「小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所」第5回となる今回は、小型スピーカーの置き方を工夫し、どのように音が変わるのか小岩井ことりさんと山本浩司さんが遊んでみました。
スピーカーの置き方で音はどのように変化するのでしょうか(編集部)

小型スピーカーでいろいろ試してみよう!

山本 小岩井ことりと山本浩司の「オーディオ研究所」、5回目となる今回は、ステレオサウンド試聴室でスピーカーの置き方で音がどう変わるか、とくにステレオイメージの変化をことりちゃんに体感してもらおうと思います。

小岩井 面白そう!よろしくお願いします!

山本 はい、こちらこそ。使用するのは、マランツのネットワークCDレシーバーのM-CR612と小型2ウェイスピーカーのダリOBERON(オベロン)1です。M-CR612は7万円というお手頃価格ですが、50W+50WのデジタルアンプにCD再生機能、そして<HEOS>というマランツ独自のネットワークオーディオ機能を積んでいて、いま話題のハイレゾ対応高音質音楽ストリーミングサービス<Amazon Music HD>も楽しめます。もちろんローカルのストレージに貯めたハイレゾファイルを聴くこともできます。さらにBluetooth対応なのでスマートフォンとの接続も可能ですよ。

小岩井 へぇー、アンプも入っているということは、スピーカーをつなげばすぐに音楽が楽しめるわけですね。

山本 そういうことだね。スピーカーはデンマーク製で値段はペア5万7000円。

小岩井 そうなんですね~見た目がきれいで、もっと高いスピーカーかと思いました。

画像2: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  第5回 小型スピーカーで遊んでみた。(前編)

ダリ OBERON 1

¥57,000(ペア)+税

詳細はこちら

山本 最近、手頃な価格の音のよいヨーロッパ製スピーカーが増えているんだよね。このOBERON1は、とりわけぼくのお気に入り。M-CR612との組合せで12万円台。

小岩井 ずいぶん安いですね。これなら……って思ってくれる若い人も多そう。

山本 でしょ。問題はどんな音が出せるか、だけどね。では、スピーカーのセッティングをいろいろ変えていきますから、どんなふうに感じたかを正直に話してください。以前、スピーカー・リスニングの醍醐味は、眼前に生々しいステージが出現することって話したけれど、そのステージがどんな感じで出現したか、そこに着目して聴いてみて。ことりちゃん、今日は読者代表のリスナー役だからね。

小岩井 ちょっと緊張しちゃうな(笑)わたしに音の違いがわかるかな?

「ミニコンポ」セッティングから始めてみる

山本 だいじょぶだいじょぶ。では、最初にラック上段に置いたM-CR612にOBERON1をピッタリくっつけた状態の音を聴いてもらいます。いわゆる「ミニコンポ」セッティング。

小岩井 うちの実家も、むかしミニコンポをこうやって置いてました。

画像3: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  第5回 小型スピーカーで遊んでみた。(前編)

スピーカーにダリのOBERON 1、プレーヤーにマランツのM-CR612を使用。
まず初めにコンポの両脇にスピーカーを合わせた状態で試聴した。

山本 どこのご家庭もこうだったよね。最近はミニコンポを置いている家すらあまりないと思うけれど。試聴に使うのは、大貫妙子の『ピュアアコースティック・プラス』というCDに収録されている「雨の夜明け」という曲。弦楽四重奏団にコントラバスとクラリネットが加わった編成をバックに大貫さんが透明感のある声で歌っています。収録は1987年とかなりふるいけれど音質も極上で、ぼくの長年の愛聴盤です。録音、ミックス、マスタリングを手がけたのは、ぼくが「日本のアル・シュミット」と密かに呼んでいる大川正義さん。

画像4: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  第5回 小型スピーカーで遊んでみた。(前編)

「雨の夜明け」 アルバム『ピュア・アコースティック・プラス』 より

小岩井 初めて聴く楽曲ですが、とても素敵ですね。ストリングスの響きも大貫さんのヴォーカルも夢のように美しくて。サウンドステージについて言うと、なんとなく左右の広がりが物足りないですね。でも、ヘッドフォン・リスニングに比べれば音場の前後感はよく出ている気がしました。

山本 ことりちゃん、もうふつうに「サウンドステージ」とか「音場」とか言うようになったね(笑)。

小岩井 先生に鍛えられました!

山本 いま聴けた音はたしかにその通り。もっと水平方向の広がりを出したい。ということで、左右のOBERON1はラックの棚板の端まで広げてみます(左右それぞれM-CR612から約27cm離す)。

画像5: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  第5回 小型スピーカーで遊んでみた。(前編)

次にスピーカーをボードの端まで持っていき試聴した。

小岩井 ああ!!断然いいです!!左右がワイドに広がるのは想像できましたが、各楽器の位置がよくわかるようになったし、センターに定位する大貫さんのヴォーカルがよりくっきりと見えました。驚くほど違いますね。

山本 うん、そうなんだよね~ミニコンポ・セッティングだと「キュッ」と狭い感じでステレオの面白さが十分に伝わってこないよね。まず左右のスピーカーを広げる。それがスピーカー・セッティングの基本、ベーシックスタイルだと覚えておいてください。では、今度はスピーカーを横に倒してみます。

小岩井 え? そんなことしていいんですか。

山本 開発者にしてみれば、想定していない置き方だと思うけど、設置状況によっては、横置きしなきゃならないケースがあるかもしれないし。

小岩井 なんか見た目もかわいいです。

画像6: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  第5回 小型スピーカーで遊んでみた。(前編)

スピーカーを横に倒して試聴した。

山本 どうでしたか。左右のスピーカーともに高音を受け持つトゥイーターが内側にくるように横に倒しました。

小岩井 正しい置き方じゃないかもしれませんが、悪くないと思いました。センターがちょっと強めな感じです。

山本 真ん中のヴォーカルがちょっと大きくなるイメージかな?

小岩井 あ~そうですねぇ~

山本 左右の広がりは、さっきの立てた状態のほうがよかった?

小岩井 そう思います。

山本 ぼくも同じように感じました。水平方向の音の広がりを出したいなら、やはり立てて聴くべきでしょうね、横置きがダメというわけではないけれど。

じゃあ今度は左のスピーカーだけ、寝かせてみます。

小岩井 ええ?こんな置き方する人、いないと思いますけど。見た目ヘンだし・・・。

山本 まぁまぁそう言わないで聴いてみてよ。

画像7: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  第5回 小型スピーカーで遊んでみた。(前編)

左チャンネルだけ倒したまま、右チャンネルのスピーカーのみ立てた。

山本 どうですか(笑)

小岩井 やっぱり見た目同様違和感がありました。音がきれいに広がらないし、左右のスピーカーに違う周波数特性のEQをかけたような感じ?

山本 あ、なるほど。サウンドクリエイターらしい意見ですね。ここで言えることは、左右のスピーカーはなるべくシンメトリーを意識してセッティングすべし、ということですね。

ここまでは、試聴位置から左右のスピーカーまでの距離を均等にしていましたが、今度は左のスピーカーだけ奥に離して置いてみます。

画像8: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  第5回 小型スピーカーで遊んでみた。(前編)

左チャンネルのスピーカーのみラックの奥に持っていく。

山本 どう?

小岩井 距離の近い右チャンネルにヴォーカル音像が寄ります。なんか不自然ですね。

山本 スピーカーとの距離が長くなればなるほど音圧レベルは下がっていくので、近い方のスピーカーの音が強くなるのは当然だよね。ということは、左右のスピーカーと等距離の位置に座って聴くのがスピーカー・リスニングの基本ということになる。

小岩井 あ、なるほど。センター位置で聴いて初めて正面にヴォーカル音像がシャープに定位するんですね。

山本 そういうこと。

小岩井 セッティングと聴き方で音楽の姿かたちがこんなに変わるなんて(笑)興味深いです。

山本 今度は、左右のスピーカーともにラックの後方ぎりぎりまで下げてみます。

画像9: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  第5回 小型スピーカーで遊んでみた。(前編)

スピーカーを両チャンネル共にラックの奥へと持っていく

山本 どうかな? 音がずいぶん変わったね。

小岩井 そうですね。違いがめちゃくちゃ面白い。

山本 どっちが好き?

小岩井 うーん、どっちが好きなんだろ?気分によると思います。

山本 じゃあ違いを言ってください、どう感じたか。

小岩井 奥に下げたときのほうが、ヴォーカルが前に、ストリングスが後方に、という前後の位置関係がよくわかる気がしました。ラック前方にスピーカーを置いたときは、その位置関係がそれほど明瞭じゃなかった気がします。でも、音楽が心に迫ってくる感じは前方に置いたほうが強い。

山本 なるほどなるほど。低音の出方に違いは感じられたかな?

小岩井 うーんそうだな、奥に下げたときのほうが低音がゆったりと聞こえました。

山本 このスピーカーは背面に低音を放射するバスレフポートというものが配置されています。奥に下げる、すなわち後方の壁にスピーカーを近づけると、ここから放射される低音域の音波が壁に反射して、低音を補強する働きをするんです。それが低音がゆったり聞こえた理由だと思います。

小岩井 へえ~。ちゃんと理由があるんですね。

山本 ことりちゃんが言うように、前後の位置関係がよくわかる立体的な音場表現に感じられた理由は、この低音の表情の違いによるものかもしれません。

小岩井 なるほど~。

山本 じゃあ次はM-CR612とOBERON1の間にステレオサウンドを詰めよう。

小岩井 ん? ステレオサウンドを詰めるって?(笑)

山本 空いていたスペースにステレオサウンドを詰めます。

小岩井 わっ、ぎっしり詰めるんですね(笑)

山本 こういう小型スピーカーって、昔は「ブックシェルフスピーカー」って呼ばれていたんだよ。小さいから本棚の空いているスペースに押し込んで使われていたんです。

小岩井 へぇ~。

山本 それをちょっと再現してみようと。

画像10: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  第5回 小型スピーカーで遊んでみた。(前編)

スピーカーとレシーバーの間に弊社が刊行している雑誌「ステレオサウンド」を詰めてみる。

小岩井 中低音のふくよかさが増した気がしました。音が厚くなったというか。

山本 うん、その通りでしたね。スピーカーの正面、ドライバーユニットがついてるところをバッフルって言うんだけど、この設置法だと間に詰められた雑誌が延長バッフルの役割をするのね、仮想的にバッフル面が拡大したような効果があるわけ。延長バッフルの反射によって聴感上中低域が厚く、音圧感が上がったように聞こえるんだよ。

小岩井 なるほど、先生なんでも説明できちゃうんですね。すごいすごい。

山本 いやいや(照)。でもこの状態だと、少し立体的な音場感が削がれたように聞こえなかった?

小岩井 あ、それはよくわかりませんでした。

山本 じゃもう一度ステレオサウンドを取り除いてみます。立体感に注意して聴いてみて。

画像11: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  第5回 小型スピーカーで遊んでみた。(前編)

元の状態で試聴

小岩井 あ、たしかに。このほうが奥行が感じられて、立体的に聞こえます。

山本 でしょ。では次にスピーカーの高さを変えてみます。ウッドブロックをOBERON1の下に敷いて、20センチほど高くしてみます。

画像12: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  第5回 小型スピーカーで遊んでみた。(前編)

スピーカーの下に木のブロックを置いて嵩上げをしてみる

小岩井 あれ?なんだろう、低音から高音までのバランスがよくなったように聞こえますね。

山本 うん、そんな感じだね。では、今度は椅子を変えます。違いは座面の高さ。先ほどよりも低い椅子に座って聴いてもらいます。

画像13: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  第5回 小型スピーカーで遊んでみた。(前編)

座面が低い椅子に交換した。

小岩井 あ、また音のバランスが変わりました。この椅子に座って聴くと、先ほどの椅子よりもローが豊かに感じます。

山本 ですね。今度は座面がうんと高いスツールに変更します。

画像14: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  第5回 小型スピーカーで遊んでみた。(前編)

座面が高いスツールへ椅子を変更した。

山本 座り心地は悪い(笑)と、思うけど、どうでしたか。

小岩井 低音の量感は少なくなって、上の帯域、中高域が厚くなる感じですね。いや、驚きました。座面の高さの違いで、こんなに聞こえ方が変わるんですね。

山本 大きな違いがあるよね。この実験で言えるのは、高音を受け持つトゥイーター位置を耳の高さに合わせるのがベストということ。これもまたスピーカー・リスニングのお作法の一つなんです。この状態で聴くと、低音から高音までの音のバランスがいちばんよく聞こえるはず。ブロックを下に敷いたのは、まずトゥイーター位置を耳の高さを近づけたかったからなんです。

ところで、スピーカー入力端子に+と-があるのは知っているよね。今度は右チャンネルのスピーカーだけ、それを逆につないでみます。

画像15: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  第5回 小型スピーカーで遊んでみた。(前編)

スピーカーの片チャンネルをプラスとマイナスを逆に接続(逆相接続)した。

小岩井 すごい違和感。気持ち悪い・・・

山本 プラスの信号が入るとドライバーユニットは前に、マイナスの信号が来た場合は後ろに動くわけだけど、片チャンネルだけそれを逆にしたわけ。ヴォーカルはセンターに定位しないし、なにか頭の中を引っかき回されたような……。

小岩井 長時間も聴いていられないですね。

山本 世の中にはこの状態のまま音楽を聴いている人がいるかもしれない。

小岩井 え~、比べると絶対気付くと思うんですけどね~

山本 いや、わかんないよ。いちばん最初に聴いたミニコンポ・セッティングだと、この違和感は少ないからね。コレ絶対やっちゃダメということをわざと体験してもらいました。次に左チャンネルのスピーカーもプラスマイナスを逆にしてみようか。L/Rとも逆相接続で聴いてもらいます。

どちらとも逆相接続で試聴した。

小岩井 これはあまり違和感ないです。というか全然悪くない……。

山本 そうでしたね。じゃあ戻してみます。今度はL/Rともに正相接続。

正相接続で試聴した。

山本 どちらの音が好きですか。

小岩井 私はこっち、正相接続の音のほうが好きです。

山本 そう、こっちのほうが音が明るく感じるよね。

小岩井 そうそう、艶っぽいというか芯のある音って感じがします。

山本 このスピーカーを買ったら、正相接続で聴いてくださいってことですね。でも、なかには逆相接続で聴いたほうが好ましいスピーカーもあるかもしれない。一度どちらが好きか試してみるのもいいかもしれません。くれぐれも片チャンネルだけ逆相接続しないように気をつけてください。

さて、前編はこれくらいにして、後編もまだまだこのスピーカーを使って様々な置き方を試してみますよ。さらに小型スピーカーを数機種用意したので、そちらも聴いていただきたいと思っています。

小岩井 楽しみです!

This article is a sponsored article by
''.