日活調布撮影所は、昨年9月にポストプロダクションセンターのリニューアルを実施、新たにスタジオセンター棟としての運用をスタートした。それに合わせてプレス向け内覧会が開催された。

 今回は、Dolby Atmos Home(ドルビーアトモス ホーム)9.1.6対応MAルーム、フォーリーステージ、アフレコルーム(Automated Dialogue Replacement)の3部屋についてリニューアルが行われている。これはポストプロダクションセンター北側の半分にあたるそうで、建屋内の大規模な部屋割りの変更も含まれる本格工事となっている。

画像1: 日活調布撮影所がポストプロダクションセンターをリニューアル。新たにドルビーアトモス ホーム9.1.6対応MAルームの運用を開始

 まず今回のリニューアルについて、撮影所事業部 スタジオセンターチーム テクニカルマネージャーの田中修一氏から説明があった。

 「日活撮影所として、2024年から3ヵ年リニューアル計画を進めています。その一環としてスタジオセンター棟の中に、新たにドルビーアトモス ホーム9.1.6 対応MAルーム、フォーリーステージを作りました。今日は皆様にその詳細をご覧いただければと思っております」(田中氏)

 続いてスタジオ営業部 部長 兼 ポストプロダクションチーム リーダーの松本 智氏からリニューアルの狙いが紹介された。

 「この撮影所は竣工から70年を経た建物になります。昨年から、新たなステージに生まれ変わるべきだということで、営業部隊を含めて新しいことに取り組んでおります」(松本氏)

画像: 食堂スペースには、歴代の名優の手形も飾られている

食堂スペースには、歴代の名優の手形も飾られている

 最初に拝見したのは、ドルビーアトモス ホーム9.1.6対応MAルームだ。もともとスタジオセンターの建物自体はひとつの大きなホールで、オーケストラの収録もできるほどの空間だったという。その後、時代とともに内部をダビングステージやアフレコスタジオといった形に細分化して使われていたそうだ。今回のMAルームは以前アフレコスタジオだった場所をリニューアルしたという。

 この建物は天井が高いのも特長で、内装を取り払った状態で8m四方という広さがあったそうだ。今回MAルームを作る場合の基本的なコンセプトとして、この広い空間を最大限活かしたいと考えた。内装は日本音響エンジニアリングに依頼したそうだが、その際にも天井の高さを残した、広さのあるスタジオにしたいとオーダーしたとのことだ。

画像: ドルビーアトモス ホーム9.1.6対応のMAルーム。フロント側の壁にはフロントL/C/Rとワイドスピーカーが埋め込まれている

ドルビーアトモス ホーム9.1.6対応のMAルーム。フロント側の壁にはフロントL/C/Rとワイドスピーカーが埋め込まれている

画像: こちらがリアサイド。サイドとリアスピーカーは壁に沿って作られた台に置かれている

こちらがリアサイド。サイドとリアスピーカーは壁に沿って作られた台に置かれている

 この空間に9.1.6用のスピーカーが設置されているが、特筆すべきはそれらのスピーカーがすべて3.2mの等距離に置かれていることだ。ドルビーアトモスのトップ(天井)スピーカーについては、多くのスタジオでは天井の高さの関係からフロアースピーカーよりも近い位置に置いて、デジタルディレイを使って調整することが多いが、この部屋では天井高があったのでそんな必要もなく、物理的に等距離での設置が実現できているわけだ。

 使われているスピーカーはPMCの業務用モデルで、フロントL/C/Rが「8-1 XBD」で、ワイドスピーカーは「8-2」となっている。サイド/リアスピーカーは同じくPMCの「6-2」で、トップスピーカーは「6-1」が6本設置されている。サブウーファーは「8-2 SUB」が4基という構成だ。当初はサブウーファーは2基の予定だったそうだが、空間が広いこともあって4本構成に変更されたという。

 なおPMCを選んだ理由については、この試聴距離でもきちんと音圧を稼げる点が大きかったそうだ。特に低域のスピード感が評価されたそうで、これは低音のスピード感が高まることで、ミッドとハイの一体感が強くなって、よりダイレクトさが感じられるからだという。

画像: 天井は擂鉢状に盛り上がっており、そこに様々な角度の拡散板も設置されている。トップスピーカーはL/Rそれぞれに3基、合計6基が取り付けられている(写真は正面に向かって左側)

天井は擂鉢状に盛り上がっており、そこに様々な角度の拡散板も設置されている。トップスピーカーはL/Rそれぞれに3基、合計6基が取り付けられている(写真は正面に向かって左側)

画像: トップスピーカーからの音がディスプレイで反射してしまうので、ツイーターの前に棒状のディフューザーを設置した。これによって、余計な反射を抑えつつ、ミキサー位置ではきちんとした定位が実現できたとのこと

トップスピーカーからの音がディスプレイで反射してしまうので、ツイーターの前に棒状のディフューザーを設置した。これによって、余計な反射を抑えつつ、ミキサー位置ではきちんとした定位が実現できたとのこと

 フロントL/C/Rの上側には、ソニーの100インチモニターが取り付けられ、その両脇にサブディスプレイがふたつ並んでいる。サブディスプレイには操作中のPC画面も表示できるので、中央のディスプレイで映像を見ながら、PROTOOLSなどの画面も把握できる仕組みだ。

 もうひとつスピーカーの使いこなしとして特長的なのが、トップスピーカーのツイーターの前に棒状のディフューザーが取り付けられていることだろう。一見すると音の邪魔をしそうだが、実はこれはディスプレイでの音の反射を抑えるための工夫だそうだ。

 というもの、100インチディスプレイがフロントL/C/Rスピーカーと同じ方向にあるため、トップスピーカーからの音が反射してしまい、定位があいまいになってしまったという。そこで、ツイーターとディスプレイの直線軸上にディフューザーを配置し、ツイーターの音を拡散させることで反射を抑えている。一方でリスニングポイントにはツイーター からの音がダイレクトに届くようになっているので、音の定位は保たれるという。

画像: サブウーファーはフロントL/C/Rの間にそれぞれ2基、合計4基(ウーファーユニットは合計8つ)埋め込まれている。センタースピーカーの右側に見えるスリット状の部分が左右のバランスを取るための調音パーツだ

サブウーファーはフロントL/C/Rの間にそれぞれ2基、合計4基(ウーファーユニットは合計8つ)埋め込まれている。センタースピーカーの右側に見えるスリット状の部分が左右のバランスを取るための調音パーツだ

 なおPMC 8-1にはセンター用スピーカーがラインナップされていないため、今回はLチャンネル用のスピーカーを使っている。そのためツイーターが中央、その左側にウーファーが並んでいる。つまりツイーターの左右で壁の状態に違いがあるわけで、このためL/Rスピーカーでステレオ音源を再生した際にセンター定位がやや甘く感じられることがあったという。そこで今回はセンタースピーカーの右側壁面に調音パネルを設置、壁の状態を揃えることで定位感の改善を図っている。

 スピーカーのインストールについても、最初に設置した時は低音が強過ぎたため、一旦壁面を取り外して壁の裏に円錐状の柱を追加したり、吸音特性をもたせるといった加工を行った。これによって、スピーカーの持ち味を残したままでミックス作業に適した環境を実現している。なお部屋の壁は対向面で反射(フラッター)が起きないように2度ほどの傾斜を持たせ、天井も擂鉢状に設計されている。

画像2: 日活調布撮影所がポストプロダクションセンターをリニューアル。新たにドルビーアトモス ホーム9.1.6対応MAルームの運用を開始
画像: コンソール卓にはアビットのS6が採用されている。マシンルームには4台のPro Toolsとドルビーアトモス用の5台のPCなどが並んでいる

コンソール卓にはアビットのS6が採用されている。マシンルームには4台のPro Toolsとドルビーアトモス用の5台のPCなどが並んでいる

 このように、いい音をつくるための工夫が満載されたMAルームだが、ミックス作業は今のところ5.1chが中心で、具体的なドルビーアトモスのミックスはこれからになる模様だ。そこについては、今までのMAルームルームでは映画やドラマの制作を主な業務としていたが、今後は音楽作品のミックスやライブのパッケージといったジャンルにもアプローチしていきたいとのことだ。というのも、最近の傾向として日本映画や配信のドラマ作品よりも音楽作品の方がドルビーアトモスに積極的だそうで、それもあってジャンルを広げていきたいという狙いにつながったのだろう。

画像3: 日活調布撮影所がポストプロダクションセンターをリニューアル。新たにドルビーアトモス ホーム9.1.6対応MAルームの運用を開始
画像: リニューアルされたフォーリーステージ。様々な環境での生音を再現できるように、床材から小物まで多くのアイテムが準備されている

リニューアルされたフォーリーステージ。様々な環境での生音を再現できるように、床材から小物まで多くのアイテムが準備されている

 続いて同じくリニューアルされたフォーリーステージも拝見した。フォーリーとはいわゆる生音のことで、ここでは作品の中での足音やドアの開閉音、あるいは着替えシーンの衣擦れの音などを収録している。

 新しいフォーリーステージは、大きく屋外エリアと居住エリアに分けられている。屋外エリアには土やコンクリート、アスファルトなどの表面が異なる床面が用意され、それぞれの足音が録音可能だ。住居エリアにもフローリングやカーペットがあり、さらに床下の詰め物を調整することで足音のトーンが変えられるなど、細かな配慮もなされている。他にも様々な種類のドアが用意され、作品に応じてドアを交換して開閉音を再現できる他、台所やお風呂場などの水回り施設も設置されている。

 フォーリーの録音では音を発するための小物が多数必要で、映画スタジオでもそのために様々なストックを準備している。今回もスタジオ内の一室が倉庫に当てられているそうだ。担当者氏は「どんなものでも音を出すために使えますので、この部屋にはゴミになるものはないくらいです」と話していた。

画像: ナレーションの収録もできるアフレコブースも完備

ナレーションの収録もできるアフレコブースも完備

 アフレコルームも天井が高く、開放感のある空間で収録が可能になっている。ここでは吹き替え用の音声だけでなく、ナレーションなどの収録も可能。アフレコ用コントロールルームはMAルームと連携しており、それぞれの信号をPro Toolsで受け取ることができるようになっている。

 今回のリニューアルに伴い、日活調布撮影所のMAルームはドルビーアトモス ホーム用としては国内最大級のサイズと機能を備えた空間に生まれ変わっている。ここからどんな魅力的なドルビーアトモス作品が登場するのか、ホームシアターファンとして、楽しみに待ちたい。

画像4: 日活調布撮影所がポストプロダクションセンターをリニューアル。新たにドルビーアトモス ホーム9.1.6対応MAルームの運用を開始
画像: 日活調布撮影所には、映画作品用の7.1チャンネルダビングステージも用意されている。こちらはJBLのスピーカーシステムで、コンソール卓にはAMS Neve DFC Geminiが使われている

日活調布撮影所には、映画作品用の7.1チャンネルダビングステージも用意されている。こちらはJBLのスピーカーシステムで、コンソール卓にはAMS Neve DFC Geminiが使われている

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