初長編作となる「ガンバレとかうるせぇ」がぴあフィルムフェスティバル(PFF)で映画ファン賞と観客賞を受賞(2014年)、その後もさまざまな映画祭で高い評価を受けている佐藤快磨(たくま)監督の最新作「歩けない僕らは」が、11月23日より公開となる。
回復期のリハビリテーション病院を舞台に、仕事で壁にぶつかる新人の理学療法士(宇野愛海)の姿を通して、人はどう生きるべきかを描いてく注目作だ。ここでは、主演の新米療法士・宮下遥を演じた宇野愛海にインタビューした。
――出演おめでとうございます。本作の脚本は、プロデューサーの推薦で監督が宇野さんにあて書きしたそうですね。
ありがとうございます。そう聞かされたときは、びっくりしましたね。監督からは、演技を見ていただく前にオファーをもらったので、監督の求めるものと違ったらどうしようという怖さもありました。同時に、特定の職業に就いている方を演じるのも初めてでしたから、その面でも不安は大きかったです。
――台本を読んだ時の感想は?
遥は、一つのことに夢中になると周りのことが見えなくなってしますが、そうした部分は自分と似ているなと思いました。役づくりについては、まず、遥と同じ理学療法士1年目の方を取材して、仕事の面から向き合っていきました。遥自身の性格については、現場に入る前には決め切らずに、現場に入ってから、周囲の方々とのバランスを見て固めていった感じです。でも、台本を読んだ当初のイメージからはそんなに変わらず、一所懸命さに加えて、不器用なところを表現するようにしたぐらいです。
――理学療法士さんの取材を通して学んだものは?
みなさん専門の学校を卒業されていますけど、現場に入るとその通りにはいかないということを仰っていましたので、動き方などの所作は、整理しすぎないようにしました。具体的には、いろいろなものを考える余裕がなくなってしまうという、一年目のいっぱいいっぱいな感じを出しつつ、でも、患者さんにはきちんと向き合うという姿勢(気持ち)は、大事にしました。
――落合モトキさん演じる患者・柘植のリハビリシーンは、いかがでしたか?
本番直前まで、ベテランの理学療法士の方にコツを教えていただいていたので、あまり苦労なくできました。
――そうなんですね。でも、遥にはそれ以外にもいろいろな困難が降りかかります。
同僚の幸子が辞めてしまった時は、がむしゃらに働く遥からしたら、何でなの? っていうか、裏切られたっていう気持ちが大きいんだろうなって感じました。
――幸子役の堀さんにインタビューしたときには、「幸子は遥にメッセージを送る役」と話していました。
そうですね。時間が経つにつれて、遥にも余裕ができて、幸子が言いたかった意味も分かると思うんですけど、辞めると聞いた時はもう、何で? という気持ちでいっぱいだったと思います。
――でも、遥は残る決断をします。
難しい職業ではありますけど、遥としてはやりがいも感じているし、なにより一つのことにはまったら諦められないという性格が大きいと思います。加えて、患者として触れ合った佐々木すみ江さん演じるタエさんの存在も大きいです。こんなに年上の方が前に進もうとしているのに、私が折れちゃいけないっていう気持ちになれたので、そういう気持ちを持って、続けていくんだろうなって思っています。
――そうした遥の姿は?
かっこいいですね。すごく繊細な女の子なんだけど、芯は強くて、良くも悪くも周りに流されないでいる姿は魅力的です。
――さきほどご自身に近いとおっしゃっていました。
周りが見えなくなるのは似ているなって思いますけど(笑)、私は身近な友達がいなくなってしまったら心は揺れてしまうので、私よりも全然、強い女の子ですよ。
――周りが見えなくなるというのは?
結構、日常生活にも役を引きずるタイプなんです。昔学園ものに出演した時に、追い詰められる役を演じたんですけど、学校が怖くなって行けなくなってしまったことがあって。修学旅行まで欠席してしまって……。今思えば、修学旅行には行けばよかったって思いますけどね(笑)。切り替えができる人間になりたいです。
――気分転換の方法というのはありますか?
カラオケですね。友達も、私が役に行き詰っているのが分かるみたいで、そういう時はカラオケに連れていってくれるんです(笑)。
――今回の撮影では?
ストレスはなかったので(笑)、行きませんでしたよ。でも、実際の病棟を使わせていただいている関係で、夜の21時には撮影が終わるので、その後は恋人役の細川岳さんと一緒に過ごす時間を作ったことが、二人の恋人感というか距離感の醸成に役だったかなと思います。
--そんな二人にも別れがやってきます。
脚本を読んだ時は辛かったですね。自分(遥)がいっぱいいっぱいな時に、プライベートで一番支えてほしい人に別れを切り出されるというのは、演じる側としてもしんどさがありました。
――けど、いきなりではないですよね。
そこは遥の性格も影響していると思います。彼は徐々にそういう雰囲気を出していたのに、遥自身は彼にのめり込んでいたので、気づけないでいましたから。
――ちなみに、ラブラブな二人は、イマドキ珍しいフィルムカメラを使っています。
結構、同世代にはフィルムカメラが流行っていて、私もプライベートでよく使っています。スマホやデジタルカメラと比べると現像の手間はかかりますけど、QRコードで写真がダウンロードできるので便利ですよ。
――同僚の幸子がいなくなり、彼氏からは別れを切り出されても、遥はくじけませんね。
さきほどもお話しさせていただいた、佐々木すみ江さん演じるタエさんの存在が大きいのかなと思います。もちろん、先輩に相談したり、支えられたりというのもありましたけど、タエさんの生き様に一番背中を押されたのだと思います。実際に墓参りを実現する姿を見たことで、世界は広いんだよっていうことに気付かされたし、そのおかげで迷いが吹っ切れてすっきりしたんだろうな、と。私自身もすごく得るものがあって、今回共演させていただいて、とても有り難かったですね。
――覚悟を決めた後の、患者さんへの向き合い方は、特に表情が素晴らしかったです。
ありがとうございます。ちょうどポスターになっている写真がその時のもので、周囲に本物の患者さんや療法士さんがいらっしゃったので、とても緊張感のある中での撮影だったのは覚えています。でも、今の遥の精一杯の気持ちで、(患者の柘植さんに)向き合いました。
――その後柘植さんを送り出します(退院)。
教えていただいた療法士さんには、患者に感情移入しすぎちゃだめですよと言われていたんですけど、おそらく遥の中では柘植さんのことを大分引きずっているんだろうなって思います。自分が担当じゃなければ、もっとよくなっていたかもしれないし、そうすれば柘植さん自身も、症状にもっと向き合えていたかもしれない、という感じで。
――ところで、今回幸子役の堀さんと共演しての感想は?
現場ではほとんどお話する機会がなくて……。でも、素敵な女優さんという噂は聞いていたので、共演が楽しみでした。現場では、堀さん演じる幸子(の芝居)にきちんと反応すれば大丈夫、と信頼していましたし、実際その通りの仕上がりになったと思います。
――さて、撮影から2年、いよいよ上映となります。
素直にうれしいです。地元栃木での撮影でしたので、思い入れも強いですし、いろいろな場所で見ていただく機会を得られて、本当に有り難いです。加えて、佐々木さんとの共演は、大きな励みになりました。
――今後やってみたい役はありますか?
特にコレというよりは、お芝居をすることが好きなので、できるものはなんでもやってみたいです。強いて言えば事件モノが好きなので、実際の事件をモチーフにした作品に携わってみたいなって思います。そして、佐々木さんのように、息の長い女優さんになりたいです。
――では最後に、来年へ向けての抱負をお願いします。
大学を卒業するので、仕事に向き合える時間をもっと増やせるようになると思います。たくさんの作品に出演して、たくさんの現場を経験して、演技力を高めながら、昔から応援してくれるファンの皆さんへ、もっと恩返しできるようにしたいですね。
映画『歩けない僕らは』
11月23日(土)より新宿K’s cinemaにて公開他全国順次
出演:宇野愛海 落合モトキ
板橋駿谷 堀春菜 細川岳 門田宗大
山中聡 佐々木すみ江
監督・脚本・編集:佐藤快磨
配給・宣伝:SPEAK OF THE DEVIL PICTURES
公式サイトhttps://www.aruboku.net/
予告編 https://youtu.be/XMYY8cm-36E
(C)映画『歩けない僕らは』
■あらすじ
宮下遥(宇野愛海)は、回復期リハビリテーション病院1年目の理学療法士。まだ慣れない仕事に戸惑いつつも、同期の幸子(堀春菜)に、彼氏・翔(細川岳)の愚痴などを聞いてもらっては、共に励まし合い頑張っている。担当していたタエ(佐々木すみ江)が退院し、新しい患者が入院してくる。仕事からの帰宅途中に脳卒中を発症し、左半身が不随になった柘植(落合モトキ)。遥は初めて入院から退院までを担当することになる。「元の人生には戻れますかね?」と聞く柘植に、何も答えられない遥。日野課長(山中聡)と田口リーダー(板橋駿谷)の指導の元、現実と向き合う日々が始まる。
併映
映画『ガンバレとかうるせぇ』
■あらすじ
試合に勝っても褒められず、負けて責められることもない、そんな存在。山王高校サッカー部の3年生マネージャー・菜津(堀春菜)は、夏の大会に敗退したタイミングでマネージャーは引退するのが通例のなか、冬の選手権まで残ることを宣言する。しかし、顧問(ミョンジュ)からも部員からも必要とされていないことに気づいてしまう。一方、キャプテンの豪(細川岳)は、チームの要である健吾(布袋涼太)に夏での引退を切り出され、チームメートからの信頼の薄さも浮き彫りになっていく。刻々と近づく最後の大会を前に、菜津と豪は選択を迫られる。