ジョン・カーペンター監督の特集上映「ジョン・カーペンター レトロスペクティブ2022」が、1月7日(金)から1月27日(木)の3週間限定で、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺にて開催中。

 公開初日となる1月7日には、ヒューマントラストシネマ有楽町での『ニューヨーク1997』上映にトークゲストとして、本特集上映のパンフレットにも寄稿文を執筆した黒沢清監督が、映画評論家の柳下毅一郎氏とともに、81年の劇場公開から40年ぶりにリバイバル上映が実現する『ニューヨーク1997』の見所についてや、ジョン・カーペンター独自の作風について、そして黒沢監督自身の映画製作への想いについてなど、盛りだくさんのトークイベントを実施した。映画界きってのカーペンター通の二人が、今こそ観るべきカーペンター作品の魅力をたっぷり語った。

【「ジョン・カーペンター レトロスペクティブ2022」公開記念トークイベント概要】
■日時:1/7(金) 20:38~21:15 ※上映後実施
■会場:ヒューマントラストシネマ有楽町
■登壇:黒沢清(映画監督)、柳下毅一郎(映画評論家)

 公開初日を迎え満席の『ニューヨーク1997』上映後に行なわれたトークイベント。会場は熱気に包まれている中、黒沢清監督、柳下毅一郎氏が登壇! 40年ぶり初のリバイバル上映が実現した本作について黒沢監督は、「劇場で見るのは、実に久しぶりです。当時は大学卒業して直ぐだったかな。正直そんなに期待せず観に行った覚えがありますが『ニューヨーク1997』を観たとき一発でカーペンターはすごいと思いました。評価がぐんと跳ね上がりましたね。」と当時の思いを振り返り、日本公開当時スクリーンで本作を観た思い出を語る。続けて、「81年当時は、インディ・ジョーンズなどアメリカ映画で豪華なヒーローものが数多くあった中で、このアウトローぶりはすごいですよね。70年代前半までは、スネークのようなアウトローが出てくる作品が多かったのですが、映画の体裁をしっかりとりながら、しかも80年代にここまでアウトローな主人公はすごいと感じました」と、映画史を振り返りながら、カーペンターが創り上げた唯一無二のダークヒーローであるスネークを高く評価。

画像: 『ジョン・カーペンター レトロスペクティブ2022』上映記念、黒沢清監督がカーペンターについて語るトークイベントを開催。「娯楽映画のお手本」と絶賛

 柳下は「スネークって何もしていないんですよね。驚くほど何もしていないんですよ。」と語り、会場からは笑い声が。「でも、映画が成立してしまうのが素晴らしいと思った。今では伝説的な存在になっていますよね」と語る。

 黒沢監督は、「カート・ラッセルのあの感じって、60年~70年代の映画に出てきましたよね。こういう人いたんだよな、と懐かしい気持ちになりました」と述べ、81年制作の本作が60~70年代作品のオマージュでもあることを示唆した。

 「カーペンターが影響を受けた作品とかあったんでしょうか?」と黒沢監督からの質問に対し、柳下は「囚人に毒を注射して24時間以内にミッションをクリアするという元ネタは、ルドルフ・マテ監督の『都会の牙』というサスペンス映画からきているのではと思いますね。今では『スーサイド・スクワッド』もそうですが、全ての元ネタはこの『都会の牙』だと思うんですよ」と回答。

 盛り上がる中、監督ジョン・カーペンターについてトークが進む。黒沢監督は「主人公の行動原理が基本的に自分のためですよね。大体、人のためであったりお金のためであったりすると思うのですが、カーペンター作品はそうではない。ちょっとした意地だけでこれだけのことをやってしまう人。ほぼ一貫して、そういう主人公像の様子を見せる映画を撮ってきているということはすごいなと感心します」と、カーペンターが貫く作風を絶賛した。

 「カーペンターのことを“ちょうどいい映画監督だ。”と仰っていましたが、ちょうどいいとはどういう意味なのでしょうか?」という柳下の質問に対して黒沢監督は、「作る側の発想なのかもしれませんが、娯楽映画の場合、どこをどう工夫すればちょうどいいんだろう。というのが正直誰にも分からないんですね。尺も90分にすれば良いのか120分なのか。3時間なのか。それこそ、主人公の行動原理はたった一つでいいのか? 途中から全然違う何かが入ってこないといけないのか。予算もありますし、いつも迷うんです。その時、カーペンターの作品を観ると、あ、これくらいでいいんだ。カーペンターの作品は娯楽映画の一つの基準なんだといつも思うんです」と、映画製作での苦悩を明かし、カーペンター作品の想いを語る。

 柳下は、「カーペンターって必ずネタを2回もってくるんですよ。そういうシーンが何度も出てくる。伏線を張るのが構成として上手いと思います。低予算映画ならではの工夫ですよね」と話し、黒沢監督は「細かいところはかなり気を使って丁寧に作られているから、目が離せない作品になっていますよね。これはやはり娯楽映画のお手本だと思います」と讃えた。

 最後に柳下が「黒沢さんもカーペンター的なやつを」とリクエストすると、黒沢監督は「哀川翔さんでやりたいという欲望も一瞬ありました。」と『勝手にしやがれ!!』シリーズや『修羅がゆく』シリーズでアウトローを演じ続けた哀川翔氏の名をあげる。「日本人でこの通りの、こんな感じというのは、なかなか難しいですよね。自由を求めて屈しないようなアメリカ文化の中に時折出てくる、ある種のアウトローのような…」と日本ではカーペンターのような映画を作るのは厳しいと思いを明かした。

「ジョン・カーペンター レトロスペクティブ2022」

2022年1月7日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺にて3週間限定公開

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