歴史を変えた若者達の物語が今始まる・・・。
生か死か ― 限界突破!
90年代に『レッド・オクトーバーを追え!』(1990)『クリムゾン・タイド』(1995)をヒットさせたハリウッドが、21世紀の幕開けと共に放った『U-571』。潜水艦映画に駄作ナシと言われるだけあって、手に汗握りながら楽しめる潜水艦映画の力作であった。主演はオスカー俳優マシュー・マコノヒー。共演にハーヴェイ・カイテル、ビル・パクストン、ジョン・ボン・ジョヴィ。
1942年4月、第二次大戦下の北大西洋。連合軍との戦いで深手を負って停泊中の独軍Uボート571号が、ベルリンへ救援要請を打電した。その存在を知った米海軍は、Uボート艦内に搭載されている暗号解読機エニグマの奪取を計画。極秘任務を命じられた米軍潜水艦S-33は、独軍補給艦を装ってU-571に接近する。ついに敵艦の姿を捉えたS-33。嵐の中、奪取作戦は成功したかに思われたが・・・。
監督は『ブレーキ・ダウン』で注目されたジョナサン・モストウ。作家イアン・フレミングの体験談としても知られるエニグマ奪取作戦を基に、史実を大胆に変更、傑作『ナバロンの要塞』を思わせるハリウッドの伝統的な戦争アドベンチャーに仕上げてみせた。製作は御大ディノ・デ・ラウレンティス。脚本草稿はのちに監督に転身する『フューリー』のデヴィッド・エアー。
歴史的には1941年5月、最初にエニグマを奪取したのは英国海軍だった。その後、15回にわたり奪取に成功している。米国海軍が U-505 と U-744 からエニグマを奪取したのは、1944年後半の2回だけだった。歴史の歪曲と言われても仕方がない。批判は甘んじて受ける。アメリカの観客に向けて架空の歴史を作り出したのだから。私の祖父は第二次世界大戦の将校だった。もし誰かが彼らの功績を歪曲したとしたら、私は個人的に腹を立てるだろう。(脚本家デヴィッド・エアー)
撮影はジェイソン・ボーン・シリーズのオリヴァー・ウッド。スーパー35方式/35m球面レンズ撮影。修復プロジェクトはスタジオカナル、ディノ・デ・ラウレンティス・プロダクションズ、ユニバーサル・スタジオが共同で実施。ユニバーサル保管のスーパー35/35mmオリジナルカメラネガを4Kスキャン。4Kデジタルファイルはイタリアのボローニャの名門修復施設リマジネ・リトロヴァータに送られ、4K解像度によるデジタル修復作業/HDRおよびSDRグレードを完了。映像平均転送レートは54.9Mbps(ドルビービジョン12.9Mbps)。エンコードは2層66Gbディスクに行われたため、映像レートは所々で40Mbps前半に抑えられるものの、大部分は60~80Mbpsで動作している。
2008年ユニバーサルBLU-RAY(VC-1圧縮/映像平均転送レート15.7Mbps)から大幅な映像アップデート。2008年版に散見されたDNRの弊害やバンディングノイズからも解放され、鮮明な画像を披露する。一部のシーン(前半のパーティ場面)やCG/VFXショットでわずかに精細感が後退するが、総じて高精細な出来栄え。粒子感は中庸。BLU-RAY画像を見慣れた向きには随分と暗いトーンと思われようが、緊迫感を高める明暗法を再現。深い黒レベルと制御された陰影階調、インパクトのあるハイライトによってバランスの整ったHDR画像が楽しめる。ドルビービジョンの貢献度も高く、開幕バトル時の艦内照明(赤)から明快な表現。リマジネ・リトロヴァータの悪名高い色調(黄味)は影を潜めているが、機雷の爆発光に大きな差異がある。
オスカー音響編集賞に輝いた音響エンジニアは『インデペンデンス・デイ』『42 世界を変えた男』のジョン・ジョンソン。本作は録音賞にもノミネートされており(受賞は『グラディエーター』)『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』ほか3度のオスカーに輝くスティーヴ・マスロウ、『ダンケルク』ほか4度のオスカーに輝くグレッグ・ランデイカー、『ラストエンペラー』でオスカーに輝くアイヴァン・シャーロック、『クリムゾン・タイド』ほかで11度のオスカー候補となったリック・クラインという豪華な顔ぶれがリレコーディングを担当している。
『レッド・オクトーバーを追え!』に始まる90年代以降の潜水艦映画は、精緻を極める音響デザインが魅力のひとつとなっている。近年の『ハンターキラー 潜航せよ』『潜水艦クルスクの生存者たち』『グレイハウンド』など、圧倒的な没入感を約束する。ドルビーアトモス、DTS:Xが採用されなかった点は残念ではあるが、耐えがたい閉所恐怖症と高まる緊張感の音彩演出はただならぬものがある。とりわけアクション・シークエンスのパフォーマンスが素晴らしく、膨大かつ重層的に配置された戦時サウンドに釘づけとなること必至であろう。もちろん、トップスピーカーを使用したアップミックス再生との相性も抜群。アップミックス再生特薦盤の称号を与えたい。
UHD BLU-RAY化にユニバーサルが参加していることから、5.1chトラックは2008年5.1chマスターがリユースされると思われた。比較試聴では多くの類似点を聴取できたが、分解能や明瞭度で上回っているシーンも多い。整音精度の高さは満足いくものだが、ただ重低音の再現に物足りなさを感じる。『U-571』と言えば究極の重低音のデモソフトとして重宝されたもので、かの有名な機雷爆破シーンではおよそ10Hzまでの使用可能なピーク出力があった。ところがUHD BLU-RAYでは30Hz以下の低音域が急激にダウンしてしまう。リミックスの理由は不明だが、これは大きなマイナス点だ。
この映画ではサウンドが大きな要素になることは分かっていた。効果音の物量が膨大で、複雑だった。当初はアンダースコアに徹して、鋼鉄の船体音と完璧に調和して聞こえるような楽曲を書いたのだが、途中でジョナサンやスタジオの意向が変わり、昔ながらの活劇音楽に似た、壮大で英雄的で愛国的なものにしなければならなくなった。本作のために挑戦したかったことはたくさんあったが、『ブレーキ・ダウン』での失敗を繰り返したくなかったし、結果として彼らの判断は正しかったと思う。(音楽リチャード・マーヴィン)
音楽は本作で大抜擢されたリチャード・マーヴィン。モストウ監督作『ブレーキ・ダウン』ではプロデューサーから解雇される憂き目にあったが、ふたたびモストウ作品に参加、それまでの低迷がウソのような期待に応える楽曲を提供している。『エアフォース・ワン』のジェリー・ゴールドスミスの楽曲への傾倒も聴取できるが、愛国心を表現する楽曲創作にマーヴィンが多大な労力を費やしたことは確かであろう。なかでも予期せぬ驚きのひとつは、活劇音楽の熾烈さだ。重く流れの速いオーケストラの不協和音、鋭利で電撃的な金管、絶え間なく響くスネアドラム、低音のピアノの和音、研ぎ澄まされたパーカッションは聴き応えがある。
UHD PICTURE - 4.5/5 SOUND - 4.5/5