クルマ購入時に搭載されている標準装備やメーカーオプション、ディーラーオプションのカーオーディオ、いわゆる「車両純正オーディオ」を実車で体験。本稿では純正カーオーディオのシステム概要やサウンドについてレビューする。
文=長谷川 圭
SKYACTIV-D搭載MAZDA3
12スピーカーBOSEサウンドシステムが本領を発揮
マツダが新たなプラットフォームの新時代商品としてリリースしたMAZDA3。全車標準装備のオーディオ「マツダ・ハーモニック・アコースティックス(MAZDA HARMONIC ACOUSTICS)」については別稿にてご紹介しているが、今回はメーカーオプションのBOSEサウンドシステム搭載車両を試聴することが叶った。車両はハッチバックタイプのFASTBACKである。
レビューする車両は、FASTBACK、ディーゼルエンジンのSKYACYIV-D 1.8をパワートレインとして搭載する。グレードはXD Burgundy Selectionだ。ボディカラーのポリメタルグレーメタリックおよびインテリアのパーフォレーションレザー・レッドはFASTBACKだけの専用色となる。車両本体価格は¥2,767,778(税別)だ。
BOSEサウンドシステムは、センタースピーカーとフロント3ウェイスピーカー、リアスピーカー、リアサテライトスピーカー、ベースモジュール(サブウーファー)という構成で、合計12本のスピーカーが配されている。専用のデジタルシグナルプロセッサーとパワーアンプで音楽信号を処理、増幅する。このボーズのシステムは1.5Lガソリンエンジン車をのぞくグレードでチョイスすることが可能だ。オプション価格は¥75,000(税別)。
標準装備の「マツダ・ハーモニック・アコースティックス」は、車両構造そのものにかかわる仕様であるため、ボーズのシステムはこの標準仕様も含めて開発に携わっているのだろう。ボーズが車種専用に開発するカーオーディオシステムの場合、多くは車両設計段階から参画するため、MAZDA3においても同様のアプローチであると考えられる。「マツダ・ハーモニック・アコースティックス」の静粛性は見事に効果を発揮しており、街乗りではディーゼルエンジンだというのにさほど気にならず走ることができる。そして、そこにボーズサウンド、メリハリの利いたビートや車室内を充たすアンビエンスなど、期待を裏切らないパフォーマンスを聴かせる。
MAZDA3 FASTBACKは、ダッシュボード中央に80mmセンタースピーカー、フロント3ウェイは左右セールガーニッシュに25mmトゥイーター、左右ドアに80mmミッドレンジ、左右カウルサイドに120mmボックスつきウーファー、左右リアドアに80mmミッドレンジ、左右Cピラートリムに80mmサテライトスピーカー、トランクフロア下にサブウーファーをレイアウトしている。セダンタイプの場合このうちのサテライトスピーカーとサブウーファーがリアパッケージトレイに配置される。ボーズでは、カウルサイドのウーファーとトランクのベースユニットによる低音再生をBassMatchテクノロジーと呼んでいる。
ディーゼルだから使いたいBOSE AUDIOPILOT2
どの速度域でも変わらない音楽体験が得られる
ボーズのシステムが聴かせる音は、端的に言えばボーズらしい完成された音といえる。特に独自のアプローチで生み出される低音は、ボーズならではの特長のひとつ。トランクルームのフロア下に設置されるサブウーファーユニットは、音楽に豊かな量感を与えてくれる。低音から高音まで、バランスよく奏でられ、しかもDSP機能のひとつであるBOSE AUDIOPILOT 2は、走行中に目まぐるしく変化するノイズに応じて、自動的に音質をチューニングし即座に最適な再生音を創り出してくる。そのため、本車のようなディーゼルエンジン搭載の場合、速度が上がったときでも盛大なノイズでオーディオの再生音が損なわれることなく聴くことができる。ひとたび高速道路に足を踏み入れたり、トンネルに突入したりというシーンでは、これほどありがたい装備はないと感じる。
個人的な感想として、トーンコントロールはデフォルトのままで問題なし。ただ人によって若干音色の変化を求めたい場合には活用してみてもいいと思う。ボーズのシステムでは、イコライザー機能は入っていないのだが、実車を聴く限り必要ないと感じた。フェーダー/バランスについても、触る必要はなさそうである。リスニングポジションは運転席/全席の選択ができるが、BOSEステレオモードで「リニア」を選ぶなら、どちらをチョイスしてもいいだろう。同乗者がいたりいなかったりが頻繁に変わるようなら全席固定でいいかもしれない。ドライバー1人が多いならば、ステレオモードをスタンダードにし、ポジションを運転席で聴くのがベターだと感じた。
ボーズシステムならではの機能が、BOSEステレオモード、BOSE Centerpoint 2、そして先述したBOSE AUDIOPILOT 2である。BOSEステレオモードは、「リニア」がいわゆる一般的なステレオ再生で、「スタンダード」ではリアサテライトを活用したリアフィルサウンド付加状態とし、包まれるようなサウンドステージや豊かな響きを楽しむことができるようになる。ステレオモードの選択は好みによるだろう。BOSE Centerpointは、ステレオモードのスタンダード状態での響きの豊かさを調整できる機能。これは好みが別れるところ、豊かすぎる響きは大げさだし、全くないのもこの機能を付加した音を聴いた後だと物足りなさを憶えるかもしれない。1〜2を好みに合わせて使うのがよさそうだ。
BOSE AUDIOPILOT 2の効果は、改めて言うがディーゼル車ではぜひ装備しておきたいと思わせるほど。機能の作用は、車内のマイクで常にノイズをモニターし、ノイズに応じた音質調整を自動的に行い音を出力する。自動調整は、搭載されているDSPの自動演算によるのだが、この演算速度が速く、マイクで感知→DSP自動演算→出力という工程を経ているとは思えないのだ。厳密に聴けば、たとえばトンネルに入った瞬間にほんのわずかだが音量が上がるタイミングに気付く事がある程度。そのため徐々にスピードが上がり、エンジン音が大きくなっていくような状況では、BOSE AUDIOPILOT 2が機能していることに気付けないだろう。なんとも優秀な機能だ。
CD、Bluetooth、メモリーと
どのメディアも同じように楽しめる
ボーズ独自の技術による効果は、調整機能にとどまっていないようで、マツダコネクトで再生できるメディアのいずれも音質差をあまり感じない。CDやUSBメモリーで聴くことができる非圧縮のデジタル音源と、スマホのアプリを使った定額制音楽配信サービスといった圧縮音源では、明らかな音質差を感じるのが普通なのだが、本車では同等とまでは言わないが圧縮音源が非圧縮音源に明らかに劣るようなことはなく、充分にいい音として楽しむことができるのだ。これはボーズの情報補完技術「SoundTrueエンハンスメントテクノロジー」の効果だろう。
CDライブラリーを持たないドライバーでも音楽配信サービスを、日常的にワイヤレスイヤホンで音楽を聴く習慣がある同乗者ならBluetoothオーディオを存分に楽しむことができる。
ドライバーがスマートフォンでアプリを使った音楽再生をするなら、Apple CarPlayやAndroid Autoの機能をお勧めする。車両のUSB端子にケーブルで接続する必要があるが、充電できるのはもちろんだが小さな画面を操作する必要が無くなるため、安全に運転できる。USB端子は、DVD/CD用のディスクローディングスロットの横と、シート間のグローブボックス内に設置されるので、運転中にスマホに触れないよう、ドライバーはグローブボックス内にスマホを収納するのがよさそうである。電話として使用する場合も、ハンズフリー通話が可能なので安全に便利を堪能できるだろう。
ボーズのシステムならではを体感してみると、オプション購入のコストはかなり安いと感じる。なにより本車専用にチューニングされていることを考えると、同じような音を享受しようと市販のカーオーディオコンポーネントを導入した場合、とても¥75,000で済ませるわけにはいかないはずだ。独自の機能装備も考えると、お得な買い物であることは間違いない。
<photo : Kei Hasegawa>