少女の"悪夢"がそのまま映画になった!
大人の入り口に差し掛かった思春期の少女ロザリーンが見た夢は、狼(男)の恐ろしさを知らしめるものだった・・・。『モナリザ』『クライング・ゲーム』前夜、監督ジョーダンが『赤頭巾ちゃん』の童話世界の意匠を借りて、人狼にまつわるさまざまな伝承をユニークな視点で描いた怪奇譚。『殺人天使』に続く監督第2作となる。ロザリーンに扮した美少女サラ・パターソンが、本作以降ヒット作に恵まれなかったのが残念。おばあちゃん役は『ガス燈』『影なき狙撃者』『ジェシカおばさんの事件簿』シリーズで知られる名女優アンジェラ・ランズベリー。
これは祖母から与えられた想像上の恐怖を、少女が克服することを描いた青春映画だ。でも大人の知性が欠けた、健全な映画にしたくはなかった。ジャン・コクトーの『詩人の地』『美女と野獣』、チャールズ・ロートンの『狩人の夜』といった映画を参考にしたし、1970 年代のパリのポルノ・アート映画にみる猥褻なひねりも埋め込んだ。ホラーでも、ファンタジーでも、子供向け映画でもない。おとぎ話の型にもはまっていない。時代を超越したサイケデリックな白日夢や悪夢を装った映画なんだ。(監督ニール・ジョーダン)
撮影監督は『シエスタ』のブライアン・ロフタス。35mmスタンダード撮影。上映プリントは、本国/英国公開1.66:1ヨーロッパビスタ(左右マスキングのソフトマット)、海外公開1.85:1ビスタサイズ(上下マスキングのソフトマット)。35mmオリジナルカメラネガからの2022年4Kデジタルレスト。HDRグレードはHDR10とドルビービジョンをサポート。米国公開1.85:1ビスタサイズ収録。
2007年ITV BLU-RAY(UK版/1層/VC1/映像平均転送レート22.8Mbps/1.78:1アスペクト)から大幅な画質改善。レストア精度も優秀、強めの粒子感ながら鮮鋭度が高く、三次元感覚の奥行き描画力を持つ。一貫して人物画は揺るぎなく、18世紀の衣装デザインの質感描画も精妙だ。HDRはオールドスクールなブラウンやグレーを強化するが、なかでも少女ロザリーンが着るショールやリンゴなど、随所に登場する赤が目を奪う。グロテスクな狼変身ショット(アニマトロニクス)も強烈だ。
『エレファント・マン』 でジョン・ハートのメイクを行ったクリス・タッカーが、狼に変身するエフェクトを考案した。アニマトロニクスを使用しているが、クリスは『ハウリング』や『狼男アメリカン』のような映画とは異なることを試したかったんだ。彼はふたつの異なる変形を思いついたのだが、それは私が想像もしなかった素晴らしいアイデアだった。そしてもうひとつ効果的なショットは、切り落とされた狼の頭が牛乳の入ったタンクに落ち、男(スティーブン・レイ)の顔が浮き上がる瞬間だと思う。そのショットはシンプルだが、本当に効果的だった。(ニール・ジョーダン)
開幕以外は英国の名門スタジオであるシェパートン・スタジオ(『2001年宇宙の旅』『エレファント・マン』『ブレードランナー』)で撮影されており、美術監督アントン・ファースト(『フルメタル・ジャケット』『バットマン』)のプロダクションデザインの再現は観どころのひとつ。英国ハマー・フィルムの怪奇映画を思わせる赤ずきんの森は、陽光が届かない陰鬱な閉所恐怖症感覚を生み出し、幽閉されたロザリーンの存在を際立たせている。
音響エンジニアは『未来世紀ブラジル』のポール・カー、『バウンティ 愛と反乱の航海』のアンソニー・スローマン。ステレオ音声マスターからのDTS-HD MA2.0音声収録。マルチチャンネル・サラウンドサウンドを念頭に置いて作成されたサウンドトラックではないが、アップミックス再生の効果は十分に味わえるフロントヘビーのサウンドトラック。ステージングは中庸。
発声は概ね良好、いくぶん脆弱な口跡も残存する。ハイエンドは詰まり気味だが、ローエンドは快調。『ガンジー』のジョージ・フェントンによるスコアはハイライトであり、総じてゴージャス、大きな劣化の兆候もない。なかでもアリスが森を駆け抜けるときに鳴り響くパイプオルガン、狼の群れを表現するために使用する雷鳴のようなパーカッションは際立った瞬間となる。
UHD PICTURE - 4/5 SOUND - 3.5/5
バックナンバー:銀幕旅行
バックナンバー:世界映画Hakken伝 from HiVi