今回ご紹介する福岡の複合施設「グランドミラージュ」も「M-5000」を導入した会社の一つで、3~4階にあるクラブ『evol』で、ライブ・イベント用コンソールとしてフル活用している。そこで本誌では「グランドミラージュ」にお邪魔し、関係者の方々に「M-5000」を選定した理由と、その使用感について話を伺ってみることにした。取材に応じてくださったのは、「グランドミラージュ」のプロデューサーである西本哲哉氏、音響・照明・映像設備の管理を手がける「スペースファクトリー」代表の今村剛氏、同じく音響・照明・映像設備の管理を手がける「ハーベイ」のサウンド・ディレクター、岩崎剛氏の3氏である。
福岡・天神にオープンした新しい複合施設「グランドミラージュ」
PS まずは「グランドミラージュ」さんの沿革からおしえていただけますか。
西本 「グランドミラージュ」は一昨年オープンした4階建の複合施設で、エントランスとなる1階は『WHOLE NOTE CAFÉ』というカフェとレストラン『The Corner Room』、2階は『PASSAGE』というバー、そして3階と4階はライブ・イベントにも対応するクラブ『evol』と『THE SKY』という構成になっています。“大人の遊園地”というのがオーナーのコンセプトで、どこからビルの中に入っても各施設を回遊することができます。1階の『WHOLE NOTE CAFÉ』では、イタリアンやフレンチのコース料理も提供しており、2階の『PASSAGE』は、着席80名/立席120名までのパーティーにも対応します。
PS 天神の中心からは少し外れた場所にありますね。
西本 そうですね。天神で一番栄えているのは北側のエリアなので、ここは少し端の方になります。ただ、このお店がオープンしたことによって、新しい道の流れができたのではないかと感じています。約1年営業して、そういう実感がありますね。
PS 今日は3階/4階のクラブ『evol』と『THE SKY』にお邪魔しているわけですが、ここでは普段どのようなイベントが行われているのですか?
西本 音楽的には当初、オーナーはハウスを中心に考えていたようですが、現在はジャンルは様々という感じですね。その中でも最近は、若い人たちに人気のあるK-POPのDJイベントが増えています。現状、約8割は当店で企画したイベントで、残りの約2割が箱貸しという感じですね。キャパシティーに関しては、ステージの大きさが可変できるようになっているので仕様によって変わってくるんですが、通常営業ですと約280名、ライブ営業だと約330名という感じでしょうか。
岩崎 吹き抜けになっている4階部分はVIPルームになっているんですが、オープン後にその一部を改装して、小さなクラブ『THE SKY』としてオープンしたんです。『evol』と『THE SKY』はシステムも完全に独立していて、クラブの中にまた別のクラブがあるような感じですね。
PS とてもゴージャスというか、かなり豪華な内装になってますね。
西本 建築デザイナーは東京の方なんですが、銀座のクラブ「diana」をイメージしたと聞いています。
今村 最初に中を見せてもらったときは、とてもビックリしました。これだけの規模で、この内容のクラブを福岡でやるのかと(笑)。演出の設備も凄く、ムービングもレーザーもあるので、全部一度に使うと本当にトリップしてしまうような感じです。スモークも強力ですし、LEDが仕込んであるお立ち台もあります。
岩崎 スモークは4方向から噴射されて、さらに人間が担げるものもあるので、全部で6発あります。
PS でも、こういうクラブには非日常性を求めて足を運ぶ人も多いですから、この豪華な内装と演出設備は、お店のセールス・ポイントになりますね。
西本 そうかもしれませんね。これだけの設備があるクラブは、福岡では他にはありませんから。
今村 あとはオペレーションする側がシステムをしっかり理解して、いかにイベントに合った演出をできるかというのが重要になってくると思います。
昨年、ライブ・イベントにも対応できるシステムを導入
PS 常設の音響設備についておしえていただけますか。
岩崎 フライングのメイン・スピーカーは「Dynacord Cobra」で、床下には18インチ・クラスのサブ・ウーファーが8発埋め込んであります。常設のコンソールは「ローランド V-Mixer M-200i」と「ローランド Digital Snake S-1608」の組み合わせで、あとは「Pioneer」のDJシステムがあるという感じですね。
今村 僕らはオープン時には関わっていないのですが、床下にサブ・ウーファーが埋め込んであるのもそうですし、クラブ・イベントに特化した設備になっている感じですね。
西本 サブ・ウーファーは、すべて鳴らしたら大変なことになります(笑)。クラブ営業時でも半分くらいでちょうどいい感じですね。
今村 それで一昨年の暮れ、お店の方がクラブ営業だけでなく、ライブ・ハウスとしての営業にも力を入れていきたいということで、僕らが関わるようになったんです。
西本 オープン当初は、ここでライブをやることはあまり想定していなかったんです。しかしライブ・ハウスとしての需要も高いことが分かったので、昨年の9月からライブ・ハウスとしても本格的に営業を行うようになりました。しかしライブ・ハウスとして営業するとなると、地元に信頼してサポートしてもらえる人が必要になる。それで今村さんと岩崎さんに関わっていただくようになったんです。
PS ライブ・ハウスとして本格的に営業するにあたって、仮設のライブ・サウンド・システムを新たに導入されたそうですね。
岩崎 はい。「Dynacord Cobra」もあるんですが、ドラムがいるバンドではステージを前に拡張しなければならないので、やはりライブ用のスピーカーは別に必要だろうと。仮設のスピーカー、モニター、コンソール、楽器一式を新規に導入しました。
今村 スピーカーは「JBL SRX835P Powered」とサブ・ウーファーの「JBL SRX828SP Powered」の組み合わせを導入しました。ライブ時はこれを1分の2で、ステージ・サイドに組んでいる感じですね。
岩崎 「JBL」の「SRX」シリーズを選定したのは、音の良さもそうですが、コスト・パフォーマンスが高く、消費電力が少ない点がポイントになりました。本格的にライブ・ハウス営業するにあたって、一応電源の追加工事を行なったのですが、「SRX」シリーズであればこれまでの壁のコンセントでも使うことができるんです。あとは仮設で使うスピーカーなので、比較的軽量なところも気に入りました。頑張れば一人でもセッティングすることができる。コンパクトですが、パワー的にも十分ですね。
今村 クラブ営業のある金曜日と土曜日にライブ・イベントを入れるとなると、短時間で機材をバラさなければならない。収納スペースにも限りがありますから、なるべくコンパクトでシンプルなシステムを入れようと考えたんです。
岩崎 加えて、4階部分をフォローする意味で、「Electro-Voice S-40B」も8発取り付けてあります。モニター・スピーカーは同じ「Electro-Voice」の「TX1122」を4発導入し、クラブ営業のときにサイドで使っている「Dynacord D15-3」もフットとサイドで使い回してますね。
ライブ・システムの中核ローランド M-5000C
PS ライブ用の仮設コンソールとして、「ローランド」の「M-5000C」が導入されていますね。
岩崎 仮設用システムに関しては昨年の1月くらいから本格的なプランニングを検討したんですが、毎年2月に福岡で開催されている『九州プロライティング&プロサウンドフェア』で「M-5000C」に実際に触れて、欲しいと思っていた機能が一通り備わっていることが分かったので導入を決めました。「M-5000C」ならば、常設の「M-200i」と「S-1608」とREACで連携できるというのも決め手になりましたね。それと「ローランド」さんは福岡に事務所があり、サポート力を感じたのもポイントになりました。
今村 「グランドミラージュ」では、施設全体で「ローランド」のビデオ・スイッチャー「V-1HD」を4台導入していて、例えばここで撮影したものを1階のカフェ・レストランに映せるようになっているんです。なので新しいコンソールも「ローランド」のものを選定すれば、音の機材と映像機材の両方をサポートしていただけるのではないかと。
PS 「M-5000C」のシステム構成についておしえてください。
岩崎 入出力ユニットは「Digital Snake S-2416」1台で、ステージ袖に置いて使用しています。既に「S-1608」を持っていたので、合わせて40ch入力あれば十分だろうと。それとREACマージャー・ユニットの「S-4000M」も導入しました。
PS 「M-5000」ではなく、コンパクトな「M-5000C」を選定されたのは?
岩崎 「ローランド」さんから機能は同じと聞いたので、それだったら仮設のコンソールですし、コンパクトな方がいいだろうという判断です。
今村 僕はフェーダーがずらっと並んでいるコンソールよりも、コンパクトなものの方が好きなんです。
PS REAC回線はどこを這わせているのですか?
岩崎 「M-5000C」を導入するにあたり、工事をしてREAC回線のパッチ盤を作りました。パッチは将来の冗長化に備えて、2回線作ってあります。
PS 実際に現場で使用されて、「M-5000C」はいかがですか?
岩崎 一番感じるのは操作性の良さですね。スイッチがたくさん備わっているので、ページを捲って奥に入っていくのではなく、直感的に操作することができる。慣れてきたら、もの凄くスピーディーに操作できるようになりました。それとフェーダーの機能を8本単位でアイソレートできるのが良いですね。僕の場合、左側の8本はインプット、右側の8本はアウトプット、そして4本のアサイナブル・フェーダーにはリバーブやボーカルなどを固定しています。アサイナブル・フェーダーの上のユーザー・アサイナブル・セクションも便利で、ディレイ・タイムやエフェクトのパラメーターを常に表に出しておけるのは便利。タッチ・スクリーンも大きくて使いやすいですし、視認性も凄く良いです。
PS 音質に関してはいかがですか?
岩崎 ここは音がかなり響く難しい空間なのですが、「M-5000C」の素直で色付けのない音質に助けられています。内蔵エフェクトも良くて、インプットのコンプレッサーで音を固めて、響く空間の中で声をできるだけ埋もれないようにしていますね。
PS 「M-5000C」は、内部の構成を最大128chの範囲で自由に定義できるのが特徴ですが、普段のライブではどのような構成で使用していますか?
岩崎 アウトはモニター用に8系統、4階のスピーカーへの送り、ステージ袖の照明への送りで、10系統くらい割り当てています。インプットは「S-2416」の全チャンネルと、CDプレーヤーなどを接続している本体内蔵入力を合わせて32chくらい割り当ててますね。現場では、プランを組んだ後にモノで考えていた回線がステレオになったり、コーラスが一人増えたりといったことがよくありますが、「M-5000C」ならば臨機応変に対応できる。モノのチャンネルを、フェーダー1本のままステレオ化することもできますし、内部構成を自由に定義できるというのは本当に便利ですね。
PS iPad用コントロール・アプリ「M-5000 Remote」や、パソコン用コントロール・ソフト「M-5000 RCS」は活用されていますか?
岩崎 両方とも使っています。iPadのアプリは、ステージ側でチューニングしたいときに便利ですね。ライブが始まった後は、iPadを「M-5000C」の左上に置いて、レベル・メーターとして使用しています。パソコン用コントロール・ソフトの「M-5000 RCS」も便利で、「M-5000C」が無い環境でもほぼ卓と同じことができるのが凄いですね。当日のミックスを事前にシミュレートして、それをそのまま反映することができます。
PS こういうゴージャスな雰囲気のハコは他には無いでしょうし、今後はライブ・ハウスとしても人気を集めそうですね。
今村 そうですね。最近はこのくらいのキャパシティーのハコは、アイドルのライブで使われることも多く、特にここ福岡はご当地アイドルが多いんですよ。なので、そっちの方々からも注目されています(笑)。
西本 ガラス張りのハコなので、最初は生バンドのときの音が不安だったんですが、実際に聴いてみると上手くまとまっているので安心しています。今後はクラブ営業とライブ・ハウス営業をちょうどいいバランスでやっていきたいと思っています。
PS 本日はお忙しい中、ありがとうございました。
取材協力:グランドミラージュ、スペースファクトリー、合同会社ハーベイ、ローランド株式会社
グランドミラージュ
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