国内補聴器メーカー大手のリオンは6月1日、都内で発表会を開き、新製品となる集音機能付きイヤホン型聴覚拡張ヒアラブルウェア「ASMOLA」を発表した。

画像: リオン、手軽に聴こえのサポートができるワイヤレスイヤホンタイプの聴覚拡張デバイス「ASMOLA」のクラファンプロジェクトを実施中

 リオンは、今年で創業79年を迎える老舗企業で、うち75年は補聴器の製造・販売を行なっているという補聴器ブランドとしては歴史と技術、伝統を備えた会社となる。今回発表されたASMOLAは、左右のユニットがつながった、首掛け式のワイヤレスイヤホンのような形状をしているのが特徴で、イヤホンのように手軽に使える集音器タイプの聴覚補助器具となる。

 同社、医療機器事業部の小川氏の説明によると、人の聴力は、一般的には20代後半から少しずつ衰えているといい、自覚のないまま進行が進むことが多いのだとか。難聴には、小さな声の会話が聞き取りづらい=軽度から、かなり大きな声でも聞き取りにくい=重度まで、軽度・中等・高等・難度という4段階の分類があるそうで、日本の難聴者の補聴器の所有率は、わずか15%程度という。また、高等・難度の難聴者においても、所有率は約半分の48%に留まるそうだ。

 そこでリオンでは、補聴器が備えている音空間情報はそのままに、方向認識性を強化するハード的な機能、それを補正するソフト的な機能を実現するアプリを作り、両者が連動するデバイスとして今回、ASMOLAを開発・発表へこぎつけたということだ。購入にはまだまだ障壁が高い補聴器に対して、イヤホンタイプ(集音器タイプ)の製品とすることで、装着のしやすさだけでなく、購入しやすさもクリアできる製品にまとめられており、同社では、本製品を使うことで、「聴こえに問題を抱えている人の生活を豊かにしたい」、としている。

 続いて、ASMOLAの開発について紹介してくれたのは、主任技師の藤坂氏。氏は、2006年にリオンに入社したそうで、それまでは研究所の研究員として働いていた知見を元に、社内で有志を募り、両耳で使うデバイス用の信号処理の研究を開始したという。同時に、今回のASMOLAにも搭載されている両耳用の圧音抑制の研究も平行して行なっていたそうだ。2013年には初期のプロトタイプが完成している。

主任技師の藤坂氏

 ちなみに、なぜ両耳か? という点については、日本での補聴器ユーザーのうち、両耳使用者は半分を切る46%に留まっているそうで、「当たり前の聴こえ(両耳での)を提供する」ために、両耳装着(デバイス)にこだわっているのだという。

 その後、製品化へ向けた動きの中で、音声信号を処理するチップ(DSP)に、クァルコムを選定、社内で検討(フィージビリティスタディ)を経て、大々的に花火を挙げる意味も込めて、CESへの展示(発表)を決め、出展(2022)。そしていよいよ製品化向けて今回、製品を発表。同時に、まずは市場のニーズをつかむために、一般販売に先駆けてクラウドファンディングの手法を選択。発表と同タイミングの6月1日より、「GREEN FUNDING」にてプロジェクトを立ち上げている。

画像: CES2022での発表の様子

CES2022での発表の様子

 さて、次にASMOLAの特徴について紹介すると、聴覚補助器具としてはやはり、音の空間的な印象、方向性、そしてノイズの少なさ(声をクリアに聴きとれる)が大事な要素になるそうで、ビームフォーミング技術によって方向性をクリア、ゲイン機能やノイズキャンセリングによって騒音・風切り音を抑制、アプリによるパーソナライズで個々人にあった聴こえを実現できる製品にまとめている。そこには当然、補聴器メーカーとしてこれまで蓄積してきたノウハウが存分に投入されている。なお、ビームフォーミングについては、空間情報を保持した状態で、聴きたい方向の音源を強化する機能を備えた、世界初になる「バイノーラル・ビームフォーミング」を搭載している。

 ちなみに、ドライバーは9.2mm径のダイナミック型で(補聴器ではBAドライバーが多いそう)、チップはクァルコムの「QCC5144」を採用。BTコーデックはaptX Adaptive(96/24)もサポートしており、今後スナップドラゴンサウンド(Snapdragon Sound)にも対応する予定という。

 実際の聴こえ方も体験してみた。システムとしては、耳の部分にマイクを内蔵したダミーヘッドにASMOLAを装着し、ASMOLAのドライバーから発生される音をそのマイクで拾い、アンプを通してヘッドホンで聞く、というもの。一般的な補聴器で扱う周波数は8Kまでが多いそうで、そう聞くと、少しナローな雰囲気もあるが、雑音収集器となりがちな安価な集音器と違って、不要なノイズは的確に抑制されていながら、方向性や空間感が得られる“音”が聞けた。バイノーラル・ビームフォーミングで右、あるいは左にフォーカスを当てると(アプリで選択・正面も可)、その方向の音が強調され、逆方向の音が弱くなるのが分かる。少し騒がしい場所で、正面、あるいは隣に座った人との会話を楽しむのに、便利な機能と言えるだろう。音楽コンテンツも聞いてみたが、この状態では音質の判別は難しいが、少し軽めで、ナローなもの。実際に耳に装着したり、パーソナライズを行なえば、また印象は変わってくると思われる。

画像: 耳にASMOLAを装着している

耳にASMOLAを装着している

 最後に、比較的年齢層の高いユーザーを想定した製品なのに、なぜクラファンを使うのか? という疑問については、下記のような答えが返ってきた。「年齢の高い方でも、ITに明るい方はいらっしゃいますので、そういう方がまとめて購入しやすいよう複数台セットを用意しています。また、お子さんが購入してご両親にプレゼントするという購入の仕方もあります」ということだ。クラファンの期間は、11月30日まで(記事を書いている6月5日現在、プロジェクトは達成している)。

https://greenfunding.jp/lab/projects/7116

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