生き残るのは ただひとり・・・
世界中の鼓動を止めた《ふたつの顔》のドラマ
1986年、香港映画界に新たな映画ジャンルが誕生した。日本では「香港ノワール」と呼ばれる暗黒街映画「英雄片」である。登場するキャラクターの英雄的行動を描いたアクションであり、その萌芽となったのがジョン・ウー監督作『狼たちの挽歌』であった。香港で爆発的メガヒットを記録、その人気はアジア全土に広がり、次々と亜流作品が製作された。さらに89年『狼/男たちの挽歌・最終章』が全米公開されると、香港ノワールの影響はハリウッドにも飛び火する。
いよいよ93年、アメリカに招かれたウーは『ハード・ターゲット』(キーノ・ローバーUHD BLU-RAY有り)でハリウッド映画界にデビュー。続く96年『ブロークン・アロー』は、アジア人監督がハリウッド・メジャースタジオで演出した最初のビッグバジェット作品として注目を集め、興行的にも大成功を収めた。そして本作は『ブロークン・アロー』を上回るメガヒットを記録(1997年全米興行成績第8位)、ハリウッドでもっとも成功したアジア人監督となったのである。
映画製作者たちは暴力を表現するために、信じられないような映像言語を考え出してきた。たとえば、ジョン・ウーが『男たちの挽歌』や『フェイス/オフ』でやっているようなことだ。彼の映画にみる、ある種のハイパーバイオレンスが素晴らしく、暴力的なイメージを別のレベルに押し上げている。彼が作り出した暴力のバレエを『マトリックス』でやろうとした。(監督ラリー・ウォシャウスキー/現ラナ・ウォシャウスキー)
主演はジョン・トラヴォルタとニコラス・ケイジ。FBI捜査官のショーン・アーチャー(トラヴォルタ)は、凶悪なテロリスト、キャスター・トロイ(ケイジ)を大捕物の末に逮捕した。ところが逮捕前にトロイがLAを壊滅させるほどの細菌爆弾を仕掛けていたことが判明する。トロイは昏睡状態に陥っており、唯一の情報源は刑務所に収監されているトロイの弟ポラックスだけであった。焦るFBIはアーチャーに極秘命令を下す。それはトロイの顔を移植して彼に成りすまし、ポラックスに接近して爆弾の在処を聞き出すというものであった。一方、昏睡状態にあったトロイは・・・・。
脚本執筆で影響を受けたのは ラオール・ウォルシュの『白熱』(1949)だ。ベルイマンの『仮面/ペルソナ』(1966)の影響も受けている。完成した脚本はワーナーとジョエル・シルバーが買い取ったのだが、企画がなかなか進行せず、94年にパラマウントが買い取り、ロブ・コーエンの監督作として企画された。だがコーエンは『ドラゴンハート』の監督に決まり、スタジオはジョン・ウーに監督を依頼した。予算が大きく(最終8000万)そのためスタジオの意向も強く、脚本を何度も書き直すことになった。ウーの演出にも多くの制約があったが、彼はとても上手くやったと思う。(脚本家マイク・ワーブ)
撮影は『U-571』のオリヴァー・ウッド。パナビジョン・パナフレックスほか35mmアナモフィック撮影。35mmオリジナルカメラネガからの最新4Kデジタルレストア。同梱BLU-RAYも4Kマスターが使用されている。修復とHDR/SDRグレードはパラマウントとUCLAフィルム&テレビジョン・アーカイヴが担当。映像平均転送レートは67.5Mbps(HDR10)16.4Mbps(ドルビービジョン)を記録。これまでディズニー/ブエナビスタBLU-RAY(同・国内版)と再発パラマウントBLU-RAYがリリースされているが、とりわけVC1圧縮の前者との比較では大幅な画質改善を視認できる。
BLU-RAY版は過度なDNRが施されているため、ディテイルの大幅な損失、蝋状のスキントーンが目立ち、大顔絵も不自然に柔らかいものとなっていた。エッジ強調による弊害も全編に渡る。本盤では霧散していたフィルム粒子が見事に再現され、デイライトショットと低照度ショットでわずかに変動するものの、規律正しい粒子感を再現しているのが嬉しい。アナモフィックレンズならでは特徴も再現されており、映画通であるならばレンズ仕様も容易に言い当てるに違いない。
ディテイルとテクスチャの明瞭度は層倍なものとなり、カラーパレットはより微妙な色合いを露わにしている。コントラストと黒レベルが目覚ましく、活劇ショットにみるマズルフラッシュや爆発に力感と激しさを加えている。セルジオ・レオーネを思わせる大顔絵は迫真性を増し、極めて魅力的。十八番のハイスピード撮影ショットも破綻がなく、編集の躍動がより伝播する。後半、わずかに赤味が強いショットを視認できるが、映画の集中を欠くものではない。
オスカー音響編集編集賞にノミネートされた音響エンジニアは『ブレイブハート』ほか3度のオスカーに輝くパー・ホールバーグ、『ジョン・ウィック』シリーズのマーク・P・ストーキンジャー。国内版には16ビットのリニアPCM5.1トラック、パラマウント版にはDTS 6.1ESトラックとドルビーデジタル5.1EXトラックが収録されていたが、本盤のサウンドトラックではパラマウント・デジタル・ポストサービスが5.1chリマスターを行っている。
前述5.1chトラックと2.0トラックを収録。視聴は前者で。映像の躍動を増幅する強烈でダイナミックなシネソニック。興奮の渦に巻き込む聴覚スペクタクルが披露されるが、分解能と明瞭度が高められており、重要なダイアローグの損失やチャンネルブリードに悩まされることはない。厚みを増したミッドレンジとローエンドは聴きどころのひとつ。計算し尽くされた効果音配置と移動。カンフー感覚の効果音操演は、アクションを音で振り付けるような楽しさに溢れている。ド派手なサラウンドは、実は精巧精緻。なかでも銃声と跳弾への偏愛を感じさせる銃撃パフォーマンスは必聴。ドルビーアトモスもDTS:Xも採用されてはいないが、音彩没入度は極めて高い。アップミックス再生特薦。
作曲の依頼はメディア・ベンチャーズ(現リモート・コントロール)が受けたが、プロデューサーたちはハンス(ジマー)を求めていた。『ブロークン・アロー』で仕事をしたことがあり、ジョン(ウー)も彼の楽曲を気に入っていたからだ。だがハンスのスケジュールがいっぱいで、彼と多くの仕事をしていた私が代役を務めることになった。それまでハンスが作った曲調から外れないようにしながら、自分の個性を詰め込んでいく。この方法は(ジマーが師事していた)スタンリー・マイヤーズのやり方なんだ。結局、『フェイス/オフ』は私の実質的な劇映画音楽デビューとなった。(音楽ジョン・パウエル)
UHD PICTURE - 4.5/5 SOUND - 4.5/5
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