初長編作となる「ガンバレとかうるせぇ」がぴあフィルムフェスティバル(PFF)で映画ファン賞と観客賞を受賞(2014年)、その後もさまざまな映画祭で高い評価を受けている佐藤快磨(たくま)監督の最新作「歩けない僕らは」が、11月23日より公開となる。回復期のリハビリテーション病院を舞台に、仕事で壁にぶつかる新人の理学療法士(宇野愛海)の姿を通して、人はどう生きるべきかを描いてく注目作だ。ここでは、「ガンバレとかうるせぇ」で女優デビューを果たし、今回4年ぶりに佐藤監督作に出演することになった堀春菜にインタビューした。
――出演おめでとうございます。久しぶりに佐藤監督と再会していかがでしたか?
ありがとうございます。佐藤監督の「ガンバレとかうるせぇ」に出演させていただいたのが6年前、今回の「歩けない僕らは」は2年前の撮影ですので、4年ぶりの再会でした。嬉しさもありましたけど、成長した姿をお見せできるのかな、という緊張のほうが大きかったですね。
――どちらも、役とご自身の年齢が近いですね。
はい、「ガンバレ~」は高3の役を高2の冬に、今回の「歩けない~」は、ちょうど大卒新人の役を、大学を卒業する年に演じましたので、その年代の感覚的なものはつかめたのかなと思います。
――「ガンバレ~」から、今回の「歩けない~」で役作りは変わりましたか?
そうですね。「ガンバレ~」の時はそれこそ、脚本を読むのも初めてだし、カメラの前に立つのも初めてで、何から手をつけていいのか分からなかったし、そもそも役作りって何?という感じでしたから。当時は、プロデューサーさんから菜津が普段聞いている(という設定の)曲を渡されて(6曲ぐらい)、ずっと聞き込んで、その曲を聞くことが菜津になるスイッチになっていました。いま思えば、あれが役作りだったのかなって思います。
――どんな曲だったのでしょう?
アップテンポなロック系の曲でしたね。こういう曲を聞いている女の子、という雰囲気を演じることが役作りにつながったのかな、と。
――では、今回の役作りはいかがでしたか?
幸子の役を考える上でまず必要だなと思ったのが、宇野さん演じる遥に、何を伝えるべきか、どういう影響を与える存在なのかっていうことでした。「ガンバレ~」の時は主人公でしたので、(自分が)何もしなくても周りが行動を起こしてくれたんです。でも、今回は立場が違いますので、(主人公にどう影響を与えるかという)攻めの姿勢で考えていきました。
――影響を与えるという意味では、登場シーンは少なかったものの強烈でした。
そうですね(笑)。遥とは同期という特別な関係でもありましたので、一緒にお弁当を食べているシーンでは楽しそうにしていますけど、実は内心では大きな悩みがあって、と。遥自身は不器用だけど、まっすぐに進んでいける女の子なので、そんな遥と自分を比較して、なんでもっと頑張れないんだろうって、どんどんネガティブになっていってしまうんです。
その後、公園で会うところでは、選択の成否ではなく、私(幸子)はそれを選択したけど、遥には遥の人生があるよ、という投げかけが出来たらいいなと思って演じました。悩んでいると、いろいろなことが分からなくなってしまうけど、こうする! と決めたことで心に余裕が生まれて、新しいことを考えられるようになる、そうした想いを伝えられたらいいな、と。
――堀さんとしては、幸子を演じて共感できる部分はありましたか?
私もずっと悩んでいますから、共感はありましたね。でも、私はずっと役者を続けていきたいって思っています。
――将来、演じてみたい役はありますか?
特にというのはありませんけど、子供たちに興味があるので、日本だけでなく、世界中の子供たちに、女優という仕事を通して、何かを伝えていけたらいいなと思っています。
――製作の方面は?
無責任にやりたいですとは言えませんけど、興味はありますね。役者だけでなく、いろいろな仕事の現場を経験していきたいです。
――ところで、今回宇野さんと初共演だと思います。当時の思い出はありますか?
実は、本番の現場で初めて対面をして、そのまま撮影に入ったんです。現場ではみなさん台本と向き合って役作りに集中していましたので、あまりお話する機会もなく撮影が終わってしまって……。終わってからようやくお話ができた、という感じなんです。
――今回、上映に向けた取材を通して、ご自身で成長したというのはありましたか?
私自身は、まだまだ必死なので、自分がどう変わったかは分からないですね。
――監督は?
「ガンバレ~」の時は、「俺はこの作品にかけているんだ」って何度も熱く言われて(笑)、情熱で走っているように見えましたけど、今回は監督らしいというか、ドンと構えた雰囲気を感じました。
――今回は、「歩けない~」と「ガンバレ~」が併映となります(※長野の上田映劇では「ガンバレ~」の併映はなし)。
5年前の作品まで含めて劇場公開していただく機会を得て、とてもうれしいです。まさに映画っていう感じですね。
――当時思っていた女優さんに近づけていますか?
女優というよりも、まずはきちんとした人間でありたいですし、日常生活をたいせつに生きていきたいです。
――作品を観る人へメッセージをお願いします。
この作品で好きなところは、登場人物それぞれが自分の人生を生きていこうと決めていていることなんです。事の成否ではなく、選択の結果を受け入れる、と。私は、この作品に出演させていただいたことで、自分は何をたいせつにしていきたいのかを、日々考えるようになりました。観てくださった方にも、私と同じように、日々をたいせつに生きてほしいなって思います。
――最近、ご自身で実践したことはありますか?
今年初めてカンボジアに行ってきました。小学生のころからずっと憧れていて、本を読んで国柄や歴史を勉強してきたので、実際に現地を自分の目で見ることができて、よかったです。
あと、台湾でいろんな国の人たちと一緒に舞台を作ったことは、役者としては大きな経験になりました。制作過程では通訳を介してのコミュニケーションでしたけど、本番ではもう、お互い言葉が通じなくても、パフォーマンスを通して、意気投合できたかなって思っています。
映画『歩けない僕らは』
11月23日(土)より新宿K’s cinemaにて公開他全国順次
出演:宇野愛海 落合モトキ
板橋駿谷 堀春菜 細川岳 門田宗大
山中聡 佐々木すみ江
監督・脚本・編集:佐藤快磨
配給・宣伝:SPEAK OF THE DEVIL PICTURES
公式サイトhttps://www.aruboku.net/
予告編 https://youtu.be/XMYY8cm-36E
(C)映画『歩けない僕らは』
■あらすじ
宮下遥(宇野愛海)は、回復期リハビリテーション病院1年目の理学療法士。まだ慣れない仕事に戸惑いつつも、同期の幸子(堀春菜)に、彼氏・翔(細川岳)の愚痴などを聞いてもらっては、共に励まし合い頑張っている。担当していたタエ(佐々木すみ江)が退院し、新しい患者が入院してくる。仕事からの帰宅途中に脳卒中を発症し、左半身が不随になった柘植(落合モトキ)。遥は初めて入院から退院までを担当することになる。「元の人生には戻れますかね?」と聞く柘植に、何も答えられない遥。日野課長(山中聡)と田口リーダー(板橋駿谷)の指導の元、現実と向き合う日々が始まる。
併映
映画『ガンバレとかうるせぇ』
■あらすじ
試合に勝っても褒められず、負けて責められることもない、そんな存在。山王高校サッカー部の3年生マネージャー・菜津(堀春菜)は、夏の大会に敗退したタイミングでマネージャーは引退するのが通例のなか、冬の選手権まで残ることを宣言する。しかし、顧問(ミョンジュ)からも部員からも必要とされていないことに気づいてしまう。一方、キャプテンの豪(細川岳)は、チームの要である健吾(布袋涼太)に夏での引退を切り出され、チームメートからの信頼の薄さも浮き彫りになっていく。刻々と近づく最後の大会を前に、菜津と豪は選択を迫られる。