やがて終末を迎える世界で、ずっとすれ違ったままだった腹違いの三姉妹が、ゆっくりと心を通わせていく姿を繊細に映像化した『とおいらいめい』が、いよいよ8月27日より公開となる。ここでは主演の三姉妹の中で、長女・絢音を演じた吹越ともみにインタビュー。出演の感想や作品の見どころを聞いた。
――よろしくお願いします。まずは、主演作の公開を迎える心境をお聞かせください。
2019年にオーディション、2020年の初頭から撮影をしていた作品でしたので、コロナ禍によって公開まで時間がかかってしまいましたけど、やっと公開される! という嬉しさが一番強いです。
――出演はオーディションで決まったそうですね。もともと長女・絢音役を狙っていたのですか?
年齢的にも上のほうではあったので、自然と長女役かなぁ~とは思っていて、実際のオーディションでは、次女と長女を入れ替えてやらせていただきました。
実は、オーディションの時には、次女役にキャスティングされた田中美晴さんとペアを組んでいたんです。結構、助けられたという思いは強かったですね。その時点で監督の中には、私と美晴さんの雰囲気が似ていると感じてくださっていたのか、他の方はペアを変えて試演するなか、私と美晴さんはずっと組んでいたので、演じやすいという感覚はありました。
――オーディションではやり切った感じですか?
実は、かなりやらかしてしまいまして(涙)。きちんとオーディション用の台本を覚えていったんですけど、本当に頭の中が真っ白になってしまって、全部飛んでしまったんです……。何回もすみません、すみませんと言いながら、続けさせてもらった感じでして、あぁ~もう今日はダメだって思いながら帰りました。
――そんなオーディションを経て出演が決まりました。台本を読んだ時の印象・感想はどうでしたか。
やがて隕石が落ちてきて、世界が終わってしまうという壮大なテーマを描いているので、これを映像でどう表現するのかなというのがまず、楽しみでした。ただ、それ(終末)を自分がリアルに感じられるのかは心配でした。でも、割とご飯を食べるような日常のシーンもたっぷりありましたから、楽しくできたらいいな(笑)、と思いながら現場に入りました。
――やがて世界の終わりを迎える環境下を描く作品ですが、現場の雰囲気はどうでしたか?
テーマはシリアスですけど、ゆっくりと絶望が近づいてくるという感じだったので、別にピリピリするようなことはなく、かなりのんびりと自由にやっていました。喧嘩のシーンとかはピリついていたかなとは思いますけど。
――終末が数ヵ月後に迫るという設定ですけど、登場人物は結構、淡々と日常を過ごしているように感じました。
どういう状況でも、やはり日常は続いて行くんだ、という感じですね。
――吹越さんは広島出身ということで、地元近く(岡山)の撮影はいかがでしたか。
やっぱり海はいいなと思いましたね。懐かしいような空気感もありました。食事もとてもおいしくて、毎回の食事が楽しみで、みんなで完食でした。
――演じられた絢音の役作りについて教えてください。
自分の中に、違う人物を入れようという思いはなくて、私には弟がいて長女に当たるので、私が日々長女として感じていることを、そのまま表現できたらいいかなと思っていました。
――しっかりとしていて、妹たちを引っ張っていくという感じですか?
そうですね。ただ、しっかりした中にも繊細なところがあったりとか、実は妹たちに助けられるところもある、という雰囲気を考えていました。
――次女と三女がカキを食べているシーンを遠目で見ている長女の姿は印象的でした。
自分たちの(亡くなった)お母さんに対する想いがずっと心の中にあって、(絢音は)後妻の子供である、髙石(あかり)さん演じる三女・音と打ち解けられなかった過去を思い出していたのかな、と。
――次女と三女は、一緒に住むようになってすぐに仲良くなっていきましたけど、吹越さん演じる絢音は、自分から一緒に住もうと言い出しながら、なかなか心を開きません。
そうですね。絢音の仕事がどんどん大変な状況になってしまって、普通に余裕がなくなっていったんだと感じました。ただ、そんなことになるとは思わずに働いていたと思うので、状況の変化(悪化)を目の当たりにして、どんどん追い詰められていって、妹2人に対しても溝が深まっていってしまったと感じています。
――三姉妹を演じる上で、役作りを補完するような、裏設定のようなものはあったのでしょうか?
共通認識としてはありませんでしたけど、個々人の中にはそれぞれ持っていたと思います。絢音について言えば、婚約者がいて、でもうまくいかなかった、というストーリーは考えていました。
――作中では、我々世代には懐かしいノストラダムスの予言も、テーマの一つとして出てきます。吹越さんご自身の思い出はありますか?
子供のころに流行ったので、当時のことは鮮明に覚えていますね。なんかしきりに空が気になって、授業中にずっと空を眺めていた記憶はあります。でも、本当に世界が終わるとは思ってなかったように覚えています。恐らく絢音も、本当に世界が終わると思っていなかったから、周囲の状況にどんどん絶望していったのだと感じています。
――少しネタバレしますと、途中ちょっとファンタジーっぽくなります。
そうですよね。どこまでが現実で、どこがファンタジーなのかが曖昧なところもありますけど、個人的には、曖昧なままでいいのかなと思います。
――終盤での、三姉妹の喧嘩のシーンはいかがでした。
そこはほぼアドリブで任されていたので、結構、リハーサルで回数を重ねていたんですけど、途中で、自分でも何を言っているのか分からなくなったりして(笑)。一応長女としてそこにいて、こう来たから、こう返すという感じで受け答えをしていました。
――それがあって、ラストの長回しのカットにつながります。そこもアドリブだったのですか?
はい、全部そうです。その場の3人の勢いで考えたセリフを話していますけど、監督がすごく“間”を大切にされる方だったので、テンポ感というか、早くなったり、遅くなったりというのは、意識していました。
――あの流れでは、バッドエンドというより、ハッピーエンドにも感じました。
そうですね。それは観て下さる人によって受け取り方は違うかもしれません。
――吹越さんが、一番印象に残っているのはどこでしょう。
やっぱり一番は、最後のところですね。全体としては、ほっこりとした日常がありながらも、徐々に絶望感が溢れていってしまう。絶望に向かっていくスピードがゆっくりなところを観て欲しいと思います。そのゆっくりさが、この作品らしさなのかなと感じます。
――実際、三姉妹には絶望に向かっている、という感じは少ないですね。
そうなんですよね。そのギャップというか温度差も、見どころかなと思います。
――ところで、プロフィールを拝見すると、「特技ドラム」と書いてあります。
結構、叩けますよ(笑)。実際に叩いてみると、結構びっくりされますから! もともと学生の時に吹奏楽部でずっと打楽器を担当していて、大学生の時はバンドを組んでいたんです。いつか、そういう役(ドラムを叩く)がいただけたらいいなと思っています。
――女優としての今後の目標、あるいは演じてみたい役柄を教えていただけますか。
やってみたい役としては、これまでの人生の中で、女性に励まされて生きてきたことが多かったことがあり、私も女性の味方になれるような役を、いつかやってみたいと思っています。
映画『とおいらいめい』
8月27日(土)~9月23日(金)池袋シネマ・ロサにてレイトショー公開
<キャスト>
髙石あかり 吹越ともみ 田中美晴
ミネオショウ 大須みづほ 森徠夢 武井美優 藤田健彦 しゅはまはるみ
<スタッフ>
企画・製作・配給:ルネシネマ
監督・脚本:大橋隆行
原作:とおいらいめい(2004年上演舞台)
2022年/日本/シネマスコープ/ステレオ/150分
(C)ルネシネマ
吹越ともみプロフィール/長女・宮田絢音役
4月25日生まれ。広島県出身。
2013年から広島県でモデル活動を開始。天気キャスターやレポーターとして注目を集める。上京後、CM、広告を中心に活動。佐川急便「和菓子屋の父」篇、JR東海「うましうるわし奈良」に出演し話題となった。2020年SPドラマ「半沢直樹イヤー記念・エピソードゼロ~狙われた半沢直樹のパスワード~」鈴木莉乃役でドラマ初出演。
ヘアメイク:糠信いくみ
▼吹越ともみ 公式サイト