総毛立つ快感。
2002年、ロサンゼルスのTCLチャイニーズ・シアターで開催された第2回スクリームフェスト・ホラー映画祭で、みごと外国語映画賞を受賞。翌年1月、日本でもヒットを飛ばし、さらには世界を絶叫させ続けたJホラーの代表作である。2000年に東映ビデオから発売された東映Vシネマ版がオリジンとなるが、レンタルビデオを鑑賞した人たちの口コミで評判が拡大、映画化が実現した経緯がある(セル版は不人気であった)。本作のヒットによって続編やスピンオフが製作され、海外でもサム・ライミ製作によるハリウッド・リメイク版が製作されている。
監督はハリウッド・リメイクでも監督を務めた清水崇。劇映画監督デビュー作『富江 re-birth』に続く監督第2作であり、監修として黒沢清監督と『リング』の脚本家である高橋洋がサポート。本作における清水演出は『リング』の中田秀夫と並んで高い評価を受けており、UHD BLU-RAYやBLU-RAYの海外セールスも好調である。英・米に拠点を置くアロー・ビデオは、彼らのホラー作品のUHD BLU-RAY化に熱心なレーベルであり、中田監督作『リング』は昨年9月にリリースされて予想以上の売り上げとなった。また『仄暗い水の底から』も3月にリリースされる予定となっている。
目に見えない脅威を織り交ぜた『リング』は、恐ろしいクライマックスに向けてゆっくりと構築されるパワフルなストーリーを特徴としていた。だが『呪怨』は伝統的なプロット構造を避け、新しい登場人物がそれぞれの悪霊と接触するたび、視点を変えるエピソード的なアプローチを採用している。明確に特定された主人公がいないため、映画では人物描写やバックストーリーにほとんど時間を割くことはない。上映時間のほぼすべて、彼らを破滅させる呪いの演出に費やされている。多くのホラー映画と異なり、別次元でこの映画を楽しませてくれる理由のひとつだ。(映画評論家スティーヴ・ビオドロフスキー)
本作も2022年12月、アロー・ビデオから『JU-ON: THE GRUDGE COLLECTION』として英国版がリリース。同コレクションにはVシネマ版『呪怨』(1999)『呪怨2』(2000)劇場版第2作『呪怨2』(2003)劇場版第3作『呪怨 白い老女』(2009)劇場版第4作『呪怨 黒い少女』(2009)が同梱されているが、いずれもリージョンBコード・ロックのBLU-RAYであった。売れ行きも好調ということだが、なにぶん価格が高価であるため、本作の単品販売を希望する声が多く寄せられたという。そして今年1月、ユーザーの声を反映したかのように、本作が単品販売される運びとなったのである。
35mmオリジナルカメラネガを東京現像所が4K/16ビット解像度でスキャニング。4K画像ファイルデータはアロー・ビデオに提供され、ロンドンの現像施設シルバーソルト・レストレーションが、デジタルレストレーション、HDRグレード(HDR10とドルビービジョン)を行っている。KADOKAWAによってリマスタリングされた5.1chトラックの整音・修復は、UKアロー・フィルムが担当。1.85:1アスペクト。3層100Gb仕様。映像平均転送レートはハイレート94Mbpsを記録(内ドルビービジョンは78Kbps)。音声平均転送レートは3.4Mbpsとなっている。なおBLU-RAY版は同梱されない。
高解像や先鋭感を狙った映画ではないが、安定して落ち着いた画力を披露。BLU-RAY版との比較では説得力のある精細感の改善を楽しめる。いくぶん重層度が増した粒子感(ブリーチバイパス・ショットは粗く増幅)。高レベルでのディテイルとテクスチャの描画力。被写体の輪郭線にみる滑沢性、広角レンズによる深度操演の再現も優秀だ。非アナモフィック撮影であること、またほとんどの怪奇場面で光学処理が施されていないことで、画質品位は一貫性があるものになっている。
撮影の喜久村徳章、照明の豊見山明長がローキーな明暗法に拘っているため、HDRによるあからさまなコントラストやハイライトを避けており、余剰を残した明部と暗部のバランスや量感は好感の持てる仕上がりとなっている。黒レベルは引き込みがいくぶん早いながらも深みを増し、低照度ショットや陰影暗部の視認度も高められており、恐怖を層倍なものにしている。誰も目にも明らかなのはHDR/WCG(広色域)による色彩再現力の強化だ。植生の緑、血液などの赤、伽椰子や俊雄の青白いメイク、さらに二次色や暗色がはるかに深みのある豊かなものとなっている。
清水が描いた恐怖世界では、伽椰子や俊雄はどこからでも攻撃できる存在となっている。それはベッドに横たわっているときや、シャワーを浴びているときといった、人間の日常生活の中でもっとも脆弱な瞬間を利用することになる。だが清水は、音によるジャンプスケアの使用によって、恐ろしい瞬間を強調することを可能な限り避けている。伽椰子が発する、あの忌まわしく呪われた声以外は。(音響エンジニア ポール・N・J・オットソン/米リメイク『JUON/呪怨』の音響デザイナー/『ハート・ロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティ』でオスカー受賞
録音は『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』の小松将人、音響効果を柴崎憲治と北田雅也(いずれも株式会社アルカブース)が担当する。フロントステージ重視の音づくりであり、凝った質感を有したサウンドトラックではないものの、整音・修復の恩恵は随所で聴取でき(音響効果の追加はない)発声は一貫して適切な明瞭度を保ち、歯擦音に悩ませられることもない。サラウンド効果は環境音の環周に明快。ライトモチーフである伽椰子の声は後方か放たれることが多く、衝撃的な映像と相まって恐怖度を押し上げている。LFEは抑制されるが、ショック場面では十分な働き。アンビエントに長けた佐藤史朗のスコアは、高い浸透力で恐怖空間を満たす。クライマックス、ヴァイオリンのピッツィカートがひどく緊張を強いる。アップミックス再生推薦。
UHD PICTURE - 4/5 SOUND - 4/5
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