木下グループ新人監督賞の準グランプリを受賞した『人数の町』が、いよいよ9月4日(金)より全国公開される。日常からこぼれ落ちた人たちが、日々の生活の不安を感じることなく過ごせる“町”を舞台にした、人間心理の奥底を覗き見るような感覚が味わえる怪作。ここでは、本作で映画デビューを飾り、その理想郷的な“町”での生活を満喫している末永 緑を演じた立花恵理にインタビューした。

――映画初出演おめでとうございます。いよいよ公開を迎えます。
 ありがとうございます。映画って、撮り終えてからこんなにも長い時間をかけて温められるというか、熟成していくのは新鮮な感覚ですね。早く皆さんに観ていただきたいですし、(公開が)楽しみです。

――その期間はもどかしくなかったですか?
 もどかしさよりも、こうしておけばよかった、ああしておけばよかったという考えが、次々とわいてきてしまって……。それはそれで当時の私が感じていたもの(緑)なので、そのままでいいと思いますけど、時間をおいた分、違う角度から作品を観られるようになるなど、解釈や視点を変えることができるようになったのは、うれしいですね。

――最初に台本を読んだ感想は?
 独特な世界観にまず、圧倒されました。日本を舞台にしていながらも、現実と非現実の間に存在するような雰囲気が面白いな、と感じました。加えて、異様さもありました。

――立花さんご自身は(その町に)行ってみたいですか?
 嫌ですよ、行きたくありません(笑)。

――自由がないから?
 “自由”という言葉の定義は難しいと思いますけど、その世界にいる人たちは、自分を失っているというか、自分の意志がないじゃないですか。与えられるものをただ受け取って、依存して……。傍から見ていて、悲しいことだなって感じたので、私は行きたくないし、自分は自分でありたいなと思いました。

――話を戻しまして、演じられた末永 緑の印象は?
 まず、人格が破綻しているなって思いました。けど、本当はすごく弱いからこそ、強がっているのかなとも感じました。そもそもこの世界にいる人たちはみんな、現実の世界でも自分を持たず、何かに依存して、自分を一番大切にできなかった人たちなのかなって思うんです。その依存しているものがなくなった時に、どうすることもできなくなって、結果的にこの町にやってきて、そこに居場所を作らざるを得なかった……。緑もそうなんだろうな、と。

画像3: 現実と非現実の間にある“不思議な町”を舞台にした映画『人数の町』で、映画初出演を飾った立花恵理にインタビュー。「ひとつの作品をより掘り下げて考えられるようになりました」

――その割には、この世界を満喫していました(笑)。
 そうなんですよ。でも、恐らくそうするしかなかったんでしょうね。現実世界での自分を消し去って、(この世界で)新たな自分になりきろうとしている……。もう、そんなことにしか拠り所がないから、ああなってしまったのかなって思います。

――そう聞くと、とある人と再会したときの反応は理解できます。
 緑と現実世界を結ぶ、唯一の存在だったからでしょう。その人はこの世界に居場所を求めて来たわけではないし、自我も持っている。それで、動揺してしまったのだと感じています。

――この世界に同調しているようで、緑にもまだ自我が残っていた?
 そうだと思います。ただ、そこで再び自我が芽生えるというよりかは、この世界に馴染まないその人を排除したかったのだと思います。

画像4: 現実と非現実の間にある“不思議な町”を舞台にした映画『人数の町』で、映画初出演を飾った立花恵理にインタビュー。「ひとつの作品をより掘り下げて考えられるようになりました」

――少し話を戻しますが、この世界にやってきた蒼山哲也(中村倫也)を気に入って(?)、いろいろとちょっかいを出します。
 入ってきたばかりで、まだ現実世界の“匂い”を感じられたからでしょう。緑としては、この世界と現実世界の間にいて、戸惑っている蒼山をおちょくりたいという気持ちと(笑)、こっちの世界に染めてやりたいというSっ気な面もあったのかなって思います。まあ、(蒼山の)見た目が好みだった(?)のもあると思います。

――すると、毎回、新人さんを弄んでいた?
 でしょうね(笑)。その世界では、刺激的なことも少ないだろうし、毎回新人をおちょくることで、楽しんでいたんだろう、と。

――緑と一緒にいることの多い黒田(草野イニ)は、蒼山よりもお似合いに見えました。
 どうなんでしょう。監督ともお話しましたけど、彼氏という関係ではなく、緑のおもちゃという存在でしょう(笑)。

――その世界を満喫している緑の今後をどう考えますか?
 簡単に逃げ出せるものでもないし、そもそも外の世界への興味はなくなっているので、そのまま、その世界で生きていくんじゃないかなって思っています。蒼山には、新人遊び以上の感情を持っていたかもしれませんけど、彼の取った行動については、我関せずという感じで、勝手にすればと、突き放しているように思います。

――最後に、今回、映画初出演しての感想は?
 一つの作品をたくさんのスタッフ・キャストで創り上げていくという面では、ドラマと似ていますけど、映画は撮了後に、長い時間をかけて編集を加えていくこともあって、その間にこちらの(作品の)受け取り方、考え方もまた深めていけるのは、すごくいい経験になりました。ようやく公開を迎えますので、お客さんがどのような感想を持たれるのか? ドキドキしていますけど、楽しみです。

映画『人数の町』

9月4日(金)より新宿武蔵野館ほか 全国ロードショー
<キャスト>
中村倫也 石橋静河
立花恵理 橋野純平 植村宏司 菅野莉央 松浦祐也 草野イニ 川村紗也 柳英里紗 / 山中聡
<スタッフ>
脚本・監督:荒木伸二
製作:木下グループ
配給:キノフィルムズ
制作:コギトワークス
(C)2020「人数の町」製作委員会

<Story>
借金取りに追われ暴行を受けていた蒼山は、黄色いツナギを着たヒゲ面の男に助けられる。その男は蒼山に「居場所」を用意してやるという。蒼山のことを“デュード”と呼ぶその男に誘われ辿り着いた先は、ある奇妙な「町」だった。

映画公式サイト https://www.ninzunomachi.jp
立花恵理オフィシャルサイト https://artist.amuse.co.jp/artist/tachibana_eri/

ヘアメイク:加勢翼
スタイリスト:石川美久

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