても高域が左右どちらかに寄ってしまったりするのですが、同軸設計のスピーカーはそういう音像の偏りが生じない。ウェッジ・モニターを複数使う場合、左右対称にミラー置きにしなければならないとか考えますけど、同軸設計のスピーカーはそういうことを気にする必要がないのがいいですよね。

 それと私はレコーディングやミックスも行うのですが、スタジオ・モニターとしても同軸設計のスピーカーの方が気に入っています。音って、超低域から超高域まで、幅広い周波数の音が含まれているわけですが、トラディショナルな2ウェイ・スピーカーですと、時間軸に沿って音像が微妙に動くのが気になるんですよね。スピーカーとリスニング・ポイントがそれなりに離れていれば気にならないのですが、弊社のミックス・ルームのような狭いスタジオですと、何となく音像が動く感じがあるんですよ。それと同軸設計のスピーカーは、クロスオーバー・ポイントでのごちゃつきが少ないのもいいですよね。

 SRの現場でもスタジオでも、離れた場所で聴くのであれば、トラディショナルな設計のスピーカーでもさほど問題ないと思うんです。高域と低域が混ざってくれるので、音像の動きが気にならない。でも、ウェッジ・モニターや狭いスタジオのモニターなど、近距離で聴く用途には同軸設計のスピーカーの方が向いていると思います。それは今回、「GPL」シリーズを試聴して、あらためて実感したことですね。

── 「GPL」シリーズについてはご存じでしたか?

後藤 「イースペック」さん主催の『機材展』(編註:今年は5月31日〜6月1日に東京、6月14〜15日に大阪で開催)で5インチのモデルを見て、ずっと気になっていました。あのサイズで同軸設計で、まるで「AURATONE」みたいだなと。それと「Beyma」社のドライブ・ユニットを搭載しているというのも気になりました。弊社では昔、「Turbosound」を使っていたのですが、いくつかのモデルのコンプレッション・ドライバーが「Beyma」社のOEMだったんですよね。

 

解像度が高く本当にフラットなサウンド

── そして先頃、実際に試聴していただいたわけですが、その印象はいかがでしたか?

後藤 今回、複数のモデルをお借りして、最初に弊社の倉庫、その後はいつも使っているリハーサル・スタジオに持ち込んで試聴してみました。試聴ソースとしては、自分でレコーディングしたライブ音源を使用しました。元の音がどういう音か分かっているので、自分のライブ音源で試聴するのが一番いいかなと。

 かなり長時間にわたって聴いたのですが、全帯域にわたってフラットなサウンドで、かなり好印象でした。ローミッドが凹んでいるというか、こもっている感じもまったく無くとてもクリアですし、本当にフラットなサウンドでしたね。私がよく手がけている民謡の歌は、人間の声を前に出さなければならないんですけど、そういう音楽にもバッチリでした。「Smaart」で測定もしてみたんですが、その結果も聴感どおりフラットでしたよ。

 それと見た目以上にパワーが出るスピーカーなんですけど、けっこう音量を出しても奥行き感が失われないし、低音域のレスポンスも速くて良く、音が平坦にならないというか。これはスピーカーの性能だけでなく、アンプの性能、中でもダンピング・ファクターが優秀なのかもしれないですけどね。

画像: 解像度が高く本当にフラットなサウンド
画像: 京都の「スタジオウィット」( http://studiowit.com/ )で「GPL」シリーズを試聴する後藤氏。Aスタジオに複数のモデルを持ち込み、主に邦楽のライブ音源で試聴を行ったという

京都の「スタジオウィット」( http://studiowit.com/ )で「GPL」シリーズを試聴する後藤氏。Aスタジオに複数のモデルを持ち込み、主に邦楽のライブ音源で試聴を行ったという

── 今回、アンプはどのようなものを使用されたのですか?

後藤 最初に倉庫で試聴したときは、純正ではない普通のアンプを使ったんですよ。でも、純正ではないアンプですと、ところどころ気になる点があって、その後に「Wharfedale Pro」純正の「DP-4100」とプロセッサーの「SC-48 FIR」に替えたのですが、それからはもうバッチリでした。メーカーが「GPL」シリーズ用のFIRデータを提供していて、それを使うとチューニングしなくても十分鳴ってくれます。ただ、サブ・ウーファーを併用する場合、サブの方はIIRでクロスオーバーを切っているので、上下のディレイを調整する必要があります。今回そのままドンと鳴らしただけでは、上が3ms近く遅れて、100Hz近辺にディップが生じてしまいました。

画像: 「Wharfedale Pro」純正のアンプ「DP-4100」とプロセッサーの「SC-48 FIR」

「Wharfedale Pro」純正のアンプ「DP-4100」とプロセッサーの「SC-48 FIR」

── その他に印象に残ったことはありますか?

後藤 「GPL」シリーズに限ったことではないのですが、「Wharfedale Pro」社はキャビネットにも凄くこだわっているメーカーなんですよね。密度が高く、質量のある木材を厳選して使用している。それは今回の「GPL」シリーズも同じで、気密性が高い分、音がグンと前に出てくるんです。重量があるので、ハコ鳴りがしないというのもいいですね。このこだわりのキャビネットは、「Beyma」社のドライブ・ユニットと同じくらい「GPL」シリーズの特徴になっていると思います。

── 複数のモデルを試聴していただきましたが、特に好印象だったモデルはどれですか?

後藤 どれも良かったですけど、強いて挙げるなら「GPL-12」ですね。12インチのウーファーと、2.87インチのコンプレッション・ドライバーの組み合わせが、個人的には最もバランスが良い印象でした。12インチでも十分パワーがあるので、サブ・ウーファーを組み合わせれば、ちょっとしたライブ・ハウスだったらいけてしまうと思います。

画像: 「エスエスピー」の倉庫に設置された「GPL」シリーズ

「エスエスピー」の倉庫に設置された「GPL」シリーズ

── 「GPL」シリーズは、どのような用途に向いているスピーカーだと思いますか?

後藤 中小規模の固定設備に最適なスピーカーだと思います。直接スタンドに挿すことはできないんですけど、付属のU字ブラケットかオプションの壁面取り付け用ブラケットで、いろいろな施設に設置することができる。小さなライブ・ハウスやバーとかにもいいでしょうし、最近ですとホテルの宴会場も音のクオリティが求められるので、そういったところにも合っているスピーカーだなと。それと、これはメーカーは想定していないかもしれませんが、ウェッジ・モニターとして使っても良さそうですよね。

 しかし個人的に一番いいなと思っているのは、スタジオ・モニターとしての使い方です。レコーディングやミックスでは、ラージ・スピーカーを虫眼鏡的に使うケースがあるのですが、すべてのスタジオがラージ・スピーカーを置けるわけではないじゃないですか。その点、「GPL」シリーズの12インチ・モデルはコンパクトながら、ラージ・スピーカーのようなレンジの広さと解像度の高さを持っている。音の問題点がよく分かるスピーカーとして、スタジオ・モニターとしての使い方もアリだなと思いました。現在、弊社のミックス・ルームも新しいスタジオ・モニターを探しているところで、この12インチ・モデルに凄く惹かれているところです(笑)。

── 後藤さんが最近取り組まれているイマーシブ・サウンドにはどうでしょうか?

後藤 以前、「イースペック」さんのイベントで行ったようなイマーシブ・サウンドは、会場の広さによってはカバレッジの広さや遠達性が必要になってくるので大会場では厳しいかもしれません。ただ、一番小さな5インチのモデルを多数使用して、狭めのスペースで「Flux SPAT Revolution」によるイマーシブ・ミックスで使うのはおもしろいかもしれませんね。「SPAT Revolution」のWFSプロセッシングを行う場合、隣接するスピーカーのカバーエリアがクロスオーバーしなければならないので、円錐形のホーンのモデルを使えば360°イマーシブでもきれいに音場を作ってくれるような気がします。

── 総じて「GPL」シリーズはいかがでしたか?

後藤 解像度が高いのはもちろん、鳴らしていて“何も気にならない”のがいいですね。気になるところが無いというのは、スピーカーにとって最高の褒め言葉だと思っています。それと驚くのが、その値段。12インチのモデル2本、純正のアンプ、純正のプロセッサー、すべて揃えても60万円前後なのではないでしょうか。オーディオ・マニアだったら絶対知っている「Beyma」社のドライブ・ユニットが入ってこの値段ですから、コスト・パフォーマンスの高さは驚異的だと思います。個人的には、ウェッジ・モニターで使うのもいいですが、スタジオでじっくり使ってみたいスピーカーですね。サブ・ウーファーを使わなくても本当にしっかりした低音が出るので、それほど広くないミックス・ルームにはバッチリなのではないでしょうか。ありきたりな表現になってしまいますが、生楽器の微妙なニュアンスや歌い手の息づかいがよく聴こえる、本当に解像度の高いスピーカーだと思います。

── 本日はお忙しい中、ありがとうございました。

取材協力:イースペック株式会社、株式会社エスエスピー

 

Wharfedale Pro製品に関する問い合わせ:イースペック株式会社 Tel:06-6636-0372

This article is a sponsored article by
''.